第46話 嘆きの声
闇の中に浮かぶ瞳。それは、じっとこちらを見つめていた。
俺も来栖もわかっていた。これは観察されていると。動けば、相手に情報を与え、そして先手を取られてしまう。
沈黙が続く。
少しして、その緑の瞳はすぅっと闇へと溶けていく。
「……行ったか? ……行った様だな」
ふぅ、と来栖は息を漏らす。
「何だありゃ? この空間の主には違いないだろうけど……」
「八王の一角……”嘆きの森のズルドーガ”で間違い無いだろう。恐ろしいほどのプレッシャーだ……」
「あれが……。というか、まさか暗闇マップでの戦闘か? 難易度高めだな」
<蛍火>があるとはいえ、それが照らしているのはせいぜい半径10メートルほど。
そこから先は闇が広がっている。
「ここは協力した方が良いとみるが、どうかな?」
来栖は視線をこちらへ向けず、闇をにらみながら言う。
「賛成。まずはあいつを倒すのが先決だ」
「逃げるのが先決だ。聞いてないか? このエリアで2人行方不明がいる。遡ればもっとだ。こいつが引き金だとすれば、奴はデッドラインを超える何かを持っている。情報なしでいきなり攻略とはいかない」
「アイアンナイツはやけに逃げ腰なんだな」
「堅実かつ確実に。それがアイアンナイツの鉄則だ。情報を持ち帰り、討伐隊を組んで仕切り直す」
言っていることはわかるが……やっぱり俺は戦いの中で攻略法を見出したい。
「協力はするけど、俺はここでこいつを倒すぜ。ここで逃げたらゲーマーの名が廃る!」
「まだそんなことをいうやつがいたか。ダンジョンは現実だ、ゲームじゃない。死ぬぞ、そんな覚悟だと」
「はいはい。だけど、情報を持ち帰るにしても、出方すらわからない闇だ。骨が折れるぜ」
「仕方あるまい。ここで俺たちがデッドラインを超えて死ぬか、外に出られるか、その二択だ。俺は探索者となった日からその覚悟でいる」
「倒すって選択肢も入れておけよ」
まったく……と、来栖はため息を漏らす。
実際のところ、倒せるまで行けるかは微妙なところだ。デュラルハンでさえ、逃したようなものだ。
だからこそ、ゲーマーの血が騒ぐというものだ。
俺のスキルは恐らく来栖の足元にも及ばないだろう。戦闘センスだけでどこまでくらいついていけるか。
「あぁぁぁあああ…………」
不意に呻き声が空間に響く。
甲高い、まるで合成音声のような、神経をなでるノイズ。
それは、何かに後悔しているかのような、嘆きの声にも聞こえる。
来栖は改めて斧を構え直す。
「……距離を離すな、攻撃に対応できるよう一定の距離を保て」
「あぁ」
「確定したみたいだな。こいつは確実にズルドーガだ。お前が来た途端これだ、やはり何か知ってるのか?」
「しらねー」
だが、さすがにしらを切れるような現象ではなかったか。
俺のペンダントが光り、棺が現れ、開き、そして引きづりこまれた。誰がどう見ても、俺がきっかけだと思うだろう。
デュラルハンに認められたからか? あの言葉は、やっぱり俺をここに導くためだったのだろうか。
「まあいい。八王に会えた以上、文句はない。攻撃を何とか受け流しながら、脱出方法を探る……!」
「好きにしな。もう一度来れるかわからねえんだ、俺はここでこいつを倒す!」
俺はクリスタルブレイカーを構える。
闇の中から、絶えず聞こえてくる嘆きの声。
その声は、女性のようにも聞こえる。
すると、突然発狂したかのように叫びだす。
「あああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!」
「!!」
空気が震える。
「あぁ、嘆かわしい……嘆かわしい……」
すると、来栖が唖然とした表情を浮かべる。
「しゃ、しゃべったぞ……!?」
「え、普通だろ?」
「ふ、普通じゃない!! いいか、このダンジョンで人語を話すモンスターなど一匹もいない!! 亜人種もいないんだ、言葉が通じるわけがない……! 俺たちがいる最前線だって、まだそんなモンスター出現したこともない!」
来栖は冷や汗のようなものを流し、ごくりとつばを飲み込む。
デュラルハンが最後にしゃべったし、なにより戦闘に意思を感じたから特に気にしていなかったけど……確かに八王だけが言葉を話せるというのも不自然か。
「元人だったりして」
「B級ファンタジーのようなことを言うな……」
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