第七話 言語石と最後っ屁
「ねぇ通じてるの? なんか答えなさいよ」
と金髪はうるさく騒ぎ立てる。赤毛は静かだが気になっている様子だ。
「あぁ、通じているよ。ごめん、反応が遅れた」
と内心は思っていない謝罪をした。
実際、賢也は驚いていた。さっきまでは何語かすら分からなかった言葉が今では日本語のように聞こえるからだ。
「やったー、通じてる!! やっぱこの言語石すごい!! 」
とたいそう金髪は喜んだ。
「言語石? なんだいそれは? 」
と賢也は不思議そうに尋ねた。賢也はワクワクしていた。こんな石っころに本当に翻訳コンニャクのような力があるかどうかに。
「あー、君、やっぱり異世界人ってことね。納得、納得」
「えっ!? なぜ僕が異世界人って分かったんだ? 」
賢也はとにかく驚いた。
「なんでかって、えっへん、この私が凄...」
そう金髪が言いかけた所に
「言語石を知らなくて変な格好をしている人は異世界人だけたから」
と赤毛が無慈悲に言った。賢也は血まみれだが、自分が学ランを着ていることに気づき納得した。
「のー、なんでアリスちゃんさきにそれを言っちゃうの 」
と金髪は少し不機嫌そうに言った。それを無視してアリスは続けた。
「言語石はどんな言語でも翻訳できるもの。それに加え、低価格で仕入れることができるからこっちの世界の人は、知っているのが当たり前」
「ちょっと、私が言おうとしてたこと全部言われたんですけど…」
と拗ねていた。
そんな拗ねている金髪を無視して、賢也は言語石を握ってみたり、匂いを嗅いでみたりした。まるで子供が新しい玩具を貰った時のように。
それを見てアリスは少し笑顔であったが、すぐに元に戻った。賢也は頬が赤くなった。その赤くなったのを金髪は見逃さなかった。
「あっ!?駄目だよ。アリスちゃんは私のなんだから狙っちゃ」
とアリスに抱きつきながら言っていた。
「べ、別に狙ってねぇよ」
と小学生のような反応をしていた。賢也の胸はどきまきしていた。
(なんでこんなに胸が痛いんだ。魔法の副作用か? )
と訳分からないことを考えていた。普通の人ならこれを恋と分かるだろうが、賢也には分からなかった。それもそのはず、賢也はこの16年間一度も恋をしたことがなかったからだ。
「それにアリスちゃんはあんまり異世界人好きじゃないから...どんまい」
と金髪に励まされた。賢也は少し落胆しながら、この金髪はデリカシーがないなと思った。
「アリスちゃんが駄目でも私が居るから気を落とさないで。君はタイプではないけど、顔が可愛いから一日ぐらいなら付き合ったあげるよ」
と謎の上から目線をしていた。賢也は反応しづらかった。アリスもそんな感じであった。
少しの沈黙の後、アリスが言葉を発した。
「君はなんて名前なの? 」
「僕は獅子王賢也だ。よろしく」
「私はアリス。よろしく」
と静かに言った。静かだが、どこか力強さを感じた。
「えっー、私の事フル無視!? 悲しいよー」
と嘘泣きをしていた。
それでも、無視されたため金髪は普通に名乗り出た。
「私はレイチェル・マリオン・ハートって言うの。レイチェルって呼んでね。賢也くん」
と身振り手振りを交えながら言っていた。さっき沈黙が続いたのを全く気にしていない様子だった。
「そうだ。賢也くんはなんで迷いの森でこんなにボロボロになっているの? 」
とレイチェルは不思議そうに尋ねてきた。そんな質問を待ってましたとばかりに、賢也はここまであったことを少し話を盛りながら説明した。
「えっー。気づいたら異世界で、泥水を飲んだり、ドラゴンモドキに追われたりしたの!? それは大変だったね」
とレイチェルは同情していた。
あのドラゴンだと思っていた生物はドラゴンですら無かったのかと賢也は驚いた。そして、この世界には強い生物がいることも驚いた。そんな驚いている賢也にレイチェルは
「でも、女の子を助けたのは偉いよ」
とグットポーズをしながら褒めた。そして、続けて
「私達はその女の子を探していたんだよ。その女の子はアリスの村の娘なの」
「だからね。君がもしあそこであの女の子を助けてなかったら、今頃あの子は死んじゃってたよ。そこは本当に感謝しているよ。ありがとう」
「ありがとう」
アリスとレイチェルはとても感謝をしていた。
賢也は人助けなんてするんじゃなかったと思っていたが、人助けはやっぱり大事だなと思った。
「でもなんでドラゴンモドキが襲ってきたり、そんなに追ってきたんだろう? ドラゴンモドキは穏やかな種族なのに・・・」
とレイチェルは首を傾げていた。賢也もその言葉に驚いた。あれほどしつこい生物が穏やかな生物など到底思えなかったからだ。そんな疑問を持った瞬間、レイチェルは焦った様子で呟いた。
「あっ!? もしかしてこれ強化種」
レイチェルとアリスは急いでドラゴンモドキの死体を見た。
そうすると、ドラゴンモドキの口は大きく開かれて、その中には大きな火の玉があった。彼らをまさに狙っていた。
賢也はうつ伏せの状態のため、レイチェルとアリスが邪魔でドラゴンモドキの火の玉が見えなかった。
ドラゴンモドキはそれも計算して、自分を殺した者たちを殺そうとしていた。すごい執念である。
そもそも、ドラゴンモドキはその名の通りドラゴンの偽物である。そのため、飛ぶことも出来ないし、火を吹くことなんて以ての外である。
それなのに、このドラゴンモドキは強い執念により死んでいるのに、進化をしたのだ。死をも乗り越えたのである。それを可能にするのが通常種とは一線を画す強化種であった。
彼らが気づいた時には火の玉は発射されていた。
レイチェルとアリスはすぐさま火の玉の射線上から避けた。しかし、賢也は動かなかった。
「ちょっと、賢也くんなんで避けないの!? 」
レイチェルは叫んだ。
「体が全くうごかねぇ」
うつ伏せになりながら叫んだ。賢也の体はずっと限界であったのである。そのため、動くことなんて出来るわけがなかった。指ひとつさえ動かなかったのである。
賢也の目の前に大きな火の玉が迫ってくる。怖いはずなのにその火の玉はとても綺麗であった。
これが賢也が覚えている最後の記憶である。
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