第一章幕間 ある後輩の恋

突然ですけど、私には好きな人がいます。その人は運動だって、勉強だってなんでも出来る一個上の先輩なんです。そして、超絶イケメンなんです。超カッコいいです。


でも、私が先輩を好きになった理由は、

なんでも出来てイケメンだからではないんです。


先輩は覚えているか分からないんですけど、私、先輩と中学同じなんです。


その時、私ってあんまり友達いなかったんですよ。勿論、今はたくさんいますよ。でも、その時は本当に少なくて、話し相手もいなかったんです。


その当時から先輩の噂は聞いてました。


一個上の先輩にすごいイケメンの御曹司がいるってね。クラス中、いや学校中の女子が話題にしてました。ファンクラブだってあった記憶があります。


その時の私は先輩のことは寧ろ嫌いでした。お高くとまりやがって、くそ陽キャがって思ってました。今では考えられませんね。


でも、その当時は本当に先輩に対して恋愛感情というのは微塵もありませんでした。


それが変わったのは中一の冬ぐらいですかね。私何故か虐められるようになったんです。


最初は些細なことだったんですよ。ギャルの藤田さんが私のことを


「あんた本当に暗いよねー。深海魚の方が明るい性格なんじゃないの? 」


って言ったんですよ。それが思いの外クラスでウケちゃったみたいで、私深海魚って呼ばれるようになったんです。今考えもセンスがないあだ名ですよね? なんで性格が暗いイコール深海魚になるのか私の脳みそでは未だに理解できません。


でも、その当時は深海魚って言われてたことはあんまり気にしてなかったです。それのお陰で友達いなかった私も一軍メンバーと遊んだり出来たんでね。まぁ、俗に言う金魚のフンだったんですけどね……


でも、段々いじりが酷くなっていったんですよ。


最初は


「深海魚菌がつくぞー」


とか小学生みたいなつまんない弄りだったんですよ。それが段々エスカレートしていって、物を隠したり、机に落書きしたりされましたね。財布からお金だって抜き取られたこともありましたね。


特に酷かったのはトイレに入ってたら、急にバケツいっぱいの水をかけられたことですね。あれは寒かったし、泣きそうになりましたね。その日は初めて学校を泣きながら抜け出したのを憶えています。その時の藤田さん達の笑い声が今でも耳に残っています。


ただ、その時の私も悪いのが「嫌だ」って言わなかったですよね。言わなかったってより言えなかったの方が近いんですけどね。


だって、ここで嫌だなんて言ったらノリ悪いと思われて、ハブられると思ったんですよ。


この時の私、つくづく馬鹿でしたね。もうここまで来たらバブるハブられるの問題では無いって客観的に分かるはずなんですけどね。その当時は兎に角耐えればいつかは止むと思っていました。何を根拠にそんな事思ってたんでしょうか? 自分が不思議でたまりません。


ただ、そんな淡い期待も叶うことなくどんどんいじめは酷くなりました。そして、遂には辛くて学校をサボりました。朝起きて親にお腹痛いって嘘つきました。初めて親に嘘つきましたね。親はその嘘を信じたのか学校を休ませてくれました。


これで気分が楽になると思ったんですが、現実は違いましたね。サボったその日はいじめへの恐怖と親への罪悪感でぐちゃぐちゃでした。親が昼ご飯に持ってきたお粥も本当に申し訳なくてたまりませんでした。一人で泣きながらお粥を食べたことを憶えてます。


それに家も完全に安全ではなくて、スマホを開けば悪口、悪口、悪口の連続でしたね。次学校来たら殺すなど殺害予告もありましたね。


それがより一層学校に行く恐怖を強めました。そのため、次の日も、その次の日も学校を休みましたね。その休んでいる時も自分の部屋でがたがた震えてるぐらいしか出来ませんでしたけどね。ただ、そんなに頻繁に休んでいると、流石に親も仮病を辞めて学校に行け、って言ってきました。


それはそうですよね。親にしてみれば、わざわざ高い学費を払って私立の学校に行かせているのに、娘が学校をサボり出したら怒るのも当然です。今では両親の気持ちも理解できます。ただ、その当時の私は親ですら、私の心配してくれないんだって絶望していました。


私もここで虐められてるって親に伝えれば良かったんですけどね。その時の私は、助けを求めたら何されるかわかんないって気持ちでいっぱいでした。我ながら情けないです。


そうして何日かの仮病後、足取りは重いまま学校に行きました。すると、そこに待っていたのは地獄でした。どうやら、いじめって何日か休むと、とんでもなく酷い物になるんですね。今までは物を隠すとか悪口とか、直接暴力をされることは無かったんですけど、休み明けから髪を引っ張ったり、学校裏で殴られたりするようになったんですよ。


でも、彼女達の凄い所は傷跡が残らないギリギリを攻めてくるんですよ。傷跡ができるとしても、お腹とか背中とか服で隠れる場所に、できるようにするんですよ。感心しますよね。悪い意味で。


その当時はほんとに地獄でした。死にたいと思ったことが何度あったか覚えてませんね。気づいたら包丁を手に持っていた時もありました。そのぐらい私は精神的にも肉体的にも追い詰められていました。


そんな最悪な日々が一ヶ月ぐらい続いた頃でしょうか。


急にいじめが無くなったんですね。本当に突然。今までのいじめが嘘だったかのように無くなったんですよね。私が教室に入ったら聞こえるクスクスという笑い声もなくなりましたし、無くなっている物もありませんでした。藤田さんや他のいじめてた人達もなんだかよそよそしくなったんですよ。


その時は理由が全く分からなかったんですよ。


でも、後々分かったのが獅子王先輩がいじめっ子達を注意してくれたみたいです。


藤田さんも先輩のファンクラブ会員だったみたいで、その先輩に注意されたのでいじめを辞めたみたいですね。まぁファンクラブでなくても、あんなイケメンに注意されたら言うこと聞くのも無理ないですけどね。


まぁ、先輩が注意した時、いじめの主犯何人かは先輩の言う事なんて聞かないって言って、私をいじめようとしてらしいんですよ。先輩の言う事聞かないなんて、不届き者ですね。でも、現実は私は先輩が注意された後、虐められることはありませんでした。


なんででしょうか? 理由はその言うことを聞かなかった主犯達は全員、転校になりました。全員が親の転勤が理由らしいです。聞いたこともない海外の僻地に行っている子もいました。まぁ、これは先輩の御曹司パワーをフル活用した感じですね。それを見たいじめの参加者達はびびって、もう私には手を出さなくなりました。これで私の辛かった日々は幕を下ろしたんです。


でも結局、その時なぜ先輩が私が虐められてるのを知ってたのか、なぜ助けてくれたのかとか全く分からないんですけど、何故か助けてくれたんですよ。見ず知らずの私を。


多分、私は先輩が藤田さん達を注意していなかったら、今もこうして無事に暮らせてませんね。そのぐらい地獄みたいな日々が先輩のお陰で無くなったんです。


これは恋をするなと言う方が無理ですよね。


気づけば目で追ったりしてましたね笑。先輩のことをずっと考えていましたね。何が好きなのかなぁ?とか。どんな人がタイプなんだろう?とか。先輩で致す日もありました(照)。それはまさに恋する乙女でしたね。


それで、ずっと見てると分かるんですけど、先輩なんでも出来るんですけど可愛いんですよ。勿論、顔はシュッとしてイケメンなんですけど、それとは対称的に、意外にビビりだったり、本もラノベが好きだったりと、ギャップ萌えですね。


そんな日々を暮らしていると先輩も中学最後の年。私は勇気をだして先輩に告白しようとしたんです。下駄箱に手紙を入れて愛を伝えるあれです。けれど、緊張しすぎて結局出来ませんでした。あの時はすごく恥ずかしくて、その場から逃げちゃいました。


そんなこんなで、先輩は卒業して進学してしまいました。私たちの学校中高一貫だったので、まさか他の高校に進学するとは思っていませんでしたね。


なので、私は先輩が行った高校を目指しました。当たり前ですよね。大好きなんですから。


先輩が行った高校本当に頭良くて入るの大変でした。それでも、愛の力で何とかなりました。


そして、入学して数ヶ月たった今日こそ告白してみせるんです。このクッキーと一緒に告白してみせるんです。


今日は本当にドキドキしてましたね。一日中ソワソワしていて、友達にも不自然って言われました。それはそうですよね。一世一代の告白なんですから。


そして、放課後、先輩の後ろ姿が校門に見えました。先輩の帰りはとても早いんです。多分、家帰って沢山やることがあるんでしょうね。


「賢也先輩!! あの・・・」


やばいやばい。下の名前呼んじゃった。どうしよう。


好きって言わなきゃ。好きって言わなきゃ。


「ん? どうしたの?」


きゃー 賢也先輩の生声だ。どうしよう。言わなきゃ。言わなきゃ。絶対今私変な顔だ!! どうしよう!?


やばい!! やっぱり今日無理だよ。明日にしよう。学校は同じなんだからまたチャンスはあるはず!! だから、とりあえずクッキーだけでもあげよう。


「こ、これけっけんや先輩のために作りました。よかっかったら食べてください」


めっちゃくちゃ噛んじゃった。恥ずかしい。この場に居られないよー


私は無理矢理先輩にクッキーを渡した後、走ってましたね。どんなものよりも早く走ってましたね。これなら世界陸上に出ても戦えるんじゃないかってぐらい速かったはずです。


「あー、今日も言えなかったなぁ。でも、今日はしっかり賢也先輩を呼び止められたし、クッキーも渡せたし成長だ!!」


私はポジティブになって、今の恥ずかしさを誤魔かしてました。それぐらい顔は真っ赤で恥ずかしくなってました。


「明日こそ告白するぞー」


私は気合いを入れました。


そして、いつも通りの帰り道を歩き始めました。その道中も先輩のことを想い、妄想に耽っていました。


すると、一瞬眩しい光が見えました。眩しいと思い目を瞑りました。本当に眩しかったんです。今まで見た事がないぐらい激しい光でした。数十秒後、突然光は消えました。光は元々存在しなかったと思うぐらいあっという間に消えました。


一瞬、恥ずかしさから幻覚という間抜けな考えが浮かびました。すぐさま、そんな考えが浮かぶ自分が恥ずかしくなりました。そんな事を考えていると、光のせいでチカチカしていた視界良くなってきました。ただ、視界が段々良好になっていく度に私は驚きました。


なぜなら、そこはさっきまでいた学校からの帰り道とは違っていました。


「えっ!? ここどこ?」


こうして私は異世界に来てしまいました。









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