第二章 探索者
第13話 攻略開始
薄暗い洞窟を、慎重に進む。
ジメッとした空気は相変わらずで、ぼんやりと光る壁が道標となっている。
「キキキキキキ!!!」
甲高い叫び声とともに、頭上から聞こえる羽音。
鋭い牙を持った黒いコウモリのようなモンスターが、急降下で俺の頭上をかすめる。
「!」
俺はすぐさま屈んで初撃を避けると、剣を構える。
飛行するタイプのモンスター……!
想定される戦い方は、滑空による突撃、翼による打撃、翼で風を起こしての遠距離攻撃……コウモリに近い形状だから、超音波での攻撃も考えられるか。
俺はすぐさま戦い方を想定し、そして実行に移す。
「こいよ、コウモリ野郎!」
「キィィィィ!!!」
狙い通り、モンスターは一度旋回すると、角度をつけて再度俺の頭を狙い急降下する。
「デュラルハンより全然遅え!」
すれ違いざまに、剣を一振り。
垂直に振り下ろした剣は、モンスターの頭からケツまでを真っ直ぐに通り抜ける。
「ギ――――」
ブシャッ!! と生々しい音を立て、モンスターの体は真っ二つに引き裂かれる。
左右に別れた体は、そのまま慣性でそれぞれ別の方向へと吹き飛んでいき、そして地面に墜落する直前で青色の光に包まれ、泡となって消えていく。
「――ふぅ……」
俺は周囲を警戒しながら、他にモンスターがいないことを確認して剣を腰のさやへとしまう。
「初めて見るモンスターだったな。一層にもそれなりにいろんな種類がいるってことか」
俺は左腕の”シーカー”を前にかざす。
すると、ステータス画面が展開される。
[ステータス]
Name:テンリミット
Job:闇魔剣士
Level:3
HP :650/650
[スキル]
<突撃>Lv2
<闇火球>Lv1
「さすがにレベルは今のじゃ上がらねえか……次のレベルまでの必要経験値みたいなのが表示されないのはちょっと不便だな」
まあ、ゲームではないから当然なんだけど。
ユキとの同盟が結成されたあと、俺は池袋ダンジョン周辺に広がる探索者市で装備を整えた。池袋ゲートの周囲には、様々な店が出されている。
武器や装備、モンスターの素材の販売。加えてマジックアイテムや、探索に必須な道具類、食事処から酒場まで、とにかくいろんなものが揃っている。しかし、ユキに言わせれば「4層に比べたらそうでもない」らしい。
とりあえずブロンズの軽装備一式とブロンズの剣を購入した。
簡易な胸当てや腕、足のプロテクターのようなもので、逆に動きやすくて気に入ってる。ブロンズの剣はまあ、特に語ることもない普通の剣だ。
購入には、あのピリオドで得たお金を使った。
実はデュラルハンとの戦闘後、展開された転移ゲートに入る前にドロップアイテムがないか辺りを確認していた。ゲーマーとしてドロップアイテムは見逃せねえからな。
すると、コボルドが落としたと思われる
市に居る鑑定士に見せて鑑定してもらったところ、
それら
そしてもう一つの首飾りの方は、予想外の結果が帰ってきた。
『こりゃあ……なんだ? ダンジョン産の装備だが、中がさっぱりわかんねえ。プロテクトが強すぎて俺レベルの鑑定士じゃあ無理だ、悪いな』
俺は胸元からその首飾りを取り出す。
場所的にはデュラルハンと戦闘していた方に落ちていたから、おそらくデュラルハンのドロップアイテムのはずだ。
効果も能力も不明のアクセサリー装備……だが、あのダンジョンの王であるデュラルハンが落としたものだし、少なくとも希少なものであることには変わりない。
ユキに相談したところ、4層なら高レベルの鑑定士が居るらしいから、4層についたら改めて鑑定してもらおう。
まあ、そんなこんなで昨日は装備の購入や下準備に時間を費やし、そして今日、早朝からダンジョン探索を始めた。
すでに4時間ほど経過し、一層もおそらく中腹まで来た。
今のところ至って順調。モンスターも一層だけあって雑魚だし、いい準備運動になる。このままひたすらに進んで、さくっと一層のボスを攻略してやる。
「うっし、ガンガン進むぜ!」
◇ ◇ ◇
順調に進み、しばらく緩やかな坂を下ったところで広まった空間へと出る。
ずっと狭い通路だったから、久しぶりに息が吸えたような気がして、俺は大きく深呼吸する。
「ふぅ……ちょっとここらへんで一旦休憩――」
「きゃあああああああ!!!」
「!」
叫び声……!
俺は休憩を取りやめ、すぐさま悲鳴の方へと走る。
すると、そこには二人の少女が居た。巨大なモンスターに襲われ、地面に座り込んでしまっている。
「あれは……オークか! 初めて見るな!」
俺は声を張り上げる。
「おい! 助け居るか!?」
瞬間、少女たちは涙目でこちらをみる。
「「は、はい……助けてください!!」」
「了解!」
横取りしたって言われたらかなわねえからな。言質は取ったぜ!
俺は右手を構え、オークに照準を合わせる。
「<
瞬間、俺の手から紫色の火球がオークめがけて放たれる。
それは周囲を照らしながら高速で駆け、一気にオークに迫る。
「グオオオァァァァ!!!」
オークはそれを感知するとすぐさま危険度は俺のほうが高いと判断し、こちらへ応戦する。
俺の<
――だが。
「<
「ガアア!?」
直後、<
「グオオオオオアアアア!!」
くぐもった雄叫びを上げ、オークは肩の炎を振り払おうと暴れまわる。
その隙を見逃すほど優しくねえぜ。
「<突撃>!」
瞬間的にオークの体の真下へと入り込み、両膝の裏を斬りつける。
「――!?」
オークは両膝を折り、地面に座り込む。
俺はオークの膝を使って一気に頭まで駆け上がると、頭を垂れたオークの首に向けて剣を垂直に振り抜く。
刹那、オークの首は完全に切り離され、断末魔の叫びもなく光の泡となって消えた。
俺は地面に着地すると、剣を鞘へとしまい、そしてグッと拳を握りしめる。
かんっぺき!!
体が思い通りに動くっていいなあ~!! 戦闘が楽しすぎる!
「ふぅ、大丈夫っすか?」
「は、はい! ありがとうございます!」
「怖かったあああ……!!」
二人は抱き合いながら涙目で慰めあってる。
「うう、私達大学の同級生で来てたんですけど……ケンジ――あ、えっと、タンクで前衛していた男の子と剣士の男の子がオークにやられて消えちゃって……もうどうしたら良いか……」
「あらら、そりゃ大変っすね」
「なので、助けてもらえてよかったです! 蘇生するって言われても、やっぱり死ぬのは怖いんで……」
そういやこの時期は大学生とか高校生がライセンス取りに来るって言ってたっけ。ユキも物見遊山がどうこういってたから、お試しで来てこうやって洗礼を受けてやめてくってわけか。
「それにしてもお兄さん強いですね。さっきの、魔法ですか? なんか闇っぽかったですけど」
「あー……あれはなんというか……」
やば、闇魔法って言っていいのか?
下手に広まると俺のこと嗅ぎ回るやつ出てくるかもしれないし……。一旦ここは濁しておくか。
「ただの火の魔法っすね。洞窟は暗いから……あはは……」
「? まあ、そうですよね、闇魔法はないって聞いたことありますし。とにかくありがとうございました……!」
女の子たちはひたすら感謝を述べて俺に深々とお辞儀をし、俺が来た道から帰っていった。多分俺がモンスターを狩ってから時間もそんなに立ってないから、リポップはしてないだろうし多分安全に戻れるだろう。
闇魔法はなるべく人前では使わないほうがいいかな。変に噂されると面倒だしな。
「ほほう。紫の焔か……珍しいな」
「!」
振り返ると、そこにはいつの間にか白髪の初老のおじさんが立っていた。
初老といえどその立ち姿は凛としており、鍛えられた筋肉が装備の上からでもわかる。腰には銀色にきらめく美しい剣が携えられている。
「いやはや、一層にもたまには立ち寄ってみるもんだな。面白いものが見れた」
おじさんはニヤリと笑いぱちぱちと拍手をしながら、俺の方に歩いてくる。
そして俺の前で立ち止まると、あごひげを撫でながら言う。
「どうだ、ちょっとさっきのスキルをもう少しよく見せておくれよ。後学のために」
———————あとがき————————————
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