第31話 バズった?

「わーすごーい! すごいすごーい!」


 えりぴよはまるで子供のようにピョンピョンと跳ね回る。

 立ち昇っていくボスの魔素が、まるで雪のように見える。そうなると、その中を走り回るえりぴよはさながら犬って感じだな。


 犬――ではなくえりぴよは、俺の元へと駆け寄ってくる。


「凄すぎだよ!」


 興奮気味にえりぴよは目を輝かせる。


「ふっふっふっ……余裕だぜ!」


 と、一応強がってみる。

 正直なところ、余裕とは言い難いものではあった。絶対こんな低レベルの内に戦う相手じゃない。とはいえ、ノーデスでのクリアだ、誰も文句はねえだろ。


「フィールドボスだよ!? 普通10人以上で倒すもんだよ!?」

「あれは確かにそんな感じだな……攻撃が明らかに重すぎたし。大型ボスってのは大体そんな感じなんだよなあ――……けど、えりぴよがいてくれたお陰でもあるぜ、ファイアとか煙幕とか助かったし」

「そ、そうかな? えへへ……」


 不意に褒められ、えりぴよは嬉しそうにニマニマと笑みを浮かべる。


「わ、私ほら……一層のボスがあれだったから……初めて役に立てて、ちょっと嬉しいかも」

「いいね、これこそダンジョンの醍醐味よ!」

「うん……! 楽しかった! お疲れ様!」

「お疲れ!」


 俺たちはパチン! とタッチを交わす。


 すると、コメントが高速で流れているのに気がつく。


「あれ、なんか動き早くね?」

「あっ、あれ!? いつもこんなんじゃ――えっ、1300人!?」


 えりぴよは声を張りあげる。


「ん、それってどうなの? いつもより多いの?」

「いつもは10人とかしかいないのに……」


 俺はコメント欄を覗いてみる。


「おぉ……なんか活発だな」


 :えりぴよちゃんを守ってくれてありがとう!

 :来たら終わってたんだが?

 :早すぎるし強すぎる……高レベル?

 :クリスタルゲイザーがやられるの初めて見た

 :えりぴよさん可愛すぎた

 :兄ちゃんなにもん!? 動きやばすぎた……つか、初心者じゃねえだろ。

 :トップクランのメンバーじゃねえの? 顔は見たことないけど

 :下層のスキルしか使ってなかったしそれはないんじゃね、縛りプレイなら知らん

 :テンリミットってなんか聞いたことあるな……なんだっけ……思い出せん

 :あれ、俺もあるな。ゲームか何かだった気が。プロゲーマーじゃなかった気が。


 何だか俺の事を知ってそうな奴も交じってるみたいだな。高速で流れてったから一瞬しか見れなかったけど。1300人もいればコメントもすげーな。


「ひええ……こ、これバズったってやつ!?」

「いや、1300くらいならバズったって言うほどじゃないんじゃね? この間知り合った配信者? は2万とか3万とか言ってたけど」

「そ、そうですよねえ……調子乗ってすみません……」


 えりぴよは悲しそうな顔で肩を落とす。

 まあ、バズろうがバスらまいが、俺にはそんなに関係ない話だ。


 しばらくえりぴよはコメントを眺めていた。

 すると――。


「うぅ……」

「えぇ!? な、泣いた!?」


 えりぴよは目元を拭う。

 な、なんだ!? アンチコメントってやつ!?


「ど、どうした!? な、う、おぉ……」


 俺がオドオドしていると、えりぴよは泣きながら声を出す。


「だ、だって〜こんなに人に頑張ったって言われたことないからあ〜……うう」

「なんだよ……うれし泣きか」

「嬉しいもん~~!」


 えりぴよはズビビとティッシュで鼻をかむ。

 助かる、というコメントが一斉に流れ始めるが、何だろうかこれは。


 とにかく、泣いた時は焦ったけど、初めての達成感と褒められた嬉しさって訳か。

 俺もソロでしかほとんどやってなかったし、配信とかもしてなかったからそう言う経験はあんまなかったな。


 とはいえ……人と協力プレイっていうのも、意外に悪くなかったな。

 護衛対象とのデュオ討伐。なかなかいいクエストじゃん。クソゲーだと護衛対象が率先して戦って勝手に死んでクエスト失敗とかあるからな。 


 俺はガシッとえりぴよと肩を組む。


「えぇ、え、えぇ!?」


 えりぴよは顔を赤くして目をグルグルとさせながらテンパる。


「よく頑張った! 楽しかったぜ、二人パーティ!」

「! わ、わたしも……!」


 えりぴよは必死にブンブンと頷く。


 コメント欄はその様子を見てか、さっきよりも高速で流れ始めたが、早すぎて読めなかった。


「――さて、お目当てのクリスタルを見に行くとしますか」

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