あふたーすとーりー

琴子のお仕置き

「「「「「やったー! これから夏休みだぁ!」」」」」


「夏休み中に羽目を外しすぎるなよー」


 教室中がざわめき沸き上がる。講堂で校長先生のありがたく長い話を聞き終えて、担任の教師から長期休暇中の注意事項を聞き終わった僕たちに待っていたのは楽しい楽しい夏休みだった。


 教師の話を聞き終えたクラスメイトたちは我先に教室を飛び出していく。これから部活に行く者、友達と遊ぶ約束をしている者、家に帰ってのんびりしようとする者…様々だ。


「じゃあな武光! 夏休み中も連絡くれよな!」


「うん、康太も元気で!」


 僕の親友の康太も学生鞄を抱えて教室を飛び出していった。なんでも夏休み中にやる新作のゲームを買いに行くんだとか。


 あぁ…夏休みが始まる前のこの何とも言えない開放感がたまらない。4月に学校が始まって約4カ月もの間、教室という閉鎖空間での勉強地獄を終えて、ようやく僕たちはそれから解放され、約1カ月間の自由な時間を手に入れたのだ。


「琴子、僕たちも帰ろうか?」


 僕は隣の席にいる恋人の琴子の方を振り向いてそう言った。


「じゃあ行こうか、武光君♡」


 琴子はそう言うが早いか、僕の手を引っ張って勢いよく教室を飛び出し走っていく。


 ちょ、琴子力強い!? 彼女も夏休みを迎えるにあたって興奮しているのだろうか?


 僕は彼女に引っ張られるままに連れていかれた。教室を出て廊下を駆け抜け、そして靴箱で靴を履き替え、運動場に飛び出す。


 そのまま学校を出るのかと思っていたのだが、琴子は運動場の隅にある今は使われていないトイレの個室の中へと僕を連れ込んだ。僕を個室に押し込んだ琴子は「ガチャリ」と扉に鍵をかける。


「こ、琴子? なんでここに来たの? 家に帰るんじゃ…?」


「武光君、今朝の約束覚えてる? …ハァハァ♡」


「覚えてるよ」


 今朝の約束。それは僕が自分の勘違いで琴子を悲しませてしまったので、それに激おこの琴子は僕にお仕置きをするというのだ。確かお仕置きの内容はキスとマーキング2時間だっけ? 


 でもそれとこのトイレに何の関係が…? キスやマーキングなら僕か琴子の家に行ってやればいいと思うのだけれど…?


 …んん? なんだか琴子の息遣いがさっきから荒いような?


「どうしてトイレに…むぐっ!?」


「ちゅぱ♡ ごめんね武光君。私、もう我慢できないの♡ ハァハァ♡」


 僕が何故ここに来たのか理由を聞こうとした瞬間、琴子が僕の唇に吸い付いて口を塞いできた。僕と彼女の唇が密着する。そしていつもの如く彼女は舌を僕の口の中に入れ、僕の舌を探し当てると逃がさないとばかりにねっとりと絡み付かせる。


 僕は彼女のいきなりのキスに混乱する頭で必死に状況を理解しようと努めた。


 …つまり、琴子は家に帰るまで僕にお仕置きするのを我慢できなかったから、人目につかないこの運動場脇のトイレに連れ込んでお仕置きしようとしている…という解釈でいいのかな?


 僕自身は人前でなければ別にどこでお仕置きされようと構わないのだが、一つだけ問題があった。このトイレ、今の季節が夏だけあって非常に蒸し暑いのである。


 特にこれから1日の中で1番気温が上がる昼の真っ盛りになる。天気予報によると今日は35度まで上がると言っていたはずだ。


 流石にその高温の中、水分補給も無しに2時間もこんな空調も無い個室でずっと抱き合ってキスをしていたら2人とも熱中症になって倒れてしまう。


 それは不味いと思った僕は興奮状態の琴子を一旦引きはがして説得する事にした。


「ぷはっ…。琴子、落ち着いて。こんなところに2時間もいたら熱中症になっちゃうよ。僕の家に行こう? そこならエアコンもあるし、飲み物もあるから」


 僕がそう言うと琴子はニコニコしながら自分のバックの中からスポーツ飲料のペットボトルを取り出した。しかも2リットルの奴だ。


「水分補給なら問題ないよ。ちゃんと準備してきたから♡」


 用意のよろしい事で。でもわざわざこんな暑い所でやる必要はないと思うのだけど。汗もかくし。


「何言ってるの? むしろ汗だくになるからいいんじゃない♡ 武光君の汗から出たフェロモンが私を包み込むの♡ 私はそうするとすごく幸せな気分になるんだよ?」


 そう言えば彼女は匂いフェチだった。汗の匂いなどあまり良い匂いではないと思うのだが、彼女にとってはそうではないらしい。


「ねぇ武光君、私今朝とっても、とぉっても傷ついたんだよ! 愛している人にいきなり別れようって言われて、まるでこの世の終わりが訪れたのかと思った。武光君の勘違いのせいで私の心を傷つけたんだから、武光君にはそれを癒す義務があります! あなたの愛をもっと私に頂戴、あなたの愛で私を包み込んで♡ 今の私には愛が足りないの♡ もっと私の心を満たして♡」


 僕はそこまで言われると何も言えなくなってしまった。愚かな僕の勘違いで彼女の心を傷つけてしまったのは事実なのだ。ならば僕のするべき事は誠心誠意、彼女の心の傷を癒してあげる事になる。


 水分はあるみたいだし、本当にヤバくなったらエアコンが効いている校舎内に避難すればいいか。そう思った僕は彼女の要求を受け入れる事にした。


「ちゅぱ♡ ちゅ♡ れろっ♡」


 僕がそれを承諾するや否や、彼女は間髪入れずに抱き着いてキスをしてくる。あぁ…相変わらず男をダメにする、いや、人をダメにするキスだ。


 彼女の唇の柔らかさと言えばいつまでもその柔らかさに溺れていたいと思うほどで、舌はまるで僕の口内をマッサージするように、気持ちの良い所を的確に、そして入念に舐めて来る。そして唾液は甘い媚薬の様に舌に付随して体内に入り込み、僕の身体を火照らせる。


 以前琴子との約束で大人になるまではキスまでと約束はしたのだが、これではキスだけでも理性を壊されかねない。本当に意識を強く持っておかないと琴子にあっという間に溶かされてしまう。


「あぁ…幸せぇ♡ わたひのこころが…満たしゃれていく♡」


 琴子はまさに「恍惚」といった表情をして僕に大人のキスをし続ける。その目には心なしかハートが浮かんでいる様に感じられた。完全にヘブン状態という奴である。



○○〇



 どれくらい時が経っただろうか。そろそろ僕も喉が渇いてきたので、琴子に水分補給を申し出る。


「分かったよ♡」


 琴子は僕の要求を承諾すると、僕にスポーツ飲料のペットボトルを渡すのではなく、まずペットボトルの蓋を開けると何故か自分の口に含んだ。そうしてそのまま僕の方に向かってくる。僕は意味が分からず困惑した。


「えっと…?」


「く・ひ・ん・ふ・ひ♡(く・ち・う・つ・し♡)」


 琴子はそのまま僕に抱き着いてくるとまたキスをしてきた。そして彼女の口からスポーツ飲料が僕の口の中に流れ込んでくる。


 …冷たくて甘いスポーツ飲料が2人の口の中で混じり合う。僕はそれを「コクンコクン」と飲み込んだ。なんだこの背徳的な水分摂取のやり方は。冷たいスポーツ飲料を飲んだはずなのに僕の身体は逆に熱くなっていた。


「まだおかわりはあるよ♡」


 彼女は再び口の中にスポーツ飲料を含むと僕にそれを飲ましてきた。それを何度か繰り返す。それに伴い僕の頭はフラフラと意識が混濁してきた。


 この部屋が暑いからフラフラしているのだろうか? それとも琴子に思考を溶かされたからフラフラしているのだろうか? もしくはそのどちらもかもしれない。


 これは…不味いな。僕は横浜みたいな不誠実な人間にはなりたくない。だからこそ責任のとれない行動はとってはいけないのだ。意識がハッキリしているうちに琴子を止めないと。


 ふとスマホの時計を見るともう14時を過ぎていた。教室を出たのが確か11時50分頃と記憶している。なのでここに籠ってからもう2時間は過ぎている事になる。


「琴子、もう2時間経ったよ。暑いし、そろそろ帰ろうよ。熱中症になっちゃう」


「もうそんなに時間が経ったの? まぁ武光君成分は十分補給したし…今日の所はこれで許してあげる♡」


 僕がそう伝えると彼女は意外とあっさり引き下がってくれた。満足げな顔をして帰りの支度を始める。どうやら彼女の心は無事満たされたようだ。


 僕たちは揃って蒸し暑いトイレから出た。トイレから出ると夏の強い太陽の日差しが僕たちを出迎える。あぁ、これから僕たちの夏休みが始まる。


「ねぇ武光君、もう2度と私を悲しませないでね」


「うん、僕は2度と琴子を悲しませない。誓うよ」


 僕はそう彼女に誓いを立てると腕を組んで一緒に帰宅した。



○○〇


あふたーすとーりー始まりました。よろしくお願いします。

基本的にはイチャイチャストーリーです。最後にちょっとホット展開があるかな程度?


あと説明するまでもないと思いますが、琴子は愛情が不足したり、精神的に不安定になると暴走状態になります。

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