第10話 一夜明けて、予想外の来校者
「あんた……じゃないわよね?」
「いきなりなんだ、藪から棒に」
翌日の学校。
前日にあれだけの死闘を繰り広げた俺だったが、こうして学校に通わなければならないのは辛いところだ。とはいえ、夏休み前最後の登校日だし、明日からはダンジョンに専念できる。
やっぱり、ダンジョンは特殊な空間だった。夢にまで見た世界。スキルがあり、モンスターがいて……一体あそこは何なんだろうな。
「昨日ユキさんの配信見てたら、なんかあんたみたいな人影が居た気がして……」
「…………」
ダンジョンの王。
その一体である不惜身命のデュラルハンと戦い、そして俺は「闇魔剣士」という不思議なジョブを手に入れた。
帰ってから、俺は気になり過ぎて「闇魔剣士」というジョブについて調べてみた。
ダンジョンについては、ゲームと同様に攻略サイトが乱立していた。よく分からん団体の簡易的な攻略サイトから、個人がやっているブログレベルのサイトまでより取り見取りだ。
俺はそれらwikiや攻略サイト、個人ブログや掲示板をひたすら検索してみたのだが……どうやら「闇魔剣士」というジョブの情報は何一つ載っていなかった。
闇魔法というのも、彼女の言う通り確認されていないらしい。
ダンジョンはゲームじゃないから開発者の設定資料集なんてものは存在しない。だから、全容を知るのはそもそも無謀なことではある。
名前からして闇魔剣士は闇魔法を使えそうだし、手に入れたスキルもあのデュラルハンが使っていた<闇火球>だ。つまり、現状俺しか持っていないジョブというのは間違いなさそうだ。
「それって……最高じゃねえか……!!」
俺だけのジョブ、俺だけのスキル。
ゲーマーとして、これほど興奮する物はない。実際にゲームでユニークジョブやらスキルなんて用意したら、コンプ厨やら効率厨にフルボッコに叩かれて炎上もんだからな。ロマンはあるけど、実際にはそんなこと怖くてできない。
だけど、ここはダンジョンだ。そんなゲームじゃできないことも可能になる。
夢にまで見た、俺だけのジョブというわけだ。
それに、ダンジョンの王というのも痺れる。ようは裏ボスだろ?
昨日は俺の負けだったが、次あったら絶対に倒してやる。そのためにも、装備を整えたりレベルを上げてスキル集めとかもしないとな。
ゲームに求めていたスリルが薄れ始めていて、たまたま茜が動画を見せてくれたからこうしてダンジョンに挑んでみた。もちろん、現実世界に飛び出してきたかのようなダンジョンに、俺は興奮冷めやらなかった。
ただ何となく、最深部を目指そうと思っていたが、どうやらやるべきことが決まった見てえだな。
「俺が一番最初に、
「ねえ、聞いてる?!」
茜はむすーっと頬を膨らませ、俺の両頬をぎゅむっと掴むと強引に自分の方に向ける。
「いでええ! き、聞いてるって!」
「嘘つけ!」
茜はふんと怒って頬を膨らませる。
「はあ。その調子じゃあ、あれはただ雰囲気が似てただけかな」
「何の話だよ」
「だから、昨日ユキさんの配信見てたら、あんたに似た人が出てきたって話! その人も初心者だったけど、凄い強そうだったよ。ゲームしかしてこなかったもやしっ子のあんたな訳なかったわね。カメラがユキさんの俯瞰視点ばかりだったから、あんまり写ってなくて細かい容姿は分かんなかったんだけど、なんとなーく似てるかなあと思ったんだけどね。服装もうちのジャージっぽかったし」
茜は肩を竦め、つまんないの、とため息をつく。
ユキ……そうだ、ユキって確か茜に見せてもらったあの配信者か。
待てよ、そういや昨日ダンジョンに居た子、どこかで見たかと思ったら……。
「ユキって……あの細剣を持った、銀髪の……?」
「そうそう! 何で知ってるの――って、そうか私が一昨日見せたんだっけ。まあ、あんたには手の届かないような美少女――――」
瞬間、教室のドアが勢いよく開く。
「リト!!!」
バン!! と開け放たれたドアは壁に激突し、ガタッと窓が揺れる。
「うお、びっくりした……何だよそんな慌てて」
「お前……何やらかした……?」
マジトーンの声に、教室は静まり返る。
「やらかしたってなんだよ……俺程善良な生徒はいねえぞ。何、まさか校長が呼んでるとか?」
あ、あれ~俺なんかしたっけ……まさか探索者は校則違反とか? いや、部活動もあるんだしそんな馬鹿な……。
俺を呼びに来たクラスメイトの表情から、少なくとも、ただ事ではないという雰囲気が感じられる。そして、彼は荒れた呼吸を整え、続ける。
「……下に来てるぜ」
「誰が」
「呼んでるんだよ……お前を! お呼びなんだよ!!」
「だから誰がだよ!」
「美少女探索配信者の…………ユキちゃん」
「「「「!?!?!?」」」」
瞬間、教室中の生徒が一斉に俺の方を振り返る。その速度は、まるでホラー映画のようだった。
それは当然、俺の真横に立っていた茜も同様だった。
「何であんたに!?」
「ユキって……あぁ、さっきの」
すると、別の大柄なクラスメイト――武藤が椅子を引き倒して立ち上がる。
「な、なんで廃ゲーマーのインキャにユキちゃんが会いに来るんだよ!! 意味わかんねだろ!! 冗談ならぶっころすぞ!?」
「し、知らないよ、俺も呼んできてくれって言われただけなんだよ!!」
「リト……てめええ……!!」
なんだなんだ……探索者一人で大騒ぎじゃねえか。そんなに有名なのか、あの子。てっきり茜だけがファンなのかと。
というか、やっぱりあの時の子はユキで間違いなかったか。
「紹介してくれえええええ!! 頼むううう!!」
武藤は涙を流しながら俺に縋り付いてくる。
「う、うるせええよ、俺もまだ知り合いじゃねえんだよ!」
「嘘つけこらああああ!! うおおおお、羨ましすぎるだろうが、独り占めするんじゃねえよ、みんなのユキちゃんだぞおおお!!」
「うるせえって!」
俺はしがみついてくるユキファンの武藤を、なんとか足で蹴り飛ばす。
すると、コンコンと教室の扉がノックされ。
「ねえ、ちょっと恥ずかしいからやめて欲しいんだけど……」
聞きなれた声に、全員が振り返る。
そこには、銀髪のギャル――ではなく、探索者ユキが立っていた。
ショートパンツに丈の長いチェックのシャツ。右手を腰に当て、呆れた様子でこちらを見ている。
全員が茫然とユキの方を見ていた。全員が釘付けだった。
「私服ユキちゃん!?!?」
「ええ、そりゃ外ではあんな格好しないよ。……遅いしなんか騒がしいから迎えに来ちゃった。えっと……君が、テンリミ君?」
ユキはじっと俺を見る。
「そうっすけど……あっ!! 昨日の……!」
「覚えててくれたんだ」
やっぱり、この人が昨日の……。
「ちょっと、お話ししましょう」
「「「!?」」」
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