第48話 大罪
瞬間、空間を横断するように、衝撃破のような紫色の波動が迫る。
「くっ!?」
俺たちは咄嗟にジャンプで躱す。
広範囲にわたるそれは、泥のゾンビたちを次々と切断していく。敵味方関係ない、全方位への一斉攻撃。
切断された泥のゾンビたちが、次々と地面に倒れこんでいく。
「まずいぞ、一気に足場を悪くされた……!」
次々と切断された泥のゾンビの身体がそのまま泥となる。
大量に居た分その泥の範囲は甚大で、見える範囲全てに正常な地面は存在しなかった。
まさかこれが狙いで泥ゾンビたちを大量に生成していたのか?
いや、そもそもこのゾンビ自体の攻撃力が異常に高かった。むしろ、俺達が第一フェーズを突破したと考えるべきか。つまり、ここからが第二フェーズ。泥を広範囲へ展開しての強制デバフバトル。
「にしても、お前よく気が付いたな」
「感覚が研ぎ澄まされてると見えるんだよね、脅威が」
「なに? スキルか?」
「いや、スキル欄にないからそう言うのではないと思うけど」
「……まあいい、今はこの状況だ」
まだ周りは闇に包まれ、俺が灯した光だけが頼りだ。
フェーズ2に移行したなら、ズルドーガから何かアクションがあるはずだ。それを見逃さないように、体制を崩してはいけない。
と、その瞬間。
俺は正面にぼんやりと灯る光を見つける。
「……光だ。俺が灯したものと違う」
「始まるか」
次の瞬間、その光を挟むように、左右にも同じように光が灯る。
そして、それが次々と連鎖していく。
光りがともる度、その周囲が明るく照らされていく。
その光はものすごい速さで連鎖的に灯っていき、気が付けば俺達をぐるっと囲むように円形に灯る。
そうして、闇だったその空間に丸いフィールドが現れる。
そこでようやく、このエリアがどういうものだったか気が付く。
「おいこれ……円柱か!?」
「光の奥は奈落……ぽいね」
光で照らされてはいるが、それは手前だけ。奥にはまだ闇が残っていた。
それは、その先は永遠と続くことを意味する。それは壁だけでなく、地面も同様だった。
闇の中に浮かぶ円柱状の塔。その屋上に俺たちはいるということだ。
「じゃあ、逃げ場は無しって訳だ。やっぱ、倒すしかないようだぜ?」
「……かもな。だが、戻ってきていない探索者が居たろ。ただ死んでも戻れないのは確実だ、用心しろよ」
「当然……!」
一歩外に踏み出せば奈落の底へ、しかも足元は泥でぬかるんでいる。
あらゆる動きを制限されてしまった。
しかも、戻ってきていない探索者という事実から、デッドラインを適用させない何らかのギミックが存在していることになる。
探索者のレベルが分からないから、もしかすると泥のゾンビにやられた可能性もあるが……すべてのスキルに警戒するしかない。
「逃げられない檻に足場の悪い泥の泥濘……。フィールドを変化させ、まるで土俵のようなエリアを展開するボスなんていまだにあったことがない」
「それが王ってわけね。ここからが本番ってことだ」
「――まて、来るぞ……上だ!!」
瞬間、頭上から高速で何かが降ってくる。
それは、俺達から50メートルほど離れた前方で激しい音と共に着地すると、ゆっくりと立ち上がる。
その姿は、異様だった。
デュラルハンと遭遇したことがあるから、てっきり王とは人型なのだと勝手に錯覚していた。
しかしそれは、とにかく異様だった。
足は四本あり、その分胴体は分厚い。
胴体から四本の腕が伸び、更に胸の部分から俺達を引き釣り込んだであろう黒い触手がうねうねと生えている。
頭は小さく、その額からは一角獣のような立派な角が伸びる。
馬……ケンタウロス……タコ……。
どれとも形容しがたい、漆黒の姿をした魔物だった。
俺たちはその圧に、思わず固唾をのむ。
『あぁ……嘆かわしい。我が安寧を乱すのは大罪と心得よ』
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