第14話 胡散臭い男

「え、いやっすけど」

「おっと?」


 当然の否定だ。

 明らかに怪しすぎるんだよ、このおっさん。なんだ、急に現れて。


 白髪頭に、剃り整えられた髭。服装は金属製の鎧ではなく、革製の装備だ。腰に刺している剣は明らかに俺より数段上の業物だろう。よく見ると、背中には弓も装備されている。装備からして4層以降を攻略中の探索者か。


「何でさ、いいじゃないの。減るものじゃ無いだろう?」


 おっさんは食い下がる。


「噂に釣られておじさんみたいな人間がわんさか寄ってくるからっすよ。俺はしっかり攻略したいんすよこのダンジョンを。野次馬ばっかりじゃゆっくり攻略もできないじゃないっすか」

「おじさん何て酷いじゃ無いか……。私のことはジートと呼んでくれ」


 なんか馴れ馴れしいな……こういういきなり距離詰めてくるタイプってなんか怪しいんだよな。打算的というか、何か狙ってるような気がするというか。


 そもそもこれだけ上のダンジョンを攻略してそうな人間がわざわざ一層にくる意味がわからない。となると、この場合はなんか目的があったって訳だけど……。


「えーっと、じゃあジートさん」

「何かな」

「配信を見てここら辺に張り込みしてたってわけっすか?」

「えぇ?」


 ジートさんは顎を撫でながら顔をむむむっと歪める。


「配信? 知らんなあ……え、それは何、探索者の配信みたいな? 私そういうのには疎くてな」

「怪しい……」

「あれ、おじさん信用ない感じ?」


 俺は頷く。この状況で信用できるおじさんを逆に紹介してほしい。ていうかさっき自分でおじさんと呼ぶなと言っておいて自分で言ってるじゃねえか。


「はあ、年寄りは嫌われる運命なんだな……私ももう若くないということか……」


 ジートさんはしょぼんとした顔で腰を曲げる。


「そんなこと言ってないじゃないっすか!」

「そうなの? なんか冷たいなあ」

「いや、それはジートさんがあまりにも胡散臭いからっすよ」

「そう?」


 うんうんと俺は力強く頷く。


「登場の仕方も完全に悪役の流れでしたよ」 

「そうか……ふっ、まあいいさ。嫌なら強制はしない。私はしがないソロ探索者だからね、珍しいスキルに目を輝かせてあの頃のような胸の高鳴りを感じただけさ」

「…………」

「まあ、仕方ない。また、今度だ少年。次あった時、もしまだ私のことを覚えていてくれたら、その時また話そうじゃないか。次会うときはもう知らないおじさんではなく、一度話した仲なのだから」


 そう言って、ジートさんはスタスタと何処かへと歩いていった。

 まったく、一体何が目的だったんだあのおじさんは。


「はあ……まあいいや。気を取り直して探索しよ」


 だいぶ進んだと思う。もう少しできっとボス部屋があるだろう。さくっと一層クリアして終わらせてやる。


◇ ◇ ◇


 トラップを回避し、ゴールは近くても慎重にいく。

 飛び出してくるモンスター達を一刀両断し、順調に歩みを進める。


「ふっ!! はっ!」

「ギエエエエアアア!!」


 ゴブリンが叫び声を上げ、泡となって消える。


「ふぅ……」

「良い剣捌きだねえ。なにかやってた?」

「――――だから、なんでついてきてんだよ!?」


 俺は後ろからずっとこちらを見ながらダラダラとついてきていたおじさん――ジートに、我慢できずに叫ぶ。


「分かれる流れだっただろうが!? なんで後ろに居るの!?」

「ええ、だって君一層攻略でしょ? 道が同じなんだよ」

「同じなんだよって……どう見てももっと下層の探索者でしょあんた……」

「そう見えるか? 見た目だけさ、ほらおじさんはお金だけはあるから。だから方向は同じってわけだ」

「本当かよ……」


 うさんくせえ……。どう考えてもついてきてるだけだけど、これ以上俺が否定してもあーだこーだいいそうだし……。


 仕方ねえ、この変なおっさんは無視して自分のやること進めよう。


「お、ついていっていいのかな」

「方向が同じだけならな。けど、俺は好きにやらせてもらうぜ」

「お構いなく」


 そうして俺は後ろを無視してひたすらに進んでいく。

 もう出てくるモンスターも顔なじみばかりで、その手際は完璧だ。モンスターを倒すたびに後ろから感嘆の声や口笛が聞こえるが、俺はもう居ないものとして扱っている。


 スキルは<突撃>だけ。闇魔法は封印した。こんなおっさんに見られでもしたら完全に終わる。


「<突撃>!」

「!」

「――そのまま一刀両断!!」


 <突撃>で加速し、一気にオークを切り捨てる。

 <突撃>がLv3になってから、より使い勝手が良くなってきた。<突撃>後の硬直が短くなったおかげで、攻撃との連携もし易い。


 すると、ずっと感想を独り言としてしか漏らしていなかったジートのおっさんが、口を開く。


「強い、強すぎる」

「…………」

「だが、スキルの使い方が悪いねえ。まあ初心者ならしょうがないか」

「!」


 なんだ、スキルの使い方……!? 

 確かに意識してなかった。もしかして、ダンジョンならではの使用方法があるのか……?


「おや、気になる?」


 うぜー……!!!

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