第三章 棺から伸びる手
第35話 深き森
「うーん、後は……何がいるかな」
俺は並べられた商品をじーっと見つめながら、うんうんと頭を巡らせる。
次は三層だから、確かも森って言ってたか。
水分とかたいまつとか必要最低限のものは購入したから、あとはそうだな、虫除けとかか? けど、ダンジョンのモンスターに虫除けとかって効くのか?
とりあえず手に取ってみるが、どうもダンジョン産だったり、スキルで作ったようなものには見えない。これ、普通に外で仕入れてきただけだな。
今日は日曜日で、池袋ゲートの前に広がる市場は普段以上に賑わっていた。
俺は夏休みだから毎日が日曜日だが、探索者には普段は仕事をしている人もいるらしいから、そういう人が一挙に押し寄せてきているみたいだ。確かに平日より平均年齢が上がっている気がする。
俺がダンジョンに潜り始めてからはや一週間。
俺は順調にダンジョンを攻略していた。いきなり最強の敵であるデュラルハンと遭遇したり、フィールドボスを倒したり、結構刺激的なゲームライフ——もといダンジョンライフを送っている。
これも茜が俺にユキの動画を見せてくれたおかげだな。
クリスタルゲイザーとの戦闘後、俺はサクッと二層を攻略した。
あの蟹がなかなか手強かったからボスにも期待したけど、それほどでもなかった。
そして、俺は今日から三層の攻略を始めようとしていた。
三層——「深き森」。
噂によると、その名の通り森がかなり深く、その全容はいまだにわかっていないらしい。未踏派エリアがあるということだ。
つまり、何かユニークなスキルとかが手に入る可能性がまだあるってことだ!
すでに特殊なジョブである「闇魔剣士」を手に入れているが、いくらあってもいいからな!
「坊主、最近毎日きてるな」
店主の無精髭を生やした男が、顎を撫でながら話しかけてくる。
何度も利用してはいるけど、顔を覚えられる程じゃないはずなんだが。
「よく分かりましたね?」
「そりゃそうだろう! 大抵の学生探索者は冷やかし程度に1、2回来て挫折して辞めちまうからな。一週間近くも毎日来てりゃあ、いやでも顔を覚えるぜ」
「そういうもんすか。俺は楽しかったから続けるだけっすよ。夏休みだし――あ、これも買っていいっすか?」
俺は店先にあるHP回復用の瓶に入った液体を指差す。
この間みたいにモンスターに襲われている奴がいないとも限らないからな。俺はダメージは受けない前提で動くからそこまでいらねえけど、見捨てるのもなんか後味悪いからな。
「まいど! まだデビューして1週間も経ってねえだろ? どこまで攻略したんだ?」
「二層っすね。次三層」
「そうか、三層か――ってはあ!? もう三層まで行ったのか!?」
店主は驚いて目を見開く。
俺はとりあえず頷く。
「おいおい……最速記録か……? いやまあパーティでってんなら分からなくもないが……ソロだろ? ……どのみち、あんたはすぐ有名になりそうだな。名前は?」
「テンリミットっす」
「! ネットで見たな……な、なんかいい素材あったらうちに納品してくれよな! 割高で買い取るぜ!」
店主はにこやかな笑顔を見せる。
ネット……この間茜から連絡きてたやつか。俺も有名になってきてしまったか。そういう願望はほとんどないんだけどな。まあ、探索が有利になるならやぶさかではない。
俺はとりあえず静かに店主と握手を交わす。
まあ、気が向いたら持ってこよう。
◇ ◇ ◇
「うっし、新しい階層だぜ!!」
黒い渦に飲み込まれ、俺の体は新しい階層へと投げ出される。
瞬間、肌を覆う温暖な空気。水晶洞窟のひんやりとしたものとは真逆の環境。
そして、聞こえてくるのは鳥や虫の鳴き声。
「すげ〜まじで森じゃねえか、どうなってんだダンジョン!!」
見渡す限りの木々。
飛び出した先は先駆者が刈ったのかそれとも元からこうなのかは不明だが、草が刈られ地面が剥き出しになっており、少し広めの広場のようになっていた。
そして、パッと見回すだけかなり多くの探索者がいた。
「日曜日だからか? いや、でもそれにしても多いな……」
よくみると、その装備はかなり強そうに見えた。
光輝く剣や鎧。上等な布で作られたであろうローブや大木を切り出したような杖。
明らかに下層でうだうだしているような探索者じゃなさそうな人たちがちらほらといる。
「この階層に?」
「あぁ、何人か消えてる」
「それが関係あるのか?」
「あぁ、攻略系のクランのいくつかが——」
なんて会話をしながら、何人もの探索者が森へと消えていく。
どうやら何かこの階層にあるらしい。
——だが。
「ま、俺には関係ねえ。サクッとこの階層もクリアして、四層に探索拠点作るぞ!!」
この時の俺はまだ知らなかった。
まさかこの階層で、最強の一角であるクランのトップメンバーと背中を預け合い圧倒的脅威と戦うことになることを。
呑気に探索を楽しもうと、俺は森へと入っていった。
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