第43話 アイアンナイツ②

 神の尖兵か……だいそれた名前だな、まるでシステム側のボスみたいな名前だ。


 まあそれよりも、今は目の前のアイアンナイツだ。


 以前やってたMMOのファンタジーアースでもそんな感じのでかいギルドがいろいろとサーバーを仕切ってたっけ。

 このゲーム……ダンジョンにもいろんなクランがあるって訳か。


 俺は改めてアイアンナイツに視線を移す。


 アイアンナイツ……確かにオーラがあるな。

 固まって何かを調べている連中は、全員が同じ黒を基調とした鎧を身にまとっている。


 全員がナイトって訳でもないだろうし、共通装備って感じか? くそ、かっこいいな……!


 俺は思わずじゅるりと垂れるよだれをぬぐう。


「まあ、とはいえ神の先兵とか他のクランに比べれば優しい方よ、アイアンナイツは。規模が大きいだけあって周りからの目も気にするから、手荒なことはしないわ」

「ふーん、じゃあ遠慮なく俺たちもこの辺りを調べさせてもらおうぜ」

「そうね、こんな特異なエリア、怪しいに決まってる」

「うん……お願いします……!」


 俺たちは石造の道を進み、アイアンナイツの脇を通り抜ける。

 すると――。


「ユキ……? なぜこのようなところに」

「え? あっ……来栖!?」


 ユキが驚いたような表情を浮かべる。


 一番大きな背をしたアイアンナイツのメンバーが、ユキを見て声をかける。

 長髪に切れ長の目。ゲームならエルフと思うような容貌だ。


「3層に用はないだろ?」

「ま、まあ、そうなんだけど……ちょっとこの子のお手伝いにね」


 ユキは隣のシズネを指さす。


「この子は……そうか、ゲート前で助けを求めていた少女か。ユキらしい。で、そっちの少年は……ん? まさか、君は……」


 来栖は、こっちを見ると急に目を血走らせる。


「え、なに、知り合い?」

「ええ、この人は来栖さん。唯一アイアンナイツで知り合いなんだけど、普段はもっと最前線にいる人だからまさかこんなところにいるなんて……」

「いや、そんなことより……お前、テンリミットか?」

「そうだけど……」


 瞬間、来栖は一気に距離を詰め、俺の肩をつかむ。


「っ!? 手荒なことしないんじゃなかったのこの人たち!?」

「く、来栖さん!?」

「君がテンリミだろ? ディラルハンと打ち合った新米探索者。ユキの配信で見たよ」

「なんで名前まで知ってるんすか」


 俺は来栖が掴んだ手を払い距離を空ける。


「……我がクランには情報部隊もあるからね、君がその後どんな活躍をしていたかはある程度把握しているよ」

「まじか……」


 そこまでがちがちなのかよこのクラン!

 

「そこでだ、どうだ、君の持っている情報を私たちに提供する気はないか?」

「はあ? なんだ、いきなり。なんでだよ」


 来栖は当然といった様子で提案する。


「もちろん報酬は弾むよ、君個人が持っていてもその情報は持て余すだろ? 新人の君が抱えていても意味のないものだ。それが大金になるんだ、良い話じゃないか?」

「はぁ!?」


 かっちーん、と頭の中で音が鳴り響く。

 久々にイラっと来たぜ。


 この俺が持て余すだぁ!? 


「なめたこといってくれるじゃねえか……!」

「ん? あぁ、いや、怒らせるつもりはなかった。俺たち強いものが、君たちのような一人でなかなか上手くいかない探索者から情報を買う。お互いwin-winの良い提案だと思ったんだが」


 こいつ、素で俺の事なめてやがる……! 

 しかもそれがナチュラルに、純粋にそう思い込んでるところが気に食わねえ!


「お断りだね、俺は自分の力で攻略するんだよ」

「なんだ、報酬がもっと欲しいのか? なんならクラウドナイツの探索部隊にスカウトしてもいい」

「そういうことじゃねえよ! 気に食わねえぜ、その自分たちが絶対みたいな言いぐさ!」

「事実だ」


 あーなんか話通じねえこいつ!


 すると、ユキが一歩前に出る。


「テンリミはそこらのソロとレベルが違うわよ」

「違うといってもなあ、結局スキルとレベルが重要な世界だ。見たところその水晶の剣もそれほど上等なものじゃないし、レベルもそれほどだろう?」

「テンリミはすごいのよ、あまりなめない方がいいわよ?」

「やけに肩を持つな。まあ別に良いが……。理解に苦しむが、君の気持ちは理解した。君の気が変わるのを待つとしよう。情報部隊にもそう伝えておく」

「脅しかよ……」


 なんかだいぶ厄介な組織に目を付けられちゃったか? 俺。

 いや、気が付かないだけで元からか……。


「それより今はこれだ。君たちもそうだろう?」


 来栖は足元を指さす。


「第三層、ヤタの森北東部に広がる墓地エリア」

「そうね、この子の仲間を見つけてあげるって約束したから」

「……俺たちの探索部隊がいろいろと試したが、何も起こらなかった。八方ふさがりというやつだ。どうやら八王というのは簡単には姿を現してくれないらしい」

「ここであってるのか?」


 シズネがうなづく。


「この辺りを割り振られてたはずなの。グールが出て経験値効率も良いから、率先していきたいって……」

「グールも一筋縄ではいかない。普通にやられたんじゃないか?」

「まだデッドラインじゃないから、戻ってきてないのはおかしいの」

「まあ、とりあえず探索してみないと――」


 瞬間、ぴかっ!! と何かが光る。


 なんだ、足元!?


 と下を見下ろすと、光っていたのは自分の胸の部分だった。


「まさか……!?」

「おい、なんだそれはテンリミ!?」

 


デュラルハンのペンダント……!?

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