僕の彼女は匂いフェチ

 僕たちが海水浴に行った次週のある日、その日も僕たちは会う約束をしていた。というか琴子とはほぼ毎日と言っていいほど会っている。これだけ頻繁に会っていてもまだイチャイチャしたりないのだから不思議だ。


「はい、武光君。これありがとう♡」


 琴子は僕の部屋に上がるや否や、紙袋を手渡してきた。何だろうとその紙袋の中身を覗いてみると、この前海水浴に行った時に彼女に貸してあげた僕の服が入っていた。


 僕は紙袋の中から服を取り出すと中身を広げて確認する。間違いなく僕が貸したTシャツと短パンだ。…無茶苦茶綺麗になっている。琴子の家の洗剤は最新型の洗剤を使っているらしいのでここまで綺麗にできるらしいが、それにしても綺麗すぎる気がするな。


「そ、それだけ最新の洗剤が凄いんだよ/////」


「ふーん…」


 科学の力って凄いんだなぁ。あのTシャツは去年買った物なので、少し布地がくたびれていたりしたんだけど、それすら無くなってパリッとしている。本当に新品になったみたいだ。まぁ綺麗になって返って来たんだしいいか。僕はそれを紙袋の中に戻すと部屋の隅に置いた。



○○〇



 僕たちはエアコンの効いた部屋でベットの上に座り、まったりとTVを眺めていた。今日は琴子が2人でのんびりとしたいとご所望だったので、僕の部屋でゆったりと過ごす事にしたのだ。


 TVでは芸能リポーターが今話題の観光スポットとしてひまわり畑の取材に訪れていた。そこでは人の背丈より大きく育った大量のひまわりが見事な黄色い花を咲かせていた。これだけ大量に咲き誇っているのを見ると壮観である。


 そこを訪れた観光客はひまわりと一緒に写真をとったり、そのひまわり畑は牧場と隣接しているのだが、牧場で採れた新鮮な畜産物を使ったお菓子に舌鼓を打っているようだった。特にソフトクリームが絶品らしい。ひまわりの種のエキスをソフトクリームに練り込んだ「ひまわりソフトクリーム」というのが人気だそうだ。


「あっ! 武光君、ここって隣町じゃない?」


「えっ、そうだっけ?」


 琴子がそんな事を言ったので僕は画面の端に書かれているそのひまわり畑の場所を確認する。すると彼女の言う通り僕たちが住んでいる町の隣町にそのひまわり畑はあるようだった。


「近いね。今度行ってみる?」


「いいの? 行こう行こう! 私1度でいいからこんな大量の花に囲まれてみたかったの!」


 琴子は僕の提案に大喜びする。次の琴子とのデート先が決まった。花畑と美少女、琴子とひまわり畑のマリアージュはさぞかし綺麗だろうなと僕はそれを見るのが楽しみになって来た。


 しかし、そこでジュースを飲みすぎたのか、急に尿意を催した僕は彼女にそれを伝えてトイレに向かう事にした。



○○〇



「…琴子、またやってたの?」


「ハッ!///// ご、ごめんさい。つい…//// だって濃厚な匂いがするんだもん♡」


 僕がトイレから戻ってくると、部屋から「ゴロゴロ」という不審な音が聞こえてきた。もしやと思って急いで部屋の扉を開けると、そこには案の上ベットの上でローリングをしている琴子の姿があった。


 …参ったな。これをやられると琴子の甘い匂いが僕のベットに染みついて興奮して寝られなくなるんだよな。彼女にローリング禁止令を伝えるのをすっかり忘れていた。 


 今からではもう遅いけど、またやられる前に伝えておくか。


「琴子、これからはローリング禁止ね」


「えっ、どうして!?」


「それは…えっと。ほら、ベットのバネが痛むかもしれないから。この前お母さんにそれを怒られたんだよ」


 本当は彼女にベットの上でローリングされると僕が眠れなくなるからなんだけど、それを言っても彼女には逆効果だろう。むしろ嬉々ききとしてやりかねない。なので適当な理由をでっちあげた。


「そ、そんなぁ…。私これ大好きなのに…」


 琴子はこの世の終わりのような表情をして絶望する。…そこまで落ち込まれると心が痛む、でもこれは僕の快適な睡眠時間確保のためなんだ。許してくれ琴子。


 僕は彼女の隣に座ると前から気になっていた事を聞いてみた。


「琴子って匂いフェチなの?」


「多分そう♡ 私は武光君の匂いを嗅ぐと、とても幸せな気分になるの♡ こんな匂い他にないんだよ。この部屋は武光君の匂いが満ちていて私は凄く幸せ♡」


 彼女は恍惚と言った表情でそう力説する。ちなみに…彼女が僕の部屋に来たがるのはこれが理由らしい。僕もたまに彼女の部屋に行ったりするのだが、彼女が僕の部屋に来るのと僕が彼女の部屋に行くのでは割合的には9対1ぐらいであった。


 ふ~ん…そんなに僕の匂いが好きなのか。自分では匂いが分からないので、それがどういうものなのかよく分からない。


 …と僕はそこである事を思いついた。ベットでゴロゴロするのを禁止にしちゃったし、それなら代わりに何か僕の匂いがしみ込んだ物をプレゼントしようかなと。


 でも匂いがしみ込んだ物って何があるんだろう? 僕が今着ている服とか? 流石に今着ている服を脱いでプレゼントするのもな。


 匂いがしみ込んだものねぇ…。僕は何かないかと周りを見渡した。そしてたまたま部屋に持って来ていた新品のタオルが目に入る。


 今から匂いをしみ込ませるのはアリかな?


 僕はそれを手に取り、そして自分の首筋に擦り付けた。確か首筋からは人間のフェロモンの香りが分泌されているという話を聞いた事がある。匂いフェチなら…こういうの好きじゃないかな?


「武光君、何してるの?」


「琴子、これ…匂ってみて」


「??? いいけど…。ッ!♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡////////////」


 琴子は僕が渡したタオルを嗅ぐと、そのままビクッビクッと身体を痙攣させ始めた。


 …えっ、一体どうしたんだ? まさか僕の首筋の匂いが臭すぎて琴子が悶絶しているとか? やはりいくら匂いフェチと言っても臭い物は臭いのだろうか。


「こ、琴子ごめん。まさかそんなに臭いとは思わなくて。悪ふざけが過ぎたよ。本当にごめんね」


 僕は急いで彼女からタオルを回収しようとしたのだが、琴子はタオルを回収しようとした僕の手をはじいてきた。


「こ、こんにゃ危険なもにょをわたひにかがせりゅにゃんて♡♡♡///// これはわたひにとって麻薬と同じ♡♡♡♡///// あぁ…脳がしあわしぇ…♡♡♡♡♡/////」 


「んん? 琴子なんて言ったの?」


 琴子が何かを言ったのは分かったのだが、彼女の呂律が回ってなさ過ぎて何を言ってるのか分からなかった。呂律が回らなくなるほど臭かったのか…。ますます彼女に申し訳なくなる。


 琴子は自分のバックの中にそのタオルを素早くしまった。


「えっ、持って帰るの?」


「私が責任をもって洗濯します///// だからこれは没収!/////」


「いやいや、流石にそれは申し訳ないよ。僕が自分で洗うよ」


「私の家の最新の洗剤で洗わないと取れないと思う」


「そこまで臭いの!?」


 彼女の家の最新の洗剤で洗わないと匂いが取れないと判断されたのか。僕の首の匂いはそんなに臭いのか…。


 僕はその事実に落ち込んだ。しかしそれとは逆に、琴子は何故かその日ずっとご機嫌だった。臭い物を嗅がされたのなら怒ってもよさそうなのにな。やっぱり琴子は優しい子だな。



○○〇


次回はひまわり畑に行きます

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