第36話 抜けた先
「シャアアア!!」
全長3メートルほどの蛇型モンスターが、その長い紫色の舌をちろちろと波打たせながら、俺の首目掛けて鋭い攻撃を繰り出す。
大きくあけられた口からは鋭い牙がキラリと光る。
「よっ……!」
俺はグイっと上半身を横に曲げ蛇の攻撃を避けると、瞬時に剣を振り上げる。青白い、クリスタルのような剣だ。
振り上げた剣は伸びきった蛇型モンスターの胴体をスーッと通り抜ける。
「シャ――――」
威勢よく声を上げていたその蛇は、一瞬にして生命を途絶えさせると、空中で光の泡となって消える。
だが、気を抜いてはいられない。
茂みの中には、黄色く光る双眸が、無数に浮かび上がる。
飛び出した蛇のやられ様を見守っていた残りの蛇型モンスターたち。
「キリがねえ……! くそ、やっぱりトラップかよここ!!」
一層の出来事が頭をよぎる。
あぁ、あれもそういや探索しすぎて変な細い道から落ちたんだっけ。
探索したい派のアクションRPGプレイヤーからしたら怪しいところは突き進んじゃうよなあ! 宝箱あるかもしれないし!!
三層を彷徨っているときに見つけた小さめの洞穴。絶対何かあると思い、俺は意気揚々と入り込んだ。
人気のない雰囲気にワクワクを抑えられずズンズンと狭い岩肌の暗い道を進むと、開けた広場に出た。
そこがここ。当たりが茂みに囲まれ、そして溢れ狩るような蛇のモンスターの群れ。ここで何人もの探索者が命尽きたのは想像に難くない。
「「「シャアアアアア!!!」」」
四方の茂みから、一斉に蛇が飛び出してくる。
本物の蛇何て比べ物にならない程の速度と脅威。だが、今の俺の知覚ならば、その動きは簡単に捕捉できる。
剣を改めて立て、体を倒すようにして右側へと振りぬく。
「――――」
蛇の口を垂直に切り裂くように剣が差し込まれ、蛇の胴体が左右に分離していく。そのまま尻尾まで駆け抜けた剣を、横薙ぎに振るう。
「うおおおおあああ!!」
1匹、2匹……5匹!!
一振りで次々と切り裂いていく。視界の隅に映る次弾の蛇たち。そこに向けて俺は手をかざす。
「<闇火球>!!」
遠くにいる蛇は、優先的に炎で燃やしていく。後手に回れば一気にやられる……! 先手必勝、相手に主導権は握らせねえ!!
「シャアアア!!」
攻撃を耐え抜いた赤い目をした蛇が、俺に向けて大きく口を開く。舌を波打たせながら、そして大きく口を開ける。
その口から放たれるのは……毒!!
「やばっ!」
咄嗟に<突進>を発動し、瞬間的に距離を離す。
俺の元居た場所には紫色の液体が噴射され、ドロッと地面を溶かす。
当たったら相当ヤバイ……が、この程度の範囲と速度なら恐れる必要はない。
「おらああ!!」
再び距離をつめ、蛇の頭を上から突き刺す。
そして、剣を思い切り引き抜き、返す剣でそのまま胴体を切り裂いた。
「シャアアア!」
今度は左側の茂みから蛇が飛び出してくる。
目が赤い……そしてこのモーション! 赤い目の蛇は毒持ちか……!!
「<闇火球>!!」
右の茂みに闇の火をお見舞いする。
燃え上がる茂みは、不思議と延焼はしない。これが普通の火と違うところだ。
そして俺は残った蛇を一掃するため、剣を上段に構える。
「せっかくだ、新しいスキルを試してみるか」
俺は、手に持った剣を切っ先を前にして顔の横に構える。そして。
「<太刀風>!!」
瞬間、高速の突きが繰り出される。
その突きによって発生した衝撃波の渦は、まるで嵐のようにぐるぐると回り、瞬く間に俺の周りの蛇を飲み込む。
剣を中心とした範囲攻撃。
威力はそこまで無いが、吹き荒れる風に体重の軽い蛇たちは空中へとふわりと浮き上がる。そこへ、俺は指をさし照準を合わせる。
「<闇火球>」
空中に放り出され逃げられない蛇は、俺の闇の炎によって跡形もなく燃え尽きた。
そうして、久しぶりの静寂が訪れた。
◇ ◇ ◇
「さて、レベル上がったかなっと」
俺はステータスを開く。
[ステータス]
Name:テンリミット
Job:闇魔剣士
Level:10
HP :1250/1250
[スキル]
<突撃>Lv5
<闇火球>Lv2
<分裂>Lv1
<硬質化>Lv1
「お、1レベル上がってる! HPがちょっと増えたか。まあ、俺にはあんま必要ないけど」
少し上がったHPを眺め、改めて持っているスキルを確認する。
見慣れたスキルの中に一つ、新たに加わったものがある。
「<硬質化>……か。あのフィールドボスから手に入ったスキルだけど、いまいち使いどころがまだないんだよなあ」
身体の部位を一か所硬化出来るスキルだが、基本剣で戦い、防御よりも回避を優先する俺の場合あまりその恩恵にあずかれていない。
まあ、<突進>の前例もあるし、きっといい感じの応用方法が見つかるか。
「さてと。結局ここはどこなんだ? 特に宝箱みたいなのもないし……」
俺は周囲を探索して回る。
洞窟のような道から出てはきたが、どうやら行き止まりという訳ではないらしい。
森ダンジョンだから、洞窟みたいにルートが限定されているというわけじゃないっぽいな。ここもきっと他のルートからでも来られる場所ってことか。
「なら、戻るより先に進む方が面白そうだ」
俺はぐいぐいと先へ進んでいく。
しばらく茂みを抜け、少し開けた所に出ると――。
「おお、何か広いところに――って、おいおい……なんだこれ?」
俺はその光景に思わずハッと息を飲む。
それは、明らかに何か戦いがあった跡だった。
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