優しい雨

『――これで良いのかな……よし。えっと、これからお話しする内容は全て、僕たちが実際に目にした……いえ、今まさに体験している、真実に基づいた神木様の真相です。今ある神木様は、これから寿命を迎えます。それは、この雨が止んでいることからも明らかです。そして、再び世界に雨を降らすためには、神木様が生まれ変わる必要があります。そのためには――』



 ◆



 ――十年後。



「みなさーん、あと少しです。しっかり隣のお友達と手を繋いで、先生の後についてきて下さーい」



 大介の声が遠くから聞こえる。


 沢山の足音が、一歩、また一歩と近づいてくる。



「はーい、到着です。それでは神木様が見えるところで、座って下さい」


「テレビで観たことある木だー」

「僕も観たー! だい先生と千歳先生が映ってるやつー」

「知らない人も二人居るよねー」



 楽しそうな話し声が、あちらこちらで広がっている。



「みなさんも聞いたことがあると思いますが、ここに立っている木が神木様です。私たちの世界に雨を降らせてくれています」


「せんせー。神木様はどうしてあんな形をしているのー?」


「良い質問ですね。神木様がどうして二本、仲良く寄り添うような姿をしているかというと――神木様は二人の命とともに、ここで生きているからです。この二人がいなければ、私たち人間は、生きることも出来ませんでした。だからみんなも、神木様とこの雨に、ありがとうの気持ちを持つようにしましょう」



「だい先生と千歳先生みたいだね」



 園児たちは「ラブラブなんだー」と言って、盛り上がる。



「こ、こら。変なことを言うんじゃないの!」



 大介は子ども相手に動揺し、額に汗を掻いていた。


 園児の後ろで見守るように見ていた千歳が、その様子を見て微笑んでいる。


 千歳の笑顔に、頭を掻きながら苦笑いを浮かべて汗を拭う大介の左手の薬指には、銀色の指輪が輝く。


 大介が神木様の方を振り向くと、辺りを包み込むような風が吹いた。



 今日も暖かく、優しい雨が降っている――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雨の種 春光 皓 @harunoshin09

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ