男同士の語らいと近況報告
「おっ! 武光そこそこ! 右側に敵いるぞ!」
「えっ? 本当だ! おりゃりゃりゃりゃ!」
その日、僕と康太は僕の家で流行のFPSゲームをして一緒に遊んでいた。落ちている武器を拾って、チームを組んだ人と協力して他のプレイヤーを倒すアレである。
夏休みに入って僕はほぼ毎日琴子と一緒にいたのだが、今日はたまたま琴子が家の用事があるとかで一緒にいられなかったので、康太を誘って遊ぶ事にしたのだ。彼とは夏休み前に一緒に遊ぼうと約束もしていたしね。
「あークソ、負けたぁー!」
「えっ? 今敵どこにいたんだよ? まさかチート使ってるんじゃないよな?」
2人でスマホの画面を注視し、忙しく操作をしながら勝った負けたで一喜一憂する。琴子と一緒にいる時間も楽しいけれど、同性の友達と一緒に遊ぶのもそれはそれで別の楽しさがある。
僕たちは2時間ほどゲームをやったところで少し疲れたので休憩する事にした。康太は先ほどお母さんが持って来た氷がタップリと入った炭酸ジュースを飲んで一息ついている。
「ぷはぁ~。やっぱり夏はエアコンの効いた部屋の中で扇風機を回しながら氷がタップリ入ったジュースを飲むのが最高だぜ!」
「康太おっさんみたいな事言ってるね」
僕もコップからジュースを飲んで、康太に笑いながらそう言った。気持ちは分からなくはない。涼しい部屋で冷たい炭酸ジュースを飲んだ時の爽快感は格別なものがある。特に風呂上がりに飲むと更に効果が倍増される。
康太はもう一口コップからジュースを飲むと、思い出したような顔をして口を開いた。
「そういやさ…武光は横浜があの後どうなったか聞いたか?」
「なんかあったの? 女の子に刺されたって所までは聞いたけど」
横浜、そう言えばそんなのもいたなぁ。琴子と過ごす夏休みが楽しすぎてすっかり存在が記憶から抜け落ちていた。もう彼とは関わる事もないだろうしね。
「それがよ…。緊急手術の甲斐あって一命はとりとめたらしいんだが、刺された時に血を流しすぎたみたいでいまだに意識が戻らないんだとよ。あとついでに言っとくと、あいつのイチモツと玉も刺されすぎて使い物にならなくなったそうだぜ」
「へぇー」
普通ならここで「かわいそうだな」とかそういう感情が浮かんでくるのだろうが、彼のしてきた事を考えるとそういう憐みの念すら僕の頭の中には無かった。今までしてきた事のバチが当たったとしか思えない。
「で、横浜は在宅起訴になるらしいぜ」
「在宅起訴?」
「俺も聞いただけで詳しくは知らないんだけどよ。逃げる心配や証拠を隠滅するおそれのない犯罪者は在宅起訴になるらしい。横浜は今意識不明で動けないからその心配は無いと判断されたわけだな」
康太はジュースを一口飲んで話を続ける。
「もっと言うと身体的拘束…つまり逮捕や勾留などの要件を満たしてない犯罪者は在宅起訴になって逮捕されずに検察官に起訴されるんだってさ。暴行罪は約6割がこのパターンらしいな」
「ふーん」
まぁ…意識不明ならそうなるか。そのまま彼の意識が戻らなくてもいいという人もいるだろうが、個人的には彼には意識が戻った後に自分のやってきた事の罪を償って欲しい。
「あっ、そうそう。それと横浜と柏木さんは職員会議で無事退学が決定したらしいぜ」
「やっぱりか」
横浜は暴行を始め数々の素行不良、柏木は学校での性行為と妊娠、どちらも退学になるには十分すぎる理由だ。教師陣にうやむやにされなくて良かった。動画で証拠を撮っていた琴子グッジョブだな。
…この前僕の母親が電話で柏木の母親と話していた内容を聞いたのだが、柏木は近くの精神病院に入院する事になったらしい。あの状態じゃそうなるよな。
ま、でもこれで僕と琴子の学園ライフを邪魔してくる奴はいなくなったわけだ。夏休み明けからは安心して学校に通える。
「嬉しそうだな。俺もそうだけどよ」
「そりゃそうだよ。これが嬉しくないってのはあいつらの取り巻きぐらいだと思う。クラスのみんなも心の奥底では横浜を嫌ってたみたいだしね」
「これで誰にも邪魔されずに瀬名さんとイチャイチャできるな♡」
康太がニヤニヤとしながらそう言ってくる。…それはそうなんだけど、その顔はなんだよ康太。
「で、どうなんだよ? 瀬名さんとはどこまでいったんだ?」
なるほど、康太はそれが聞きたかったのか。しかし僕は前にも言ったが、あまり他人に自分たちの恋愛事情を話したりするのは好きではない。この類の話はあくまで恋人間で秘めておくべき事なのだ。
「そこそこ。琴子とは健全なお付き合いをしているよ。康太が思っているような事は決してやってない。そういうのは大人になってから」
「なんだよ、武光だって男だろ? そういうのに興味がないわけじゃないんだろ?」
「うん、興味がないと言えば嘘になるけど、僕は琴子が大切だからあまり彼女を傷つけるような事はしたくないんだ」
「瀬名さん愛されてるな。じゃあそんなお前らにプレゼントだ!」
康太はそう言うとコトリとテーブルの上にカラフルな四角い箱を取り出して置いた。
「こ、これって…」
「そうだ。
彼が机の上に置いたのはまだ封の切られていないコン〇ームの箱だった。こいつは人の部屋になんてものを持ちこんでいるんだ!?
「いや、要らないよ。しまってよ」
「まぁ聞けよ。武光がそういうのに否定的なのは知ってる。でもお前も人間だ。我慢できない時だってあるだろう? そういう時のために持っておいて損はないと思うぜ? 少なくとも避妊具無しでやるよりかはマシだ」
「いやでも…」
僕はそもそも高校生の性行為自体に否定的だ。そういうのは大人になってから!
…でも康太の言う事も一理ある。僕は今の所耐えてはいるが、最近琴子が魅力的過ぎて理性がとびそうになる時もあるし…もしもの時のために持っておくというのは悪い話ではない。
「なんだよ。ゲーミングコン〇ームとかコーラ味のコン〇ームの方がよかったか?」
「そんなのもあるの!?」
「最近のコン〇ームは色々なのがあるぜ?」
「えぇ…」
「ま、備えあれば憂いなしさ」
康太はそう言って僕のズボンのポケットにそれを押し込んできた。ううん…これを使わないで済むことを祈ろう。
○○〇
※12/13 内容を少し修正しました。
ちなみに…当作品ではキスとハグ以上の事はやりませんのであしからず。
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