第50話 VSズルドーガ②
まずい、いくら可動域が狭い腕があるとはいえ、四本の腕での力比べじゃ勝てるわけがない!
ミシミシと、俺のクリスタルブレイカーが悲鳴を上げる。
そもそも俺はパワータイプの探索者じゃない……<硬質化>が切れれば、俺の体自体がこいつの剣圧に耐えきれねえ……!
それまでになんとか受け流すしかないが……この状況自体が詰み見たいなところがあるっての……!
どうする……! 考えろ……!
俺は自分の持てるスキルを整理する。
分裂はまだ一体しか作れない。しかも、俺のスキルは分身に効果がない。というより、俺か分身、どちらか一方にしか発動できないのだ。
俺がスキルを発動すれば分身は動作だけを真似、分身にスキルを打たせれば俺は打てない。
つまり、今この状況で増やしたところで焼け石に水だ。
突撃はLvアップで相手をわずかに弾き飛ばすノックバック能力が付与されたが、それでも恐らくこいつの剣の圧を跳ね返せるほどではない。むしろ、突撃によってできた隙で一気に潰されるのが落ちだ、強いが隙がでかいから使い所が難しい。
闇火球は論外! 今の状態で打てば自分もろとも丸焦げ! こいつの剣と腕が邪魔すぎて顔や胴体を狙えねえ!
どうする、この手札で……!
「――なんて、言ってたら……ゲーマーなんてやってられねえよなあ!」
一か八か……これにかける。今のありったけを詰め込んだコンボしかねえ。俺の速度ならやれる……!
<突撃>のリキャストまで後――5、4、3、2、1……――今っ!
瞬間、俺は一瞬バックステップをし、体を左に75度回転させる。
『……?』
それは、ズルドーガでさえ予想外の動きだっただろう。そのわずかに生まれた余白で、一瞬ズルドーガの手が止まる。
0.2秒――。
<分裂>……!
最速でのスキル使用。リキャスト前からの先行発動で、最速で俺の右隣にまったく俺と同じ動きをするドッペルゲンガーが出現させる。
これで、わずかにズルドーガの剣からズレた位置に分身を出すことに成功。
0.34秒――。
一瞬で体制を立て直したズルドーガが、再び俺に迫る。耐えることを捨てた今の俺に当たれば一撃死だ。
迫る剣は、一瞬にして俺がバックステップで広げた距離を詰める。
0.43秒――。
ここで――<突撃> ……!
泥にまみれた床だろうが、どんな体制だろうが、スキルには影響はない。
俺は<突撃>スキルを自分の分身へと発動、強化されたノックバック能力を、思い切りズルドーガの腕の斜めから叩きつける。
正面からの力のベクトルでは無意味だろうが、角度をずらせばどうだ……!?
『あぁ――――』
腕は真横に人一人分ほどはじき出され、俺の前の視界がほんの少し開ける。
俺はすかさず、その手をズルドーガの顔へと向ける。
「<闇火球>――!!!」
放たれる、紫炎。
地獄の業火は、ズルドーガの顔にクリーンヒットする。
『あぁあぁああああああああ!! 忌々しい首なしの炎!! 貴様ああああ!!』
雄たけびを上げ、ズルドーガは後方へとのけぞる。
今のうちに、来栖を連れて距離を――
「――なんて、俺がするわけねえだろ! 追撃チャンス!」
俺はクリスタルブレイカーを握り直すと、泥の地面を一気に蹴る。
ズルドーガの右下の腕をつかみよじ登ると、腕を渡って一気にズルドーガに迫る。
今は視界がゼロのはず! 俺の攻撃は見えない!
「ふっ!!」
十字に剣をふるう。
それは、ズルドーガの胸に生えた触手ごと胴体を切りつけ、緑の血がわずかに漏れる。
硬い……! 今の俺じゃそもそも火力不足か……!
『忌々しい……闇魔剣士風情が!!』
ズルドーガは馬のような足を使い、一瞬で俺から距離をとる。
「逃げんの――」
瞬間、命の帯が俺の胴体を貫く。
「まずい!!」
違う、逃げるべきは……俺!
突撃はリキャストが間に合わねえ……!
俺は咄嗟に体を右に倒す。
しかし、僅かに回避が間に合わなかった左腕に、ズルドーガが放つデバフ付きの衝撃波が直撃する。
「ぐおっ……」
重い……! 感覚が消えた!? なんだこれ、まさか使用不可になるのか!?
「来栖!!」
慌てて来栖の方を見ると、来栖は地面に倒れ、指1つ動かせない状況となっていた。
まさか、こんなのデバフってレベルじゃねえ! ほぼ即死のクソギミックじゃねえか!
すると、またズシンズシンと、ズルドーガがこちらへと近づいてくる。
左手なし、来栖無し……面白くなってきたじゃねえか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます