第15話 老兵
「聞きたくない? ねえねえ」
「いや、いいっすって!」
「えぇ、なんか意地張ってない? 聞いておいた方がいいと思うよ〜?」
純真な目でこちらを見てくるジートに、若干の苛立ちを覚えながらも俺は何とか平静を保つ。
一体何が目的なんだこのおっさん……何か狙ってる……んだよな?
ちらっと顔を見るが、相変わらず渋い顔で不思議そうにこちらを見ている。
スキルの使い方……確かに知りたい……!
だけど、交換条件とか出されたらマジでめんどくせえ! 考えられるのは闇魔法スキルを見せてくれってことか。
ユキの配信には俺がデュラルハンにジョブをもらったところまでは映っていなかったはず。つまり、俺が闇魔法を使えることを知っているのはこの世で俺とユキのみだ。
仮に何らかの情報を得て俺を探していたとしても、その目的は基本的に得られるジョブではなく、デュラルハンの出現条件とか戦闘方法なんかに関連するものに絞られるはず……。
そしてデュラルハン自体ほとんど遭遇したことがないダンジョンの王だ。奴が闇魔法を使うことを知っている人間は皆無と言っていいだろう。ユキが驚いていたくらいだしな。
そうなると、必然的に俺を探す人間の目的はデュラルハン自体についての情報になるわけで、それなのにこのおっさんはデュラルハンには触れずスキルに注目している。つまり、本当に俺のことはたまたまで、たださっきの俺が闇魔法スキルを使用する場面に遭遇しただけってことなのか……?
「何か考えてる? あ、もしかしてまだおじさんのこと怪しんでるわけ? 安心しなさいな、何もやましいことなんか考えちゃいないよ」
「どうだかな。その薄ら笑いが何とも怪しんだが」
「これは厳しい世の中を渡っていくための処世術さ。笑顔は世界を救うってわけ」
「胡散くせ〜」
だめだ、喋れば喋るほど胡散臭いこのおっさん……!
もういいや、スキルの使い方はやりながら覚えていく! そんなことよりさっさと一層をクリア————
瞬間、視界の端に巨大な影を捉える。
それはジートの背後、洞窟の岩肌によってできた影、完全な死角に潜んでいた。
緑色の肌をした巨大な体躯に、ぎょろっとした瞳。手には棍棒を持ち、どこで作成したのかボロい鉄の装備を身につけている。
何だこいつ、ジェネラルオークか!? この辺りのオークはこいつの配下だったか……! 見逃した!
「おっさん!!」
「おぉ?」
しまった、距離が離れすぎてる……!
目の前に現れたら敵じゃねえのに……<突撃>じゃああそこまでは一瞬で行けねえ……! おっさん死ぬぞ!?
くそっ、なりふりかまってられねえ。仕方ねえ、<
すると、ジートはニヤリと笑う。
「どれどれ、ではこの老兵が、スキルの本当の使い方というものを見せてあげよう」
「あぁ!?」
瞬間、ジートが翳した手から火の弾が放たれる。
「!」
それはジェネラルオークの脳天にぶち当たる。
「グルゥゥアアアアア!!」
ジェネラルオークの頭から、真っ黒な煙が上がる。
何だ今の……スキルを使った様子がなかった?
いや、そんなわけがない。超能力者でもない限り、あんなファイアボールみたいな技をスキルなしで出せるわけがない。
「その1。スキルに詠唱は不要! 頭で思い浮かべ、魔素の鎧を意識すれば自ずと発動する」
「!」
盲点だった……!
ゲーマー的視点で見てしまうと、どうしてもスキルはコマンド式のRPGを連想してしまう。その結果、スキルを選択する、という意志を表示するのに声に出すという動作が必要なものとばかり思っていた。
思い返せば、コボルドとかもスキルの発動に声は使っていなかった。デュラルハンは喋っていたが、あれはまた理由があるんだろう。何にせよ、スキル名を言わなくても発動できるのは確実だ。
一方で、ファイアボールによって激昂したジェネラルオークはその鋭い眼光でジートを睨みつけると、腰を落とし構える。
「そして、その2」
ジートは弓を抜くと、構える。
「スキルは使用箇所が別であれば並行して使用できる。このように」
「まじか!?」
ジートは弓の弦を引く。
矢は構えていない。しかし、まるでオーラのようなものが徐々に矢の形を取り、そしてそれが四本に増える。
「これが私の戦い方だ」
そして、放つ。
四本の矢は、それぞれが四方の別方向へと飛んでいく。
ジェネラルオークは四本の矢それぞれに気を取られ、一瞬動揺する。
瞬間、バラバラに飛んでいったはずの矢は一斉にジェネラルオークへと向かって軌道を変える。
「<ライトアロー>、<四方流星>、<イーグルアイ>の混合攻撃だよ」
「3つのスキルの合せ技……すげえ!」
ジェネラルオークは防御が間に合わず、すべての矢をその心臓部周辺にもろに受ける。その威力は凄まじく、鉄の鎧を貫通してそのまま肉体を突き破り、深々と突き刺さっている。
「――――」
「グラッチェ!」
そうして、ジェンネラルオークは立ったまま泡となって消えていく。
「ふぅ。老体に戦闘は堪えるな」
ジートは痛てててと腰を擦る。
「すげえ……やるじゃないっすか!」
「伊達に歳取ってないって話よ」
見るからに四層以上を攻略中の装備だったけど、この喋り口からついつい弱いことを想像してしまっていた。だが、どうやら俺の勘違いだったみたいだ。
こんなんでも、立派な探索者ってわけだ。
「腰、大丈夫っすか?」
「心配には及ばん。いやあ、すまんね。見たところ自分で攻略したい質だろう? こんなおじさんが良いところ持って行ってしまったよ」
「いや、スキルの使い方、学ばせてもらったっす」
まだ持ってるスキルが2個だからシナジーがあるものはないけど、この使い方は頭に入れておかねえと。
スキルの組み合わせか……重ねがけ何て使い方もできそうだな。
となると、強いスキルだけを集めるだけじゃなく、自分のプレイスタイルに合ったスキルを集める必要があるな。
くぅ、コレクション欲が刺激されるぜ!
「おや、その顔は、おじさん少しは信頼サレタカナ?」
「まあ、そうっすね。さっきよりは」
「ははは! 素直じゃないの!」
ジートはバシバシと俺の背中を叩く。
「――さて、どうやら目的地に到着したみたいだよ、少年」
指をさす方を見ると、そこには巨大な扉があった。
明らかに人の力では開けられなさそうな、頑強な扉だ。
「ここが……一層のボス部屋か」
「だねえ。君は筋が良い。一層のボスも楽勝だろうさ」
ボスか。ゲームなら何度かトライして行きたいところだけど、このゲームはデッドラインを超えると一発アウト。一回一回を慎重に行くしかない。
とはいえ、ビビって準備ばっかりしても意味はない。戦いの中で相手の戦闘スタイルを見破り、弱点を看破してそこを突く。
イレギュラーであるデュラルハンを除けば、初めてのボストライだ。
ボス戦前のこのワクワクは、どんなゲームでも一緒だな。
「ネタバレは無しだ。思う存分、戦うと良い」
「言われなくても! テンリミットの名にかけて、最速クリアしてやるよ……!!」
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