第45話 棺の中

 俺は棺の中で放り投げだされ、地面に倒れていた。


「ってぇ……」


 体を起こし、シーカーを開く。


[ステータス]

 Name:テンリミット

  Job:闇魔剣士

 Level:10

 HP :1150/1250


[スキル]

 <突撃>Lv5

 <闇火球>Lv2

 <分裂>Lv1

 <硬質化>Lv1


「100ダメージか……あの黒い触手みたいなものは攻撃のためのスキルではなかったってことか」


 辺り完全に暗闇だった。

 何も見えない。あの墓地の下にこんな空間が広がっているとは。


 上を見上げてみるが、入ってきた入口の様なものも見えない。


 俺はとりあえず上に向かって<闇火球>を放つ。


 ボォ! と紫の光が灯り、それが周囲を照らしながら上へと突き進んでいく。


 しかし、その火球は天井と呼べる行き止まりに到達することなく、そのまま光が豆粒ほど小さくなるまで燃え続けていた。


「…………」


 俺は次に横に向かって<闇火球>を放つ。

 だがこれも同様で、どこまで行っても壁はなようだった。


「前言撤回だな。ここは地下じゃなくて、何らかの異空間とみるべきか」


 だとすると、あの俺を引き込んだスキルこそが、対象を異空間に引き釣り込むスキルだったという訳か。


 出口も見当たらないとなると、自力での脱出はかなり難しいか。

 いや、どんな敵だって必ず攻略方法はあるはずだ。空間の主を倒す、何らかの条件を達成する……いいね、ワクワクしてきた……!


 と、その時。

 真後ろからコツっと何かの物音がして、俺は反射的にクリスタルブレイカーを抜き、振り向きざまに剣を振り下ろす。


「ッ!?」


 カン!! と何かに弾かれる音。


「よ、よせ俺だ、来栖だ!」


 来栖は俺の剣を受け止めた斧に力を籠め、俺の剣を弾き返す。


「なんだ、斧のおっさんか」

「来栖だ。……だがまさか、あの棺の中に引きずり込まれるとはな」

「ここから出る方法、知ってる?」


 しかし、来栖は頭を振る。


「自慢の情報部隊で情報集めてないのかよ」

「八王関連は完全に情報不足だ。君の聞いたデュラルハンの言葉が本当なら、ここは恐らく嘆きのズルドーガのテリトリー……俺たちは招かれたようだ」


 ランダムで二人だけを引き摺り込んだ?

 いや、そんな大雑把な挙動をするわけがない。確か、シズネの時も二人だったか。


 あっちはそもそも二人しかいなかった訳だが、偶然同じ人数という訳でもないだろ。てことは、何かを見て俺達を選んだんだ。隠しステータスでもあるのかね。レベルで言えば俺はユキより格下だし。


「とにかく、この暗闇を探索するしかないな。<蛍火>」


 すると、来栖の肩の上あたりに、炎が浮かび上がり、周囲を僅かに照らす。


「あ、それユキが使ってたな」

「は……? まさか君、使えないのか?」


 俺は頷く。


「初心者というのは本当らしいな……。探索者の基本スキルだ、一層のマイニングラビットが魔技石スキルストーンを落とす。それくらい備えておけ」

「そうなんだ、情報ありがとう。けど、俺の方はそう簡単に渡せないぜ?」

「承知している。初心者に情報提供するのはベテランの務めだ」


 来栖は斧を肩に担ぎなおしながら言う。

 どうやら少し上から目線なだけで、悪い奴ではないようだ。俺もゲームでは良く初心者に施したりして遊ぶこともあったもんな。特に対人のゲームなら人口こそが正義だし。


 その点ダンジョンは資源の奪い合いのはず。人口が多くてもメリットはあまりないはずだが……そこは大人数をまとめるアイアンナイツならではの考え方なのか、それとも探索者が多ければ多いほど、俺の様に情報を得る奴が現れる確率が高いから、そこから得ればよいという考えなのか。


「意外といい奴だな、あんた」

「アイアンナイツとはそう言う物だ。気になるなら、君の情報と引き換えにアイアンナイツに――」


 瞬間、さっき感じたのと同じ寒気を背筋に感じる。


「「!?」」


 そこに、何か居る――!


 暗闇の中に、緑の光が二つ、ぼうっと浮かび上がった。

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