第11話 お話しましょう

 ざわざわと学校中が大騒ぎになる中、俺はユキに連れられて学校を抜け出す。


「あの、話って?」


 告白……なわけないか。

 さすがに美人すぎるわ、こっちが疲れる!


「もちろん、ピリオドでの戦いについてよ。良かった、まだ他の連中には掴まって無かったみたいで」

「他?」


 ユキは頷く。


「攻略最前線にいる連中は言わずもがな、王となれば考察系のクランだって出張ってくる。私は一瞬だったけど、君はずっと戦ってたわけだから、大注目ってわけ」

「まじっすか」

「で、一応の安否確認と、後はまあ何があったかを詳しく聞きたくてね」


 なるほどな、確かに王ともなればみんな動くか。正直俺もなんで出会ったかわかんねーし、言えることはそんなに無いんだが……。


 とはいえ茜も俺だと判別できない程度の配信だったみたいだし、この人の配信を見たところで俺個人まで辿り着くのは難しいか。


「こっち。後ろ乗って」

「おいおい、普通逆だろ……」


 校門前には、巨大なバイクがあった。

 ユキはそれに跨ると、ヘルメットを俺に差し出しながら言う。 


「だって、君免許持ってるの?」

「サンダーサーキットでなら、他の追随を許さないドライブテクと速度を誇るぜ? 何を隠そう、あの伝説の殺人カーブがある八雲サーキットを最速クリアしたのはこの俺だぜ」


 俺は自慢気に自分を指さすと、ユキはふふっと笑う。


「それ、バイクゲーじゃない。私もやったけどあれ操作むず過ぎ。君、相当なゲーマーみたいね」

「まあね、色々やってるよ」

「てことは、無免許ってことね。ゲームの話だし」

「……まあ、まとめるとそうなるかな」

「無免なら大人しく後ろに乗りなよ」


 キラーワードを出され、俺はしなしなとしょぼくれながらへい、と返事をする。ヘルメットを受け取って装着すると、ユキの後ろにまたがる。


 バイクに乗るなんて初めてだぞ、大丈夫か……?


 俺はどこに掴まっていいか分からず、とりあえず後ろの出っ張っている部品を両手で握る。


「お腹、捕まって」

「あーいや……別に……」


 髪の毛からいい匂いが漂ってくる。

 この至近距離ってだけでもゲーマーには致命傷だと言うのに、腕を回すなんて……。


 しかし、ユキは短くため息をつく。


「現実にはデッドラインはないの。さ、早く」

「うす……」


 そうして、ユキは俺をバイクの後ろに乗せ、颯爽と高校から走り去っていく。


 これが逆だったら男としてカッコいいところだが、女の人に乗せられてるのは何だか若干の情けなさがあるな。


 すると、右ポケットのスマホが振動する。恐らく茜だろう。自分が大好きだったユキに俺が連れていかれたから嫉妬してるんだろうな。サインくらいは頼んでおいてやるか。


「そういや、何で俺の高校分かったんすか?」

「視聴者よ。あの後雑談配信で確認したら君の着ていたジャージを見たことあるって人がいたから」

「それでよく俺のクラスまで分かったっすね」

「君の似顔絵を描いて出てくる人に見せてたの。私似顔絵得意だから。映像に残っていれば1番良かったんだけど、画角が悪くてはっきりと写ってなくてね」


 言いながら、ユキはポケットに入っていたスケッチを渡してくる。

 確かにそこには俺の顔が描かれていた。


「確かに似てる……うまいっすね」


 写実的というよりイラストちっくだが、どことなく特徴を捉えてる。確かにこれなら俺を知ってたら分かるだろうな。


「ありがと」


 ユキは照れくさそうに笑う。


 そうして俺はバイクに揺られてどこかへと連れられていくのだった。


◇ ◇ ◇


「――――ってわけっすね」


 俺は一応は助けに入ってくれたという恩もあるし、まあいいかと掻い摘んで昨日の状況を説明した。


 バイクは渋谷へと到着し、連れられてきたのはカフェだった。内装は洋風で、植物が多く配置された静かなところだ。ボックス席に座り、ユキは向かい合う形で正面に座っている。


 俺は頼んでもらったカフェオレを何となくスプーンでぐるぐると回す。こんなお洒落なもん飲んだことねえよ。ブルーブルは売ってねえのか!


 正面に座るユキはもう私慣れてますよと言う感じで澄ましてコーヒーを飲んでいた。何とまあただコーヒー飲んでるだけなのに絵になるのか。周りからの何でこいつが!? という怒気の含まれた視線がいてーぜ。


 そうやって澄まし顔で飲んでいたはずなのだが、俺の話を聞きながらみるみるうちに取り乱していく。


「……入ったその日にピリオドでコボルド相手に戦闘センスだけで無双…………王相手に最後までノーダメで大立ち回り…………しかもユニークジョブを手に入れて闇魔法スキル!? ちょっと……ちょっと一回休憩させて、頭が追い付かない」


 ユキは頭を抱えて深くため息をつく。


「いや、確かに昨日の時点で凄い初心者だとはわかってたけど……想像以上ね」

「そうすっか?」

「そうっすよ! 特にユニークジョブ……昨日も言ったけど、闇魔法はまだ発見されてないの。つまり、闇魔法スキルは今あなただけが独占してる状態。これが知られたら、色んな人から追いかけまわされるだろうね」

「あぁ、前やってたMMOでも似たようなことあったなそういえば。あれは確かに過酷だった……」


 俺は遠い目であの頃の記憶を思い出す。

 ログインする度にプレイヤーに囲まれ、スポーン地点まで先回り。俺のハウジングの周りには攻略最前線にいたプレイヤーたちがクラン総出で昼夜問わず交代で押しかけてたっけ。


「じゃあ、闇魔剣士ってジョブも聞いたことないっすか?」


 ユキは頭をふる。


「もちろん私もダンジョンのすべてを知っている訳じゃないけど、少なくとも“闇魔剣士”ってジョブは聞いたことないね」

「ユキさんのジョブはなんすか?」

「私は“フェンサー”よ。レイピア使ってたでしょ」

「あぁ、なるほど」


 フェンサーならたしかにレイピアのイメージだ。

 あの身のこなしから言って、ステータス的にはAGIが高いのかな。


「それにしても、デュラルハンからジョブをもらうなんて……」


 ユキはじっと俺を見る。


「意外っすか?」

「そりゃね。ジョブの取得方法は色々あるけど、モンスターから授けられるというのは聞いたことがないよ」

「ユキさんはどこで?」

「私は4層の天啓神殿。4層は探索者のホームタウンになってて、大体みんなそこで最初のジョブを手に入れるの。下層を攻略する探索者はたいていここを拠点にしてる」


 天啓神殿か。ジョブは天からの恵みというスタンスってわけね。確かにしっくりは来る。でもそうなってくると、王がジョブを与えられるというのは少し引っかかるな。


「そして、もう一つ。こっちは探索者全員に激震が走ってるでしょうね」

「王っすか」

「ええ。……ダンジョンの八王、ダンジョンという不思議な空間を作った王達とも、このダンジョンを守護する王達とも言われてる。その存在意義は定かじゃないけれど、このダンジョンについて調べると必ず彼らの存在に行き当たるって噂」

「守護する王……か」


 昨日戦った首なし騎士――デュラルハンはそんな感じではなかった。

 あれはどちらかというと……。


「まさか初心者の君の前に現れるなんて。コボルドを倒していたら向こうから現れたか……何か出現の条件を無意識に満たしたのかな」

「俺の行動が何らかのフラグを立てたと?」

「そんなとこ。いずれにせよ、今まで誰の前にも現れなかったあの王が君の前に現れた。何か意味があるはず」


 意味……ねえ。

 しかし、考えてもわからない。だが、今までどの探索者の前にも姿を表さなかったデュラルハンが、一層の初心者の前に現れるというのは普通では考えられないことだというのは俺にもわかる。


 言うなれば、ゲーム序盤の負けイベント……開幕早々に来るラスボスとの邂逅みたいなもんか。


「まあ、私も考察系でやってるわけじゃないから、詳しくはわからないけどね。でも、王とやり合ったのは多分かなりのレアケースだろうから、話を聞きたい人は多いだろうね」

「考察クランってやつですか」


 ユキは頷く。


「平穏に探索したかったら、あまりペラペラ喋らなほうがいいよ。情報はお金になるから、うまく使った方がいい」

「そうします」

「それで、ここからはより個人的な相談なんだけど……」


 ユキはぐいっと身を乗り出し、俺の顔を覗き込む。


「な、なんすか……」


 顔近いよこの人もう……自分の顔面の破壊力理解してるのかこいつは!


「君、今後の予定は?」

「まあこのままダンジョンを完全攻略するつもりっすけど。今日から夏休みだし」

「そう言うと思った! 君は絶対に物見遊山で来るそこら辺のやつとは違うと思ってたよ」


 そういって、俺の手をギュッと握る。


「ねえ――私と組まない?」

「はあ!?」

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