第5話 婚約破棄されたらどうしよう

「アリシア様、アーク殿下とずいぶんと親しくなられたようですね」


 揺れる馬車の中、侍女のマリーがうれしそうに言う。


「ええ、ごめんなさい。つい話し込んでしまって」


「アリシア様が謝ることではありませんわ。婚約者同士仲のいいことは、わたくしも良いことだと思いますもの」




 私たちの乗る馬車は、アークの乗る馬車の後をついてきていた。その方が良いと、アークが提案したのだ。




 そして二台の馬車の周りを、馬に乗った魔法騎士たちが取り囲んで警護している。


 無理もない、王族が乗る馬車が二台なのだから。


 しかもアークはグランバーグ王国の第二王子。


 何かあったらグランバーグ王国との国際問題に発展しかねない。




 王都を抜けると、馬車の窓の外の景色がだんだん自然豊かになってきた。


「マリー、魔法都市ローズウォーターまではどれくらいかかるの?」


「そうですね。2、3日というところでしょうか?」


「泊まる場所の手配はしてあるの?」


「アメジスト公爵様の別邸を手配しております。そこからはロザライン様も同行する予定でおりますが?」


 マリーの言葉に、私は少し嫌な予感がした。






 アメジスト公爵は訳あって王位を継ぐことが出来なかった私の伯父、そしてロザラインはその娘、つまり私の従姉妹である。


 ロザラインは優秀な魔法使いで、幼い時魔法が使えなかった私のことを事あるごとに馬鹿にしていた。




「アリシア、貴女が魔法を使えるのはそのペンダントのおかげじゃなくて?」


 いつの頃だか、そう言い出したのは他でもないロザラインだ。


「貴女は王女に相応しくないわ。そんなものの力を使わずとも強力な魔法が使えるわたくしのほうが王女に相応しいのよ」


 ロザラインの言葉に、私は押し黙るしか無かった。




 ロザラインは魔法が優秀なだけでなく、私よりずっと美しかった。


 巻き毛の銀髪、紫のアメジストの瞳。


 きつそうな顔立ちだけれど、美人だった。




 それに比べて、私、アリシアは――


 平凡な茶髪に、目の色も茶色。


 顔立ちも、お父様にもお母様にも似ていない。


 至ってありきたりの顔立ち。




 ――そして、ペンダント無しでは、魔法すら使えない。




「――どうされたのですか?」


 マリーにそう言われて、私はハッとする。


「ごめんなさい、少し考え事をしていただけよ」






 ――本当は、アメジスト公爵の別邸に泊まって、ロザラインと会いたくなかった。




 今回はアークも一緒なのだ。


 ロザラインから、私がペンダント無しでは魔法が使えないと聞いたら、アークは私との婚約を破棄してしまうかも知れない。




 そう思ったのは。




 ――恋愛小説が好きな私がよく読む小説の設定。


 王家や貴族の娘に生まれたのにも関わらず、何の力も持たないために、無能と虐げられ、挙げ句の果て婚約破棄されて、実家からも追放される。




 私はそんな小説のヒロインと自分を重ねることがよくあった。


つらすぎて、小説の続きを読むことは出来なかったけれど。




 ――きっと、婚約破棄され追放されたヒロインは、行くあてもなく一人で死んでしまうんだわ。


 だって、何の能力も無く、助けてくれる人なんて、誰もいないんだもの。






 もし、ロザラインの前でアークに婚約破棄されたら。


 きっと、彼には二度と会うことができない。


 そう思うと、胸がキュッと痛む。






 ううん、もしそうなったら、お父様お母様の元に戻ればいい。


 私はお父様、お母様に大切に育てられたんだもの。




 ――それでも、切なくなるのは、なぜ?


 アークと離れたくないから?




 彼とは少しだけ話をしただけなのに、こんな気持ちになるのは、どうしてなんだろう?


 ――その時の私には、まだ分からなかった。


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魔法王国の王女なのに魔法の使えない私が婚約者の王子様に溺愛されています りむ @rimu_15165535

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