第26話 大物狩り

「ギギギギギガアアアアアアア!!!!!」


 水晶の洞窟に響くのは。

 身体の芯まで震わせる、鼓膜が破れそうな程の咆哮。

 

「きゃああああああ!」


 えりぴよは目に涙を浮かべながら叫ぶ。


「落ちてるううう!!! 死んじゃう!!」


 コメント欄も高速で流れていく。

 彼女らにしてみたら絶体絶命な状況らしい。


「やっぱ落下ダメージってあるの?」

「当然でしょ!? ゲームじゃないんだから!! この高さなら私のHPじゃ即死だよ!!」


 とえりぴよは甲高い声で早口にまくしたてる。


「まじか、なら仕方ないこのボスの背に乗るぞ!!」

「ボスの!?」

 

 俺はすぐさま剣を抜くと、真下を落下するフィールドボスに視線を向ける。


「えりぴよ! 真下に炎だせ!」

「え!?」

「タイミングはこっちで合わせる、早く!」


 ええええ! と焦りながらも、えりぴよはなんとか杖を構え、そして<火撃ファイア>を繰り出す。


 えりぴよが炎を放ったタイミングで、俺はすぐさまスキルを発動する。


「<突撃>――!」


 瞬間、落下スピードが加速し、身体がグンとボスへと近づく。

 そして、えりぴよの炎がフィールドボスの背中に着弾するとほぼ同時に、炎により変色した部位にその勢いのまま思い切り剣を突き立てる。


 狙い通り剣はボスの背中に突き刺さり、ぐんと力をいれてえりぴよを引き寄せるとフィールドボスの背中に着地させる。


「狙い通り!」

「まじぃ!?」

「衝撃に備えろ!」

「――ッ!!」


 ドゴオオオオオオン!!!! 


 と激しい音を立て、フィールドボスは地面へと着地する。

 その衝撃で俺たちは一気に吹き飛ばされ、地面へと転がる。


「ぐえっ!」

「っ! HP確認!」


 俺はすぐさまシーカーを機動する。


[ステータス]

 Name:テンリミット

  Job:闇魔剣士

 Level:4

 HP :640/750

[スキル]

 <突撃>Lv3

 <闇火球>Lv1

 <分裂>Lv1


 HPは、10だけ減っていた。えりぴよも慌てて俺に合わせて確認するが、同様のようだった。


「なんとかなったか」

「こ、怖かった……」


 えりぴよは胸をなでおろす。


「ここからが本番だぞ、フィールドボスをなんとかしねえとおしゃれ装備の素材集めなんて夢のまた夢だぜ」

「そ、そうだけど……本来はフィールドボスって、その階層にいる大勢の探索者で一気に討伐するような相手だよ!? 私達二人だけなんて……ね、ねえみんな」


:その通りですよ!

:姫を殺させるわけには……!

:無理だよ、無理無理!! 逃げて、超逃げて!

:だから俺はこんな男と行くのは反対だったんだ!


 わーきゃーと騒ぎ出すコメント欄。

 まあ、推しの身の安全が心配なのはわかるけど、にしてもだろ。


「死ぬって言っても、デッドラインまだ割らないんだろ?」

「そうだけど、普通に死ぬの痛いし怖いじゃん!? テンリミさんもそうでしょ!?」

「いや、俺は戦えればそれでいい」

「なっ……そんな冗談――――」


 しかし、えりぴよは俺の目を見ると押し黙る。


「俺は一人でも戦うぜ? もともとソロ専門だし、こいつくらい倒せないとどうせこの先行けねえしな」

「一人で!? 正気!?」

「当然! せっかく多人数用コンテンツのフィールドボスさんと、俺らだけで戦えるんだ。こんな機会なかなかねえぜ? 実力確かめたくねえか?」

「私の実力……」


 えりぴよは自分の手のひらを見つめる。


「ただおしゃれしたいだけでダンジョンの探索始めたわけじゃねえだろ?」

「…………」

「あいつを俺たちだけで倒せたら、俺たちすげーぜ?」


 えりぴよはじっと俺を見つめる。

 コメント欄は相変わらず心配ばかりしているが、もうそれを見ていなかった。


 えりぴよは意を決したように杖を握り直すと、小さくうなずく。


「そう……だね。確かに」


:姫!? 

:正気ですか!?


「うん……やる気湧いてきたかも。倒そうあれ……!」

「いいね、せっかく少女護衛の依頼受けてんだ、協力プレイもこなしてやるさ」

「少女護衛の依頼……?」

「こっちの話!」


 俺は改めて正面を見る。

 ボスの身体が動き始めている。


 落下から行動までちょっと時間があるな。落下の衝撃から身を守ったときの防御行動の反動か? 

 

「――スキルは何がある?」

「えっと……<火撃>Lv2、<投石>Lv1……あと、<煙幕>Lv1!」

「炎に遠距離攻撃、それと煙幕か……悪くねえ。基本の陣形は俺が前でえりぴよが後ろ。まずは相手の動きをみたいから、危なかったらすぐ煙幕貼って逃げろ、できれば俺が危ないときにも頼む」

「え、いやそんな、アバウトな――」

「時間がねえ、来るぞ……!!」

「っ!!」


「ギギギガアアアアア……!」


 地鳴りとともに、停止していた巨体が動き出す。


「大物狩りといこうぜ!」 

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