琴子と海水浴

 とある夏の日、僕と琴子は僕たちが住んでいる町にある海水浴場に来ていた。


 燦燦と照りつける太陽、雲一つない青空、ザァザァと響く波の音、そして…青い海。まさに絶好の海水浴日和である。


「海だぁー! 武光君、海だよ海!」


 琴子は海を見て興奮していた。夏休み前から「行きたい、行きたい」と言っていたので、ようやく念願叶ったという感じだろう。


 できるだけ人が少なそうな日を選んで来たのだが、それでも砂浜には海を楽しもうとする海水浴客が沢山いた。夏休み中だからか学生っぽい人たちの姿が多い。


「さっそく泳ごうよ♪」


 琴子はもう待ちきれないという感じで僕の腕を引っ張って来る。しかし海に入るにはまず水着に着替えなくてはならない。


「えっと…更衣室ってどこにあったかな?」


「ふふふ…実はね。私、もう服の下に水着を着て来てるの」


「えっ? 実は僕もなんだ」


 今日の僕はTシャツに半ズボンというスタイルなのだが、半ズボンの下にはもうすでに海パンを穿いていた。僕が海に行く時は基本的にこうである。服を脱げばすぐにでも海に入れるからね。帰りは…まぁこの時期に男が海パン1丁で歩いていても別に気にする人はいないし。


 でもまさか琴子も同じスタイルだとは驚いた。個人的にだが女の子は現地で着替える人が多いという印象がある。帰りの着替えは持って来ているのかな? 


「そうなんだ。武光君と一緒だね♡」


 琴子は満面の笑みで僕と気が合った事を喜んでいる。今日の彼女はいつにも増してテンションが高い。夏の暑い気温がそうさせているのだろうか。


 2人とも水着を服の下に着ているのなら更衣室に行く必要はないな。じゃ…泳ぐか?


 僕たちは砂浜に降りると海の方に向かって歩き始めた。まずは荷物を置ける拠点を作らないといけない。


「ここら辺にしようか」


 僕は海から5メートルほどの場所に家から持ってきたビニールシートを敷いて拠点を作る。風で飛ばされないように四隅に石を置くのを忘れない。そして横にビーチパラソルを刺して僕たちの拠点にした。


「どうぞ、琴子」


「ありがとう武光君♪」


 琴子はビニールシートの上に自分の荷物を置く。僕も彼女に続いて自分の荷物を置いた。これで後は服を脱げばいつでも泳げる。


「それじゃあ武光君お待ちかねの水着タイムだよ♪」


 彼女はニヤニヤと笑いながら僕の方を見て来た。


 …いや、別に琴子の水着が楽しみで海に来たわけじゃないぞ。あくまで琴子と海水浴を楽しみたくて来たんだからね。そこは勘違いしないでよね!


 琴子は身に着けているブラウスと少し長めのスカートを脱ぎ始めた。彼女の着ている水着が徐々にあらわになって来る。何故か無性にドキドキする。


 琴子の水着は僕がリクエストした通り露出が控えめなものだった。トップスはフリルが沢山ついている物で、彼女の豊かな胸がちょうどフリルで隠れるようになっている。アンダーは普通のパンツ型の水着なのだが、彼女はその上からパレオを身に着け、水着が見えにくい様にしていた。


 総じて琴子の可愛さを十分に引き出しつつも、露出が控えめの水着と言えよう。僕の要望通りの水着だ。


「ジャーン♪ どう、武光君?」


 彼女は僕に向かってセクシーポーズを取りながらアピールしてくる。


「琴子、凄く似合ってるよ。可愛い」


「ありがとう! そう言われると嬉しいな♡」


 彼女はそう言って僕に抱き着いてくる。水着越しに彼女の柔らかい胸の感触が僕を襲う。どうした事だろうか、彼女は露出の少ない水着を着ているはずなのに僕の心は普段よりドキドキしていた。海という開放感あふれる所に来ているからだろうか?


「武光君の心臓の音、伝わって来るよ。普段よりドキドキしてるね。水着が効いたのかな?」


「そ、そんな事は無いと思うよ」


 僕は精一杯否定する。僕は彼女の水着で興奮するような破廉恥な人間ではない。


「それよりも琴子、早く泳ごうよ」


「あー、話はぐらかした」


 僕は着ているTシャツと半ズボンを脱いで海パン姿になると琴子と手を繋いで海に駆け出した。そして2人で海へとダイブする。


 冷たい水が気持ち良い。そしてしょっぱい。これぞ海、夏の風物詩だ。


「気持ち良いねー」


「うん、やっぱり夏と言えば海だね」


 僕と琴子は笑いながら2人で海を楽しんだ。水の掛け合いをしたり、砂浜で城を作ったり…そして楽しい時間は過ぎていった。



○○〇



 僕と琴子は一旦休憩をするために砂浜へと上がる。時計を見ると僕たちが海に来てからもう2時間近く経っていた。


 …沢山運動したから少し小腹が空いてきたな。それに喉も乾いた。


「琴子、ちょっと小腹空かない?」


「うーん、空いたかも?」


「何か海の家で買ってこようか?」


「じゃ、一緒に行こうよ♪」


「うん、あっ…でも誰かが荷物も見ておかなくちゃいけないんだ」


「あっ、そうか」


 今まで僕たちは砂浜にある自分たちの拠点が見える位置で遊んでいたから良かったのだが、海の家に2人揃って行くとなると拠点から大分離れないといけなくなる。その間に拠点に置いた荷物が盗まれてしまう可能性があるのだ。


 この辺りは治安が良いと言っても犯罪が起きる可能性はゼロではない。なのでどちらか1人は荷物を見ておかないといけない。


 うーん…どうしよう。僕1人で買いに行ってもいいのだが、彼女1人を残していく事に少し不安を覚えた。なんせ琴子は可愛いからね。ナンパとかされないといいけど…。やっぱり買いに行くのやめるか?


「大丈夫だよ。ナンパしてくるようなクソ男は私が払いのけるから! だから武光君は安心して買い物に行って来て!」


 僕の心配そうな表情を見て察したのかそんな事を言ってくる。せいぜい10分ぐらいだし…大丈夫だよな?


 そう判断した僕は海の家に買い物に行く事にした。



○○〇



 10分後、海の家でたこ焼きと焼きそば、そして飲み物を2つ購入した僕は拠点へと戻る。


 だが僕が拠点の近くまで戻って来ると、そこには琴子の他に男が2人いた。心配していた事が当たったか…。


「しつこいって言ってるでしょ!」


 琴子はブチ切れた様子で2人に食って掛かる。相当頭に来ているようだ。彼女の剣幕に2人組の男が怯むのが分かった。


「な、なぁアニキ、この姉ちゃん怖えよ。ナンパするなら他の女の子にしようぜ」


「うるせぇ! ここは男のプライドにかけて引けねえんだ。1度失敗してるからな。2度目はねぇ!」


 …あの2人、どこかで見た事があると思ったら昔本屋の近くの空き地で琴子をナンパしてた2人組じゃないか。僕と彼女が出会うきっかけになった2人でもある。性懲りもなくまた琴子をナンパしてるのか。


「あっ! 武光君」


 琴子は僕の姿を見つけるとホッとしたような表情をしてすぐに僕の近くに駆け寄って来た。


「アニキ…こいつ、前に俺らに1発食らわせた坊主ですぜ?」


「ちょうどいい、あの時の借りを返す時がきたようだな。ブチかましたるでぇ!」


 2人組の男は肩をグルグル回しながら戦闘態勢に入った。僕は本来あまり暴力沙汰は好きではないのだけれど、琴子に怖い思いをさせたとあっては話は別だ。僕は彼女を守ると決めたのだ。


 琴子に海の家で買って来た物を預けると僕も同じく戦闘態勢に入る。


「くらいーやぁ!」


 パンチパーマの男が大きく拳を振りかぶった。相変わらず大きい振りだ。大きい振りは威力は高いが、その分隙が大きい。


 僕はそれをスルッと避けた。するとパンチパーマの男は下が砂浜という事もあり、勢い余ってふらついた。僕はそれを見計らって彼の足にローキックをぶちかます。


「ぐえっ!」


 男はそのままこけて顔面から砂浜に突っ込んだ。彼はそのままズルズルと砂浜を転がっていく。まずは1匹。


「てめぇ!」


 もう1人の坊主の男が僕の後ろから突っ込んでくるが…前にも言ったけど声を出したら不意打ちにならんぜよ。


 僕は突っ込んでくる男の顔に向かってエルボーをぶち込む。肘をちょいと出すだけ。突っ込んでくる相手にはこれだけでも結構な威力になる。


「ぶへぇ!」

 

 予想通りその男の鼻に肘がクリーンヒットした。男は鼻血を出しながら砂浜に倒れる。


「琴子に手を出すならもっと痛い目にあって貰うぞ!」


 僕は精一杯ドスの効いた声で彼らを威嚇した。


「クソ! 覚えてやがれ!」


「お前の母ちゃんでべそ!」


 2人組の男はあの時と全く同じ捨て台詞を吐いて立ち去った。これでもう琴子に絡んで来ないといいんだけどな。


「ふぅ…終わった。琴子、ケガはない?」


 僕がそう声をかけると琴子は僕に抱き着いてきた。


「武光君ありがとう! 凄くカッコ良かったよ♡ あぁ…私のお腹がキュンキュンしてる…♡」


 琴子はうっとりとした表情で僕を見つめて来た。…この様子だとケガは無さそうだな。


 しかし不覚だったな。僕が離れた瞬間にこうなるなんて…考えが甘かった。これからはもう人の多い所では琴子の傍から離れない方がいいな。



○○〇


 書いていて長くなったので話を分けます

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