第12話 同盟

 思わず体がビクリと跳ね上がり、テーブルの上のカフェオレが揺れる。

 いくら俺がギャルゲーも攻略対象だからといって、現実世界の女性に耐性があるわけじゃねえ! 茜くらいだぞ、女友達は。


 俺は何とか平静を保って、パッと手を引く。

 そして、カフェオレを手に取るとズズズと飲み込む。


 その様子を、ユキはニターっとした顔で見ている。やめろその顔は。


「私、今7層を攻略中なんだけど、そろそろ固定パーティが欲しくてさ。今まで4層で募集してその場限りのパーティなんかは組んできたけど、ここからは固定が必要かと思ってたところなの」

「固定パーティっすか……ちなみに、俺よくわかってないんすけど、ダンジョンの攻略ってどんな感じなんすか?」

「そうだなあ、まずは探索だよね。注意深く進みながら、ボス部屋に繋がる道を見つけるの。トラップルームとか、君が居たピリオドみたいなのもあるから、結構慎重さが求められるかな」

「なるほど……」

「あとはまあ、一番はモンスターだよね」


 ユキは苦い顔で言う。


「結局それに尽きるかな。ゲームなら確かに雑魚モンスターなら簡単に倒せるとか思うけど、現実は違う。あの獣の形相で迫られたら、いくら一撃で倒せるとしても手が出せないのが人間だから。ゴキブリなんてあんなに小さいのに、それですら逃げ腰になる人間が大勢いるんだからわかるでしょ?」

「言われてみればそうっすね。あ、もしかして最初の支給武器がやたらと剣が余ってて、弓とか槍が売れてたのって」


 そう言うこと! と、ユキは俺を指さす。


「つまり、意外と接近戦が出来る探索者って少ないの。安全圏からスキルを撃つなら出来るけど、間近で剣を交えるのは怖いって人は意外といてね。大体は一層のスライムとかコボルドとかゴブリンとか、そこら辺でゆっくりと先輩から指導を受けながら慣らしていくのが普通なんだけど……」


 ユキは苦笑いを浮かべる。


「君みたいに、いきなりピリオドに突撃して行って、全く臆さず冷静に剣を振れるなんて正直いかれてるって訳」

「まあ、ゲームで散々やったんで」

「ゲームって……言うは易しだよ! デュラルハンと打ち合えるその戦闘センスと反射神経! ゲーマーゆえかどんどん対応していくその戦闘のスキルは絶対にトップレベル! それに、闇魔法を使えるユニークジョブもあるなんて、誰でも喉から手が出るほどほしい逸材だよ。そんな人、絶対に一緒にパーティを組みたくなるでしょ?」


 俺はまあ、確かにと相槌を打つ。


「ね、どうかな!?」


 ユキは目を輝かせて迫る。


「うーん……」

「私と組めば、7層まではフリーパス! レベリングにも付き合うし、スキルの実験も一緒にできるよ! まあ、ノルマ的にたまには配信はさせてもらうけど、君はほら顔出しが嫌なら装備とかで隠しちゃえば問題ないし」

「確かにそれは魅力的っすね」

「でしょ!?」

 

 熱く語るユキに、俺は多少気圧されする。

 だが、その誘いの答えは俺の中で決まっている。それは、俺がゲーマーである限り譲れないものだ。


「すみません、誘いは嬉しいんすけど、やっぱ無理っすね」

「……理由を聞かせてもらえる?」

「単純っすよ、俺はゲーマーなんで。誰かにキャリーされるのはまっぴらなんすよ」

「ゲーマー……」


 ユキはむむむっと口を窄める。

 

「せっかく未知のダンジョンが待ってるんだ、攻略情報なしでクリアしたいじゃないっすか! まあダンジョンのイロハとかスキルとか最低限の情報は共有してもらうのはありがたいっすけど、探索自体は自分の力でやりたいんすよ」

「なるほどね、まあ、だからこそ君はそこまで強いのかもね」

「もちろん情報交換とか交流はしたいっすけどね。ただ、探索自体はせめて俺の進行度が追いつくまでは決まったパーティは作りたくないかなって。せめて一緒に攻略するにしても、同じ進行度の人とがいいかな」

「ぬあー振られちゃったか」


 ユキは残念そうにガックリと項垂れ、あ〜あと伸びをする。


「まあわかってたけどね。昨日の戦いを見て、君が簡単に誰かとつるむなんて思えなかったし」

「ま、もし俺がユキさんに追いついたら、その時にパーティは考えますよ」

「言ったね!? 正直今7層で詰まっててさ。きっと君ならすぐ7層まで来れるよ。それまでは情報交換とかに留めておくよ。パーティはダメだけど、それなら同盟ってところでどうかな?」

「同盟か……いいっすよ、それなら。スキルとかジョブとか、教えてもらいたいことは色々あるんで。一応助けに入ってもらった恩もあるし」

「よし決まり! とりあえず連絡先交換だね」


 俺たちはスマホを取り出し、チャットの連絡先を交換する。

 茜以外の女の子の連絡先が手に入るとは。


 アイコンは意外にも猫が欠伸している顔だ。可愛いギャップだな。 

 いやあ、人生何が起こるかわかんねえもんだな。


「ありがとうございます」

「あぁ、敬語はいいよ別に。私だって歳そんなに変わらないし」

「いくつですか? 俺は今年17っすけど」

「23」

「変わら……ない?」


 17歳と20歳超えはまあまあ変わるのでは……?


「変わらないでしょうが!」

「じょ、冗談冗談、わかった、じゃあよろしくユキ」

「うん。えっと、テンリミでいいのかな?」

「おう、ゲームやる時はこっちの名前使ってるんで」

「ゲームか、さすがだね。じゃあこっちも交換しておこう」


 そう言って、ユキは左手につけられたブレスレットを俺に近づける。


「?」

「あれ、知らない? ダンジョン内ではマジックアイテム系以外の通信系の機器は全部圏外。だから、この”シーカー”でフレンド交換して、内蔵の通話機能で会話するってわけ」

「へえ、すごいっすね」

「ダンジョン内の魔素を応用してる技術だから、いわゆる念話みたいな使い方ができるの」

「かっけえ!! 最高じゃないっすか!」

「でしょ!」

「前から思ってましたけど、ダンジョンっていわゆる中世ファンタジーチックなのに、ステータス画面の技術とか、例の配信用のマジックアイテムとか、割とSFっぽいのもありますよね」


 ソフトウェア的な部分は現代製のものもあるだろうし、技術もダンジョンと現代の組み合わせなんだろうけど、ユキの配信用のマジックアイテムはハードはダンジョン製っぽい。


「そこ気になっちゃう? じゃあ、6層が楽しみだね」

「6層?」


 うん、とユキは楽しそうに笑う。


「ま、期待してなよ。それじゃあフレンドになろっか」


 そうして、俺はユキと初めてのフレンド交換をする。

 フレンド欄には、ユキの名前が刻まれる。


「それじゃあ、またダンジョンで会おう。成長期待してるね、すぐ追いついてよ!」

「もちろん! 速攻で攻略してやるぜ」

 

 こうして、俺とユキの同盟がここに誕生した。先輩探索者のフレンドがいるってのは、結構スタートダッシュには重要だよな。何か困ったら聞いてみよう。


 まずは7層までの攻略……成し遂げてやるぜ!

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