第7話 王の力
「へっ……!? いや、そういう訳じゃ……」
「良いところなんだよ今! パターンも見えてきたし!」
こんな中途半端なところで横取りされたくねえ! もうちょっとで攻撃も通りそうなのに!
「あ、ちょっと!」
俺は<突撃>で首なし騎士へと接近し、攻撃を仕掛ける。
当然のように対応してくる首なし騎士に、すぐさまさっきまでのような膠着状態が訪れる。
だか、攻撃パターンは大体見れた。
しかし、あの子は何だったんだろうな。まだそこに居るし。
助けに来たみたいなこと言ってたけど、こいつチュートリアルボスだしな……よほど俺の攻撃が不甲斐なく見えたか。それか、本当に獲物の横取りか。
だが、出番はねえぜ。こいつは俺が——
「——<闇の奔流>」
瞬間、目の前の景色が闇に染まる。
いや、正確には目の前に闇の壁が現れたのだ。
首無し騎士の首から溢れ出た闇がうねりを上げ、それは波の形へと変形する。
「おいおい……おいおいおいおい!!」
闇の津波——!!
<突撃>で波の切れ目まで——いや、俺のレベルの<突撃>じゃあそこまで届かねえ!! 攻撃範囲が広すぎる……!!
「くそ、剣で受け切れるか!?」
「だから言ったでしょ!! 下がって!!」
「!」
瞬間、銀髪の少女が俺の前に飛び出す。
「<
少女が突き出した両手に沿うように、巨大な氷の壁がせり上がってくる。築き上げられたのは、まさに氷の城壁だ。
「正面から受け止める!!」
「すげえ……!」
何つー規模の創造物! 明らかに上位レベルのスキルだ……!
すげえ、これが高レベルの探索者か……!
すると、少女の表情が曇る。
「まさかこれ、闇魔法!? そんなの聞いたこともないわよ!?」
「え、そうなの? こいつめっちゃ使って来るけど」
「冗談でしょ!? 今まで未発見の属性……さすが王ね、何もかも規格外……!」
闇の波はその壁に阻まれ、壁の後ろに扇形の安全地帯が広がる。
その一方で、その周囲は闇の炎に飲み込まれていく。
俺はその様子を見ながら顔をしかめる。
「一気にギアあげてきたな、全範囲攻撃かよ……。とんでもねえな……首なし騎士の野郎、次のフェーズに移行するためのリセットか?」
「でしょうね。これでわかった? あいつはまだ君には早いの。だから逃げて」
「いやいや! 確かにこういう技があるのは初見殺しにも程があるけどよ、一回見れたんだ、次はやられねえよ!」
「………………」
少女はゲンナリした顔でこちらを見る。
「君……こいつが、どれだけヤバイモンスターか理解してる……? 私は君のためを思って言ってるっていうか……あんまり自分でそういうことは言いたくないけど」
「え、チュートリアルボスだろ? 別に初心者だからって挑んじゃ駄目なんてことねえだろ」
「………………はい?」
少女のその整った顔が、ぐにゃりと歪む。
そして何やらその横で浮遊している緑色のホログラムディスプレイが、高速で動いていくのが見える。
「強がらなくてもいいよ、初心者なのはわかってるから。あれだけの打ち合いは確かにそうできるものじゃない。しかも相手は王。君がいかに才能溢れた探索者かはわかってるつもりよ」
「そりゃどうも」
「けど、あれだけの打ち合い、高レベル者だって初見で出来るものじゃない。何度か死んで攻撃を見たはず。だから君、もうデッドラインは0に近いんじゃない? 死にたくなかったら、大人しく私の後ろに隠れていた方がいいわ」
「いや、まだ一回も死んでないけど。ノーダメだし」
「そうね、まだ——は? いやいや、そんな冗談を……。いいよ、見てあげる。<
言いながら、少女は俺を見る。何やら目が青く光っている。
すると、その表情はみるみる変わっていく。
「え……HPが……減ってない……? まさか、本当に……? コボルド達とダンジョンの王を相手にして、ここまでノーダメージなの!?」
「だからそうだって」
「…………信じられない」
少女は目を見開き、唖然とする。
なんかさっきから大袈裟な気がするんだが。
チュートリアルボスだよな? ノーダメくらい普通な気がするんだけど。
見たところ、この子は俺よりかなりダンジョンに精通しているみたいだけど。それにも関わらずこの慌てよう……ということは、本当に何かがあるのか? 初心者では本来あり得ない状況……ってことか?
それに今、ダンジョンの王って言ったような……? 聞き間違いか? いや、でも確かに今……。
「本当に……初心者なの……? だとしたら……最強の
「おい、来るぞ!」
さっきまでより明らかに圧がある……!
奔流が消え、首なし騎士はすぐさま大剣を構えると、真っ直ぐに少女の方へと迫る。
少女は手に持ったか細い剣で、首無し騎士の剣を受け止める。レイピアが触れた場所が氷つく。恐らく、激突の衝撃を和らげているのだ。
「くっ……なんて力……!!」
少女は苦い顔をしながら剣を振る。振る度に氷のようなエフェクトが走る。
だが、首なし騎士の大剣に対して、そのか細いレイピアではあの大剣の攻撃を掻い潜り攻めに転じるのは難しそうだ。それは俺の剣でも言えることだが。
案の定、徐々にその大剣の圧に圧され、少女は後退して壁の方へと追い詰められていく。
瞬間、少女は体を弓のように引く。
「――<五月雨>……!」
少女は高速の突きを繰り出す。
「レイピアのスキルか! すげえ!」
ゲームかよ! あんなの現実じゃ無理だ。
それは残像が残る程の高速の突き。体は姿勢を保ったまま、平然と突きを繰り出している。ヒュンヒュンと、甲高い音が鳴り響く。
しかし、首無し騎士はあっさりとそれらすべてを弾いて見せる。
無謀過ぎる……あの面積の広い大剣を前に、首無し騎士の大勢を崩させずに真正面から攻撃しても通らねえ!
「防御の隙があれば十分!」
瞬間、少女の足が一気に加速する。
まるでスケートのように一瞬でその場を離れると、俺の方へと戻ってくる。
「強い……! よくあれと打ち合えてたね……」
「攻撃の角度と大剣の状態を見極めれば受け流せるぜ?」
「…………君が人間離れしてるってことだけはわかってきたよ」
すると、首なし騎士の様子が変わる。
ゆらりと体をこちらへ向けると、静かにその場に佇む。
嵐の前の静けさ。今までにない雰囲気を、首なし騎士から感じる。
「おい……何か来るぞ……」
「何か?」
瞬間、首なし騎士は剣を両手で持ち直し、刃を上に向け胸の前にかざす。
そして。
「————破魔の構え」
瞬間、ザワっと俺の第六感が悲鳴を上げる。
これは――やばい!!
「おい!!」
「私も感じた!! 後ろに隠れて!!」
少女はすぐさま細剣を左手で握り、その刃にそっと右の手のひらを添えると前に向けて翳す。
「私達を守って、<氷雪の華>!」
すると細剣を軸に、パキパキと空気が凍り付いていく。
その氷は四方に広がって行き、そして花のような巨大な雪の結晶が展開していく。
恐らく、広範囲の防御障壁……!
それと同時、首なし騎士のスキルが発動する。
「――――<斬魔剣>」
刹那。
無数の剣閃が、少女を覆い尽くした。
縦横無尽に刻まれる、紫色に鈍く光る闇の閃光。その光は幾重にも折り重なり、格子状に空間を切り裂いていく。
激しく風を切る音と、斬撃が地面や壁に激突し深々と傷跡を残すゴリッとした鈍い音が入り混じり、まるで嵐のような音を奏でる。
「くっ……持たない……!!」
氷の防御障壁の端から亀裂が入って行き、少しずつ内に向けてヒビが広がっていく。一撃一撃の威力はそこまでのようだが、四方から際限なく襲い掛かる圧倒的手数で、完全に防御一辺倒だ。
その物量を前に、氷の華が粉々に散るのにそれほど時間はかからなかった。
綺麗な雪が舞うように、削られた氷の障壁の粒子はダイヤモンドダストとなって宙を舞い、そして消滅していく。
それは破壊という残酷な現象とは対照的に、美しく幻想的な光景だった。
「そんなっ――」
そして首なし騎士の無限の剣閃は、とうとう少女の身体へと襲い掛かる。
「きゃぁぁぁあ!」
四方八方から襲い来る剣閃に、抵抗虚しく銀髪の少女は斬り刻まれる。
それは、凄まじい光景だった。まるで大勢の剣士に囲まれ、一方的に切り刻まれるような、そんな光景だった。
斬撃の衝撃で少女は俺の方へと弾き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がる。
「お、おい!? 大丈夫か!?」
「ごめん……なさい……。すぐ……戻るから……ッ!」
咄嗟に助けようと伸ばした手から、光の泡がすり抜けていく。少女はモンスターが死ぬ時と同様に光の泡となって消えた。
彼女のHPが0になったんだ。つまり――死んだのだ。
その場には、再び俺と首なし騎士の2人だけが残された。
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