第23話 装備

 おしゃれ装備とは、読んで字の如くおしゃれに特化した装備のことだ。

 性能は全裸にも等しいほど低く、戦闘においては何の役にも立たない。


 その代わり、性能が高く無骨な装備の中にあって、おしゃれ装備はまさにおしゃれをするための装備であり、ふりふりしたワンピースだの、セーラー服だの、バニースーツだの、性能のかわりにその見た目は可愛らしいものが多い。


 前俺がやっていたMMOのゲームでは、おしゃれ装備を手に入れるために必死で素材を集めていた連中が多く居た。


 とはいえ、それはゲームの中での話だ。


 ゲームの場合は戦闘以外はそれを着て生活するということもできるし、ゲームによっては通常の装備の上からおしゃれ装備を見た目だけ反映する機能なんかもあったりする。


 だが、この現代のダンジョンではそんな機能などある訳がない。

 装備は普通に服を脱いで着るもんだし、それこそ全裸のような防御力で戦おうものならすぐさま死ぬだろう。


「帰らないで―!!」


 えりぴよは泣きそうな顔で俺の腕を掴む。


「あのさあ、おしゃれ装備だっけ? 悪いんだけど、普通におしゃれしてくれば良いんじゃねえの? わざわざ作らなくても外から持ってくればいいじゃねえか」

「違う違うちがーう! 全然わかってない!」


 えりぴよは眉を吊り上げ、腰に手を当てて抗議する。


「おしゃれ装備っていっても、ゲームみたいに私服のような装備じゃないの! 実際に装備として使えるものだから、作っても無駄じゃないから! おしゃれなのにしっかり性能があるなんて、欲しいでしょ!?」


 おしゃれだけど性能がしっかりしている?

 つまりあれか、ただかわいい装備ってことか。それならわからんでもないけど。


「ふうん。俺は良く知らないんだが、装備ってのは素材から作れるのか?」


 すると、そんなことも知らないの? といった目でにやりとえりぴよはこちらを見る。


「装備を得る方法はたくさんあるんだよ。まずはダンジョンでのドロップ品だね。ようはトレジャーボックスとか、ダンジョン内で見つかる格納庫なんかから出てくる既製品たち」

「純粋なドロップか」

「そう! で、もう一つは外から持ち込むことだけど……ダンジョン内では、現代の武器は威力をほとんど発揮しないのは知ってるでしょ?」

「確かそんな話しを聞いたな……」


 なんかそんな話を聞いた気もするな。 

 最初の講習で言ってたような。


 自衛隊なんかの重火器を持ち込んでも、モンスターには一切通用しなかったという話を聞いた気がする。


「防具も一緒で、いくら重厚な装備をしていても、モンスターの攻撃の前では紙同然ってわけ。だから、単純に防護服なんかを着てきても意味がないの。そこでどうするかというと――」

「ダンジョン内の素材から作った装備を使うというわけか」

「その通り! 飲み込み早い! 生産系のジョブの人は、ダンジョンの素材から武器や防具が作れるの」

「へえ、すごいな。よく知ってるな」


 えりぴよは自慢気に頷き、えへんと胸を張る。


「私はもう一ヶ月はダンジョンにアタックしてるから、お兄さんの先輩だからね! なんでも知ってるよ」

「一ヶ月もダンジョン攻略しててまだ二層なのか」

「しょ、しょうがないじゃん! 一層攻略できない人も多いんだからすごい方でしょ!」


 えりぴよはむすーっと頬をふくらませる。その顔は愛らしい。

 ま、キャリーだけど攻略するのに使えるもんは使えるってのは、当たり前か。


「ちなみに、そのクリスタルクラブの巣にある水晶ってのは、なにかいい装備作れるのか? おしゃれ装備以外で」

「武器が作れるよ!」

「武器か……」


 確かに新しい武器が欲しいところだ。

 俺の戦闘スタイルだと、武器の強度は重要になってくる。ただの武器じゃあまたデュラルハンの時みたいに折れかねない。


 クリスタルクラブの巣にある水晶……あのモンスターの硬度からしてそれなりの耐久力を持つ武器が作れる可能性が高い。


 素材から装備を作るという方法は悪くないか。


「本当に素材を半分分けてくれるんだろうな?」

「え、じゃあもしかして……!」


 えりぴよはキラキラ止めを輝かせる。


「ま、急いで攻略してもいいけど、こういったサブクエも攻略してかねえとな」

「やったー! よろしくお兄さん!」

「お兄さんじゃねえって! テンリミな」

「テンリミさん!」


 こうして、俺たちはクリスタルクラブの巣への挑戦を開始することとなった。

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