第4話 お友達から始めましょう

 王宮の前に用意されていた馬車には私の荷物の他に、アーク殿下の荷物もしっかりと詰め込まれていた。




 ――ううっ、逃げられない。




 不安に思う私に、




「いきなり、こんなことになってすまない、アリシア王女。私とは初対面なのに」


 アーク殿下が言った。




 私は、後ろに控えていた侍女のマリーに声をかけた。


「マリー、あなたは知っていたの?」


「申し訳ありません、アリシア様」




「……」


 私が黙っていると、


「そうですか」


 アーク殿下が言った。




「ならば、別の馬車を用意させましょう」


 そう言って、アーク殿下は側に控えていた侍従に耳打ちする。




 すぐに別の馬車が用意され、侍従たちがアーク殿下の荷物をそちらに運び込む。




「アリシア王女、私は貴女を驚かせたり、戸惑わせるつもりはありませんでした。気遣いできなくて申し訳ありません。ただ、貴女とは少しでも親しくなりたいのです。それを、分かって下されば」


 アーク殿下が、頭を下げる。


「そして、アリシア王女。私は貴女を、必ずお守りしますから。だから――」


アーク殿下のサファイアブルーの目が、こちらを見つめた。




「分かりました、アーク殿下」


 私は言葉を続ける。


「私が貴方との婚約をお受けしたのは、私を大切に育てて下さったお父様とお母様のためです。でも、私がアーク殿下のことを好きになれるかどうか、分かりません。とても、不安なんです。――私、婚約者失格ですね」




「分かりました。――でしたら、まず初めに、お友達になりませんか?」


「――お友達?」


「そうです。私のことは、お友達と思って、気軽に話しかけて下されば――」




 アーク殿下がそう言ったので、私はあることを提案する。


「では、こうしましょう。私のことは、王女じゃなくて、ただアリシアと呼んで?私も、あなたのことはアークと呼ぶわ。それから、堅苦しい敬語も無しで」


「そんなことで、いいのですか?」


「その方が、アークと早くお友達になれる気がするの」


「分かった。じゃあ俺も、君のことをアリシアって呼ぶことにするよ」


 青い瞳に親しげな微笑みを浮かべながら言うアークの言葉に、私はドキッとする。




 ――え?ちょっと待って?




「今、アーク俺って言った?」


 私が聞くと、


「え?俺ってそんなに変かな?」


「だって私、自分のこと俺って呼ぶ人、物語の中でしか見たことなくて――」


 そう言う私に、アークがクスッと微笑む。


「アリシア、小説とか読むの好きなのか?」


「うん、昔から結構読むわ」


 私が言うと、


「アリシアのこと、少し知れて俺も嬉しい。――少しは、友達に近づいたかな?」


 アークが尋ねた。


「うん、――ありがとう」


 私がそう言ったときだ。




「アリシア様、出発の時間をだいぶ過ぎておりますよ」


 侍女のマリーが声をかけてくる。


――アークとのお話に気を取られてて、忘れてたわ!


「分かったわ、マリー。出発しましょう」


 そう言って、私は馬車に乗り込んだ。

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