第28話 切断
俺はえりぴよに合図して煙幕を張ってもらい、一旦状況を整理するため後退する。
こいつはほとんどのスキルが一撃必殺の力を持ってヘヴィファイターだ。
鋏での掴みからの、締め付けと地面への叩きつけ。
体重を利用したのしかかり。
鋏を槍に見立てての突進攻撃。
右の鋏を2回振ってからの、左の大振り。
体をあげてのウォーターカッター。
それもがまともに喰らえば今の俺達では一撃死確定。絶対に避けなければいけない。まあ、その分予兆もわかりやすい。攻撃が重い分、必ず溜めがある。
後は、通常攻撃である2本の鋏を使った乱撃だが、確かに速度はそれなりだが威力は低いから簡単に弾くことが出来る。確かに手数としては多いが、腕2本ならなんとかなる。
つまり、スキルを避けさえすれば攻撃を当てるチャンスは多い!
俺は思わず笑みを浮かべる。
「くはは! 所詮二層のフィールドボスだぜ! 丁度いい練習相手じゃねえか!」
「いやいや、十分攻撃早くて避けられないよ!?」
慌ててえりぴよが声を張り上げる。
コメント欄も加速しているのがわかる。
:本気で行ってますこの人?
:フィールドボスなんだから二人じゃ無理でしょ。
:えりぴよちゃん帰ってきて~;w;
:よし、そいつ置いて逃げよう。
なにやら心配ばかりしているが、まあ無視だな無視。
「任せとけよ。まずは攻撃の手段を減らす。狙いは硬直時の肩関節だ! まずは一本奪い取るぞ!」
「腕を一本?」
俺はうなずく。
「俺のタイミングに合わせてファイアを頼む。名前を読んだら頼むぜ」
「わ、わかった……!」
「頼むぜえりぴよ」
「! <火――」
「違う違う違う!! 今じゃねえよ! 怖いなお前!?」
俺は慌ててえりぴよの杖を抑え込む。
「ご、ごめん! 冗談冗談……あはは」
「頼むぜ……ま、失敗しても何度もチャンスはあるんだ、気楽に行こうぜ」
えりぴよはブンブンと頭を何度も縦に振る。
短い作戦会議を終え、俺は戦線復帰する。
ボス――でかクリスタルクラブを見据える。
ゲーマーに同じ攻撃は2度通用しないんだぜ。
ボスは俺を見つけるやいなや、すぐさま攻撃を再開する。まずは挨拶代わりの突進攻撃から。
俺はギリギリまで引き付けて、ひらりと回避する。所詮ただの直線攻撃だ。密集した集団相手にしか通用しねえぜ。
そうして、俺は攻撃を次々と見切っていく。
さっきまでとは違い、攻撃の受けのタイミングで殴る必要はない。剣が消耗するだけだ。攻撃には付き合わず、全て見切って回避する!
「す、すごい……!」
こい、大振りこい……!!
瞬間、乱撃から右の二回攻撃へと切り替わる。
右2回の振りから……大振りが来る!
「えりぴよ!!」
「うん!」
スキルの光を発しながら、左の大振りが迫りくる。まるで自動車だ。
俺は助走をつけ一気にスライディングし、その下をくぐり抜ける。そして、腕の外側に抜ける。
ボスは左腕を振り切った形で僅かなスキル後硬直に入る。
張られた左の肩関節。わずかにクリスタルの防壁が薄い場所に、えりぴよの炎がヒットする。
瞬間、色が変化する。
「ナイス!! 行くぜとっておき……<分裂>!」
瞬間、俺の残像が真横に生成される。
「テンリミが2人!?」
一層のボスゴーレムを倒して得たスキル、<分裂>。
Lv1では、五秒間俺と全く同じ動きをする分身を生成する事ができる。
つまり、五秒間の間単純計算で攻撃力は二倍!
「もらうぜ、左腕!」
俺はありったけのラッシュを変色した肩に叩き込む。スキル硬直中には、あの落下時に見せた硬化は使えないのは確認済みだぜ!
「うおおおらあああ!! 寄越せその腕!!」
―― バキッッ!
瞬間、クリスタルが砕け散る。舞い散る破片。
むき出しになった肉に、俺の剣が二本吸い込まれていく。
一気に剣は下まで駆け抜け、その巨大な腕を真っ二つに切断する。
ドサッと音を立て、巨大な鋏を有した左肩は地面へと落ちていく。
激しい落下音。クリスタル同士がぶつかり合う甲高い音色。
「はぁはぁ…………やったぜ!」
ほぼ同時に、俺の分身はすぅっと消えていく。
形成は逆転した。腕一本からほとんどこいつの攻撃は怖くねえ!
「すごすぎる……! テンリミすごーい!!」
えりぴよは興奮してぴょんぴょんと跳ねている。多少は死を覚悟したんだろうな、緊張感からの開放でテンションがたけえ。
俺は改めてボスに対面する。
「さあ、残りをさくっと――」
瞬間、ボスは体を起こすと上体を上げる。
ウォーターカッターか!? まさか腕を落とされたら殲滅行動に出るとか……ガードを固めるしかねえ!
俺は武器を構え、いつでも回避できる状態を保つ。
「ギガガ……ガアアアアアアア!!!」
「カッターじゃないのか……?!」
光ったのはボスの口ではなく、お腹にあったクリスタルだった。
その薄かったクリスタルは少しずつ剥がれ落ち、下から紫色に濁ったクリスタルが現れる。
なんだ、脱皮? 肉が顕に……いや、これは……!!
紫色のそれは、両方の腕の下を支点に起き上がる。
ボスの形態変化……腕の増加!!
それは、二本の腕だった。腹に張り付くようにして隠され、その上を薄いクリスタルでコーティングしていたのだ。
これで、相手の腕は3本だ。
「ここからが本番ってわけね……。燃えてきたぜ、蟹野郎!」
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