彼女の誘惑

 琴子に言い寄って来た暴漢2人組を見事に撃退したのはいいのだが…それを周りにいた他の海水浴客にも見られていたようで、僕と琴子に注目が集まっている。


「う、うーん…僕たち注目を集めちゃったみたいだね。ちょっと恥ずかしいな」


「私は別にこのままでもいいけど…武光君がそう言うなら場所を移動しようか? とっておきの場所を教えて貰ったの」


「とっておきの場所?」


「うん、ついて来て」


 僕は荷物をまとめると彼女の後について行った。



○○〇



「どう? 海に行くって言ったらお母さんから教えて貰ったの!」


「へぇ、こんなところがあったのか…」


 僕が琴子に案内されてやって来たのは海岸の端の方、大きな岩と岩に挟まれていて周りから隠されるようになっている小さな入り江だった。秘密の場所…といえばこんな感じではないだろうか。


 周りを見渡してみたが人っ子1人いなかった。ここが海岸の端という事でわざわざここまで来るような人はいないし、岩と岩に挟まれているせいで見つかりにくいのだろう。


 ここであれば琴子が他の海水浴客に絡まれる心配はないし、2人で思いっきりイチャイチャしても周りの人間から見られることは無いと思われる。


 僕は向こうの海岸から持ってきた荷物をそこに置いて再び拠点を作った。まさに2人だけのプライベートビーチだ。


「それにしても武光君って強いんだね。私、惚れ直しちゃった♡」


 琴子が自分のお腹の部分をさすりながら熱い目線をして僕を見て来る。どうしたんだろう、寒いのかな?


「小さい頃に格闘技を習っていてね。僕には才能がなかったみたいだから何年か前に辞めちゃったんだけど、琴子を守るために役に立ったから習っていた甲斐はあったよ」


 小さい頃の僕は病弱だった。なのでおじいちゃんに「身体を鍛えれば病気にかかりにくくなる」と言われて半場無理やりおじいちゃんがやっている道場に通わされていたのだ。


 何年か道場に通って身体を鍛え、強くなるために練習もしたのだが、それでも道場の中では弱い方だったのと、僕自身があまり他人を傷つけるのを好きではなかったので自分には格闘技の才能が無いと思って小学校卒業と同時に辞めてしまったのだ。


 しかし格闘技を習っていたおかげで琴子に出会う事ができたし、琴子を守る事もできたのだ。こればっかりはおじいちゃんに感謝である。


「あの時の武光君、スッゴクかっこよかったよ♡ …ハァハァ」


 …なんか琴子、息遣いが荒くなってない?


 彼女はそのまま僕に近づいてくると獲物を狩る時の蜘蛛の様な俊敏さで抱き着き、そして唇を奪ってきた。


「んん!?」


「ちゅ♡ ごめんね武光君、わたひ、ちょっと抑えられそうにないの♡  ぺろっ♡ お腹の部分が熱くなって…キュンキュンキュンキュンしてるの♡ ちゅぱ♡ だから…治まるまで付き合ってね♡ これは武光君のせいなんだからね♡ れろっ♡」


 彼女はいつもより激しいディープキスを僕にかましてくる。そして今の彼女は水着…。いつもより柔らかい身体の感触が僕を襲う。あぁ…気持ち良い。これは本当に人をダメにする気持ちよさだ。


 一応、僕の理性が壊れてしまった時のために康太から貰ったコン〇ームを鞄に入れてきているのだけれども…。僕は出来ればアレを使う事態が起こるのは避けたいのだ。僕たちは高校生、健全なお付き合いを…。



○○〇



「あぁ…大分マシになった♡」


 あれから30分、僕はなんとか琴子の猛攻を耐えきった。琴子はお腹のあたりを摩りながらそう呟く。さっきから琴子がお腹の辺りを摩っていたのはそこが疼いていたからなのね。…彼女がお腹を摩っていたら要注意だな。


 彼女も僕の「大人になるまではエッチなの禁止!」という理念を理解はしてくれているのだが、それでも感情が抑えきれなくて暴走してしまう時がたまにあるらしい。


 先ほど僕が暴漢を撃退した姿を見て興奮が抑えきれなくなったようだ。でもこれで彼女の興奮は収まった。もう僕が襲われる事はないだろう。


 安心したら僕は喉が渇いてきたので、海の家で買って来たジュースを飲む。そして財布を鞄のチャックを開けて、中に仕舞った。


「………!」


 琴子は僕の鞄の中を興味深げな眼をして見ている。…そんなに珍しい物は入っていないはずだけどな。


「ふーん、そうなんだ。武光君もやっと覚悟を決めてくれたんだね♡」


「えっ?」


 僕は琴子が発した言葉の意味が分からずに首をかしげる。どういう意味だろうか?


「ねぇ武光君、今から武光君の部屋に行く?」


「どうして? せっかく海に来たんだしもっと泳ごうよ」 


 彼女はどうしていきなり僕の部屋に行きたいと言い出したのだろうか? 疲れたのかな? 


 琴子は僕の耳元に口を近づけるとこうささやいてきた。


「武光君の鞄の中にゴムがあるの見ちゃった♡ つまり避妊さえすれば…武光君もエッチな事をしたいって事だよね? …いいよ♡」


「!?」


 ヤバッ!? 彼女にゴムが見つかった。さっき琴子が僕の鞄の中を興味深げに見つめていたのはそれが理由か。


 これはもしもの時のための保険用に持っている物で、琴子と積極的にエッチな事をするために持っているわけじゃない。


 でも琴子からするとこれは僕が彼女とエッチしたいが為に持っていると思われてもおかしくはないよな。それ以外の目的が無いし。…どうやって言い訳しようか。


「こ、琴子。これは康太がこの前僕の部屋に忘れていった物なんだ。返そうとして鞄に入れたまま忘れてたんだよ。だからそういう目的で持ってるんじゃないの」


 困った僕は康太を利用する事にした。まぁ元々は彼が無理やり僕に押し付けたのが原因だし。スマン、康太。 


 僕は彼女を説得するために言葉を続ける。


「前にも言ったけど、僕たちは大人になるまでエッチなのはNGね。避妊具だって避妊率は100%じゃないんだよ。僕はこの前絶対に琴子を悲しませないと誓った。だから君を傷つけるかもしれない事はしたくないんだ。分かって、ね?」


 琴子は僕の説得に「シュン」とうなだれて残念そうな顔をしていたが、やがて顔をあげた。


「うん、仕方ないね。私も武光君のそういう誠実な所が好きになったんだし」


 良かった。なんとか納得してくれたようだ。


「でもその分はキスで補填ね♡」


「むぐっ!?」


 彼女は再び僕の唇に熱いキスをしてきた。あぁ…本当に困った彼女だ。



○○〇



 時刻は夕方になり、僕たちは引き上げる事にした。2人で海を堪能できて楽しかった。大切な夏の思い出になるだろう。


 …しかしそこでちょっとしたトラブルが起こる。琴子は来る時に服の下に直接水着を着ていたのだが、帰りに着る下着を持って来るのを忘れてしまったのだ。


「うう~/// こんな小学生みたいなミスをするなんて…恥ずかしぃ~///」


 琴子は顔を赤くして恥ずかしがっている。水着の上から服を着て濡らすわけにもいかないし、困ったな。特に彼女の着ていたブラウスは生地が薄いので濡れると透けてしまう。


 だが自分の彼女を水着のまま帰らせるわけにもいかない。僕は自分が着ていた服を彼女に貸す事にした。僕の着ていたTシャツは色が濃いし、多少濡れたところで透けないだろう。


「いいの?」


「うん、僕は男だから別に海パン一丁で歩いていても平気だし。洗って返してくれればいいから」


「ありがとう武光君♡」


 琴子は大喜びで僕のTシャツと半ズボンを着用する。しかし僕の服を着た琴子はプルプルと震え始めた。…どうしたんだ?


「あっ…//// 武光君の濃厚な匂いがする…//// また…興奮してきちゃったかも…///」


「ええっ!?」


 僕は興奮する琴子をなんとか抑えながらも彼女を家まで送り届けた。…ううん、やはり何かあった時のためにゴムは持っておいた方がいいのだろうか?



○○〇



本当はもう少しエッチなのを予定していたのですが、諸事情により没になりました。

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