第8話 決着とユニークジョブ

 目の前の光景を見て、俺は彼女の言っていたことが何となく分かった。これはチュートリアルなんかじゃない。明らかなだ。


 高レベル探索者が一方的にやられるボスが、チュートリアルなわけがない。


 もし俺が彼女より先にさっきの<斬魔剣>を受けていたら、俺もどうなっていたか分からない。


 まだ俺には相手の上位スキルに対処できるだけのスキルが無いのが痛い……! この首なし騎士は、それだけのスキルを発動するフェーズまで来ている。


 状況だけ見れば、レベル3の初心者ノービスでは勝機は薄いのが現状だ。


 普通なら、目の前で高レベルの探索者が呆気なくやられれば、心が折れてもおかしくない。——だが。


「面白えじゃん……!!」


 そんな絶望的で意味不明な状況の中でも、俺は無意識に口角が上がる。


 ダンジョンの王? イレギュラー? 広範囲スキル? 燃える展開じゃねえか!

 こういうのこそ、ゲーマーが求める戦いだろ!


 あんな短調な攻撃だけで終わってたらその方が拍子抜けだ。こういうのを待ってたんだよ、俺は!


「次の攻略にダンジョンを選んだのは、間違いじゃなかったみてえだな」


 ゆらりと立つ首無し騎士に、俺は剣を向ける。


「お前王なんだって? いいね、相手にとって不足なしだ」


 宣戦布告。ここで決めようぜ。


 首無し騎士は静かにこちらに身体を向ける。

 俺たちはお互いに向かい合う。


 静寂が訪れる。


 そして、首なし騎士はゆっくりと先ほどと同じ構えを取る。


 来る……さっきの攻撃が。


 俺は全神経を首無し騎士に集中させる。瞬き一つすら許さない。どんな動きも見逃さねえ。


 こんなに集中したのは、ゲームでもなかったかもしれない。


 自分の鼓動すら聞こえてくる程の静寂。

 神経が研ぎ澄まされ、今なら何もかもが聞こえそうだ。


 そして。


「――――<斬魔剣>」


 再びまみえる、無数の剣閃。


 こんな人間離れした攻撃、普通はこっちもスキルがねえと防ぎきれねえ。


 だが、これはすでに


 一度見た攻撃なら、廃ゲーマーなら見切れる。


 さっきの彼女が受けた攻撃を見ていてわかった。この攻撃は、面ではなく線だ。この違いは重要だ。


 直線状の斬撃が飛んでくる<ソニックブレード>と違い、<斬魔剣>の場合は見えない剣で高速で斬りつけられまくるスキルだと考えた方がいい。無数の剣による不可視速攻の剣……それが<斬魔剣>だ。


 つまり、逃げ場がない訳でもなく、防げない訳でもない。全ての斬撃を認識し反応さえできれば、受け止めることも弾くことも可能なはずだ。


 それに、この攻撃はだ。法則があり、性能が決まっている。


 ランダムに思われたあの無数の剣閃も、法則と傾向がある。


 本来ならリトライしまくって見出さなきゃいけない攻撃の攻略だけど、俺を助けに来てくれた彼女が先に受けたことで一回分析するチャンスが出来た。俺は彼女に助けられた。彼女が命懸けで残した情報は全部活用する! 思い出せ、彼女が受けた時の攻撃を……!


 重要なのは一撃目……ここを見極められれば、あとは俺次第!

 一撃目に、全ての神経を集中させる。


 瞬間――俺の右上に、一発目の斬撃の起こりを捉える。ということは……彼女が受けたのと同じ、右上から左下への斜め斬り! 二発目は左から右への横一閃!


 俺はすぐさま剣を右上に構え、一撃目を弾く。そして、次の攻撃が来るよりも早く、すぐさま左側を防ぐように剣を構える。


 重い衝撃が、俺の剣を通して手に響く。


 ——行ける! 


 俺はさっきの映像をイメージし、予測しながら攻撃を避けていく。

 予測と反射。ゲームで鍛えた俺の観察力と動体視力、そして反射神経を舐めるんじゃねえ……!

 

「うおおおらあああああ!!」


 弾きと回避。全部弾くには俺のステータスじゃ不可能! だからこそ、回避と弾きに分ける!

 これなら、ミスらなければ<斬魔剣>を受け切れる……! 


 しかし、致命的な見落としがあった。いや、見落としというよりは、考えても意味のないことだからあえて無視していたものだ。


 それはすぐに訪れた。

 1発、2発と斬撃を瞬間的に弾く度に、ミシリと嫌な音が鳴る。


 この超絶スキルを前に、俺のボロ剣は持たねえ……!

 もう少し……もう少しだけ……!!


 瞬間、右上から真下へと振り下ろされる斬撃を受け止めたところで、剣はその中腹あたりから真っ二つに砕け散る。


「————ッ!」


 俺の剣を砕いた斬撃はそのまま垂直に降りてくると、俺の右肩を抉る。


「ぐっ……!」


 俺は右肩を抑え、膝から地面に崩れ落ちる。

 痛みは抑えられている。だが、ノーダメージではない。


 …………だけど!!


「——うおらああああ!!」


 俺は砕けた剣の先端部分を空中で掴むと、思い切り首無し騎士へ向けて投擲する。


「————!」


 完全に意識外からの攻撃。

 剣閃をすり抜けて放たれたボロい刃は、首無し騎士の鎧の隙間を抜い、突き刺さる。


「はあ……はあ……一矢報いたぜ……!」


 しかし、HPがほぼ0。剣で受けたのにもかかわらず、200ある俺のHPがぎりぎりまで削られるとは。もしガードが間に合ってなかったら、即死だった。


 最後一矢報いたものの、剣は砕け、もう俺に対抗する手段はない。

 たった今パワーバランスは崩れ、天秤は完全に首なし騎士の方へと傾いた。


「はっ! なるほど……王……これがね」


 俺は小さく笑い、そして首なし騎士を——王を指差す。


「——次会ったらぜってぇ倒す」


 これで死亡か……戻ってきてもまだ居てくれるかどうか。

 彼女の様子から、そう簡単に会えるものでもなさそうだし。


 倒せなかった無念と、それでもギリギリの戦いが出来た爽快感と。様々な気持ちが入り乱れながら、俺は最後の一撃を待つ。


 ——が、しかし。トドメとなる<斬魔剣>の追撃が襲ってくる様子がなかった。

 それきり、首無し騎士からの攻撃はピタリとやみ、首なし騎士はその大剣を背中の鞘に納める。


「……は? えっと……どゆこと?」


 首なし騎士はゆっくりと俺の近くに歩み寄り、俺の前に立つ。

 どうやら攻撃の意思は感じられない。俺はただ茫然とその様子を見つめている。


 そして、俺の頭の上へと手を翳す。


 何かが起ころうとしていた。


 瞬間、俺の身体を赤い光が駆け巡る。

 それは、何とも美しい光景だった。


 身体に活力がみなぎってくる。明確に、何かが変わった感覚があった。俺の肩の傷が消えて行く。


 そして、首無し騎士の声が聞こえる。


『――――砦の門は開かれた。闇を統べ、黒棺の嘆きを聞け』


 そう言い残し、首なしの騎士は踵を返す。

 騎士が歩くたびに辺りから灯りが消えてゆき、そしてそのまま闇の中へと消えていった。


 気が付けば辺り一面は闇へと戻っていた。


「終わった……のか?」


 静寂の中、俺は一人そう呟く。

 まるでさっきまでの激闘は夢だったかのように、何とも穏やかな静けさだった。


 すると、左腕のブレスレットが点滅しているのに気が付く。俺のステータスに更新があったらしい。

 

 俺は、ステータス画面を開く。

 すると、そこに今行われた事象の答えが書かれていた。


[ステータス]

 Name:テンリミット

  Job:闇魔剣士

 Level:1

 HP  :500/500

[スキル]

 <突撃>Lv1

 <闇火球>Lv1


「闇魔剣士……?」




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