第49話 VSズルドーガ①

「大罪も何も、そっちから引き摺り込まれたんだが……!」


 その威圧感は、デュラルハンを相手していた時に近いものを感じる。

 肌が焦げ付くようなチリチリとした威圧感。


 隣に立つ百戦錬磨のアイアンナイツに所属する来栖でさえ、唾を飲み込み、冷や汗を垂れ流しながら斧を持つ手が震えている。


「これが……嘆きの森のズルドーガ……!! まさに規格外! はは……ははは!!」

「おいおい、壊れちゃった!? 頼むぜ、ここからが本番だぞ」

「わかっている」


 すると、パン! と甲高い音が聞こえる。

 来栖が自分の頬を叩いたのだ。


「ふぅ……震えは止まった。彼我の力量さは不明。だが、やれるだけやるしかない……!」

「そう来なくっちゃ。敵が強い方が燃えるのがゲーマーだ」

「これはゲームじゃない……が、今はそれくらいの気持ちで戦わないと飲み込まれそうだ」


 俺は改めてズルドーガを見る。

 四足歩行に四本腕。胸には触手。


 やはり、あの足を活かした機動力で俺たちを追い詰めるスピードタイプと見た。だが、スピードタイプはパワーがないと言うのが創作の定石だけど……あの逞しい腕に触手だ、パワーも申し分ないだろう。


 すると、一瞬ズルドーガが光ったかと思うと、その四本の腕にそれぞれ剣が現れる。


「四刀流……!」

「パワーも手数もありと……なかなかスペック高そうじゃん!」


 俺は剣を構える。

 いくらスキル以外、自身の才能や技術で戦闘が進められると言っても、それはあくまでデュラルハンのような人間サイズだったからできたことだ。


 あのデカさのモンスター相手に、俺のレベルで剣が通るのかは、やってみないとわからない。


 すると、ズルドーガがゆらりと揺れる。


「——来るぞっ!!!」

「まずは様子見だ、おそらくこのエリアでは死ねない!! セーフティに行け!!」


 瞬間、ズルドーガが四本の腕を振りかざし、襲いかかる。

 四足での走り方はまさに馬のようで、その加速力は凄まじい。


 それなりの距離があったはずだが、すでに眼前に迫っていた。


「俺に任せろ……! 後ろに回れ!」


 来栖は前に立つと、斧を縦に持ち体の前で構える。


「<栄光の盾>!!」


 すると、来栖の前に黄色い盾が形成される。

 その大きさは、俺たちをすっぽりと包むほどの大きさだった。


「これは!?」

「絶対物理防御の不落の盾だ! 戦士ジョブの最上スキル! まずはこれで防ぎ切る、お前はその隙にあいつの行動パターンを分析しろ!」

「任せろ!」


 よく見ろ、よく見るんだ!


 瞬間、ズルドーガの剣が栄光の盾に振り下ろされる。

 しかし、それは来栖の予告通り、完璧に剣を弾き、ズルドーガをわずかにのけぞらせる。


「すげえ……!」

「感心してる場合か! 一定ダメージまでは防ぎ切るが、この威力なら長くは持たん!」

「わかってるって!」


 ズルドーガの剣は本当に圧がある。

 振り抜くたび、突風のような風が吹き抜ける。


 だが、見る限りかなり単調だった。腕が四本あり、確かに攻撃頻度は向上しているが、その分腕の可動域がどうしても狭く、下の二本は上の二本が邪魔で、十分な威力を出せていない。


 狙うなら上を回避し後の下! あの剣速なら問題なく避けられる!


『<懺悔>』


 すると、その剣の周りに紫色に光る何かがゆらゆらと出現する。

 それはまるで炎をまとっているようだった。


「炎の剣……?」

「だとすると、切れ味が向上している可能性がある……! 油断するな、剣で受けると切断される可能性があるぞ! 任せろ、まだ数発なら俺の盾が防ぎ切れる!」


 振り抜かれるズルドーガの刃。

 それは、今までと違いかなり緩やかな速度で振り抜かれる。


 その剣に違和感を覚えた。剣にまとわりついている炎が、それ単体で動いているように見えたのだ。


「待て来栖! 避けろ!」

「何——」


 ズルドーガの剣が、来栖の盾に防がれる。

 しかし、剣の周りについていた炎のようなモヤが、その盾を貫通して来栖を包み込む。


『<贖罪>』


「来栖!!」

「ぐおぁ……!」


 来栖はその場にしゃがみこみ、目の前の盾は消滅する。

 

「これは……デバフ!? まずい、体が……!」


 そこを見逃さず、ズルドーガは四本の剣で来栖に襲いかかる。


 <突撃>……<硬質化>!!


「オラァあ!!」


 キン!! と甲高い音が響く。

 俺は来栖の前に瞬時に飛び出すと、ズルドーガの剣を受け止める。


「ぐっ……重い……!!」

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