第44話 黒棺

 俺は服の中からペンダントを取り出す。

 それは、金色の光を放ち、煌々と輝いていた。


「……これって前言ってた?」


 ユキが恐る恐る聞く。


「あぁ、デュラルハンがドロップしたアイテムだよ」

「な、なんで光ってるんだろ?」

「わからねえ……けど、こりゃ何かあるぞ!!」


 すると、さっきまでとは打って変わり、来栖が目を見開き近寄る。


「な、なんだこのアイテムは!?」

「だめ!」

「!?」


 ユキは企業秘密だから! といって来栖から俺を引き離す。


「いいじゃん、ちょっとくらい」

「だめよ、いい? 八王は、これまで正体すらわからない不明の存在だったのよ。それが……テンリミ、あなたがデュラルハンを退けたことで一気に動き出した」

「そうなの?」

「えぇ……確実にあなたは今台風の目よ。簡単に情報を渡しちゃダメ」

「それもまた面白そうじゃん」

「もう……」

 

 ユキはあきれるように肩をすくめる。


 八王のデュラルハンが落として、しかも効果はいまだ不明だったペンダント。

 絶対に何かあると思っていたけど……まさかこんなところで光るとは。


 やっぱ、八王に関連するアイテムなのか?


「光ってはいるけど、なにも反応はないわね」

「あぁ。これが何かの鍵になってるのか、あるいはただの探知機的なものなのか」

「探知機?」


 俺はうなずく。


「ほら、何かが近づくと光って知らせてくれるみたいな。ダウジング的な?」

「ということは、八王に関連した……?」

「おそらく」


 ユキはごくりと唾を飲み込む。


 俺はペンダントを掲げてみる。

 その光は相変わらずまばゆく、だがしかしその用途はいまだ不明だった。


「ふん、まあいい。俺たちは探索に戻る--」

「「!?」」


 瞬間、まるで体中を地面に押さえつけられるようなプレッシャーを感じる。

 ぞわっと背筋をなぞり、耳元でささやかれるような恐怖感。


 明らかに空気が変わった。


「ね、ねえ……あれって……」


 ユキが指さす先あったのは、棺だった。

 真っ黒く塗り固められ、まるで森の中にぽっかりと穴があいたと錯覚するかのような黒棺だ。


「黒棺……!?」


 俺の驚嘆した声に、ユキが振り返る。


「心当たりが……!?」

「”砦の門は開かれた。闇を統べ、黒棺の嘆きを聞け”……そう、デュラルハンが言い残してたんだ」

「嘆きを聞け……まさか!?」


 来栖は慌てて斧を構える。


「な、なに!? 戦闘!?」

「嘆き……つまりこいつは、”嘆きの森のズルドーガ”……八王だ!!!」


 瞬間、わずかに開いた棺の中から黒い何かが伸びる。

 それはユキをとらえようとしていた。


「ユキ!」


 俺はユキを押しのけると、代わりにその何かにつかまれる。


「ぐっ……!」


 冷たい、しかも力強い!! スキルか!? 強制力がある……!


「テンリミ!!」


 声を張り上げるユキ。その奥では、来栖もまたその何かにつかまれていた。


 その何かは勢いよく棺へと戻り、それにつられるように俺たちもその中へと引きずりこまれていく。


「必ず戻る、待ってろ!!」

「テンリミぃぃぃ!!!」


 閉まりゆく棺。そのわずかに漏れる隙間からユキたちを見届け、強い意志で言葉を放つ。


 そうして、俺たちは黒棺の中へと引きずり込まれた。

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