横浜最後の日

「なんだよお前ら、何だってんだよ!?」


 横浜は自分が不利になったと悟ったのか、露骨に焦りを見せ始める。


「横浜、お前今まで散々好き勝手しておいて、それで許されると思っているのか?」


 「横浜被害者の会」の代表である大柄な男が1歩前に出て横浜を責める。彼は「大垣さん」と言って横浜に彼女を寝取られた被害者の1人だ。


 彼も最初こそ、自分に魅力が無かったから彼女を繋ぎ留められなかったのだと自分を責め、彼女が横浜と付き合う事で幸せになるのなら…と一旦は身を引いたらしい。だが横浜が自分の彼女をゲーム感覚で寝取り、更にはゴミのように捨てた事を知って、復讐を決意したらしい。


「ここにいるのは皆お前に恨みを持つ者たちだ。彼女を寝取られた、理不尽に暴力を振るわれた、暴言を吐かれた、ウケ狙いのために笑い者にされた、物を借りパクされた挙句に売っぱらわれた、イジメられた、評判を下げるためにある事ない事言いふらされた…他にも数えきれないほどだ。そろそろその罪を清算する時がきたんじゃないか?」


 大垣さんは被害者の会を代表して横浜の罪を淡々と羅列する。…あいつ他にもそんなに沢山の悪逆非道な事をやっていたのか。そりゃ他人の恨みを買って当たり前だ。


「はぁ? 意味わかんねぇ。恋愛ってのは本人の自由意志の結果だろ? それなのに何で俺が悪い事になるんだよ? お前がフラれたのはお前が不細工なのが悪いんだろ? 自分に魅力が無いのを人のせいにすんなよボケナス! それに他の事だって別に悪い事じゃないだろ。陰キャに暴言吐いて何が悪いんだよ? ウケ狙いのための笑い者にして何が悪いんだよ? お前らは劣等人種なんだからそれくらいされて当然だろ? むしろ俺の様なイケメン陽キャに言葉をかけて貰えるんだから感謝してもらいたいね」


 えぇ…。どれだけ自己中なんだよコイツは。まるで自分がこの世界の主人公で、何をしても許されると思っているといわんばかりの横暴ぶりだ。


 それに他は兎も角として「暴力を振るう」のと「物を借りパクして売っぱらう」のは普通に犯罪だろ…。証拠があれば逮捕までいくんじゃないか? 彼の倫理観が狂いすぎていて僕はドン引きした。こんな狂人が今まで同じクラスにいたのか…。


「お前…人の心無いんか?」


 大垣さんも彼の言葉に引いている様だ。全く反省の無い横浜の態度に彼の後ろに控えている「被害者の会」の連中は顔に怒りの色を浮かべている。


「で、お前ら陰キャが集まって何をするって? 俺を裁く? やってみろよ。暴力でも振るうか? そんな事をしようものなら俺はすぐにセンコーにチクるぜ? そうすれば不利になるのはお前らだ! 退学もあり得るかもしれねぇなぁ! それでもやるのか?」


 こいつ…さっきまで散々僕に暴力を振るっておいて、いざ自分が振るわれる側となったら先生に報告するだって? どれだけ性根が腐っているんだろう。


「大垣さん、バッチリ撮れてますか?」


「ああ、撮れてるよ」


 僕がそう声をかけると、大垣さんはスマホを取り出してこちら側にも見えるように動画を再生させた。


『ハッハッ。ざまぁねぇなぁ陰キャ。大人しく俺の言葉に従ってればこうなる事もなかったのによぉ! お前ら陰キャは大人しく俺たちに搾取されてればいいんだよ! ゴミカス共がぁ!』


『いつまで持つかなぁ~♪ そうだ! 今のお前にぴったりの歌があるぜ? 歌ってやろうか? 「陰キャの歌が~聞こえて来るよ♪ チギュ、チギュ、チギュ、チギュ♪ キモイよキモイよ、チ、ギュギュ♪」』


 そこには先ほど横浜が僕に殴りかかって来た時の動画が再生されていた。


「なっ…」


 僕たちが彼を学校から排除するために考えた作戦、それは彼が暴力を振るっていると思われる動画を教師陣に提出する事。


 僕が前にやられた「恋人以外と抱き合っている様に見える写真」のお返しだ。横浜をどうこの学校から追い出そうか彼らと話し合った時に僕はこの作戦を思いついた。


 この動画はどこからどう見ても横浜がイジメで僕に暴行を加えている様にしか見えない。最初に顔に一撃くらったのはこのためだ。彼が僕に確実に暴行を加えたという証拠を取るため。


 琴子は「害虫共を追い詰めるとっておきの証拠があるから武光君がそんな事をする必要はないよ」と僕が痛い目に合うのを反対していたが、僕が「あいつらを追い詰める証拠は多い方がいいでしょ?」とゴリ押しした。


 動画という確たる証拠があれば、教師陣もこれをうやむやにできないだろう。最悪警察に駆け込めばよい。


「あーそう…お前らそういう事するんだ? でも残念だったな。俺はセンコーの前ではいい子ちゃんを演じているからな。反省しているフリをすれば退学まではいかないぞ? せいぜい停学ぐらいじゃね。ざまぁ!」


 トコトンクズだな。ここまでクズだといっそ清々しい。彼を退学に追いやっても僕たちが気分の悪い思いをしなくても済む。


「そう言うと思ってもっと強烈なのを用意しておきました。できればこんな汚い物は私のスマホから早く抹消してしまいたいのですが…」


 今度は琴子がスマホを取り出して、みんなに見えるようにみせる。


 薄暗くて見えにくいが、おそらくそこは体育倉庫の中、映っているのは横浜と柏木の2人。


『オラッ! とっとと股開け!』


『あっ♡ 秀君激しい…。あっあっあっ♡』


 そこにはなんと横浜と柏木が性行為をいたしている姿が収められていた。琴子が最近コソコソしていたのは、確実に横浜と柏木を退学にさせるための証拠集めをしていたかららしい。これもその最中に撮れた物のようだ。


 ちなみに他にも色々横浜の不良行為の動画があるらしいが、これが1番アウトな奴らしい。


 神聖なる学び舎での性行為…これはいくら教師の前でいい子ぶっても許されないであろう。横浜の隣にいた柏木の顔も青く染まる。


「へ、へっ、それがどうしたってんだよ! 『一時の気の迷いでした』つって必死にセンコーの前で土下座すればなんとか許してもらえるさ」


 まだ強がっている横浜に琴子は追い打ちをかける。


「あっ、そうそう。そう言えばあなたパパになるんですってね、おめでとうございます! 性行為の末に子供を作ったとなれば…退学は確実でしょうね」


 横浜は驚いた顔をして隣にいる柏木を見た。


「おい早苗! どういう事だ?」


「秀君。秀君の赤ちゃんが私のお腹にいるの。私たちの愛の結晶」


「ふざけんな! おろせ!」


 横浜は柏木のお腹を思いっきりグーパンで殴った。柏木はお腹を押さえてうずくまる。本当に流産パンチする奴初めて見た…。


「ぐえっ…どうし…て?」


「何でお前みたいなレアリティR程度の女がイケメンでクラスのトップカーストである俺様のSSR級遺伝子で孕んでんだよ! ふざけるのも大概にしろや!」


「だって…秀君…私を世界で1番愛してるって…言った…じゃない…」


「あんなんお前を落とすための方便に決まってんだろカス! なんでお前程度の女が俺の1番になれると思ったんだよ。思い上がるのもいい加減にしろ! 自分の顔鏡で見てこいや!」


「そんな…。今までのは全部嘘って事? あんなに私を…愛してるって言ったのに…」


 柏木の表情が絶望に染まる。流石に見ていられなくなったのか「横浜被害者の会」の面々が2人の間に入って彼女を保護した。哀れ柏木、やっと理解したのか。


「おい、お前らそこで集まって何をしている?」


 そこでようやく騒ぎに気づいたのか、教師たちがこちらに向けてやってきた。あぁ…やっと終わる。これらの証拠を教師に突きつければ横浜はもう逃げられないだろう。僕と琴子の平和な学校生活が戻って来るんだ。


「まだこれで終わりではありませんよ…」


 琴子がボソリと何か言った気がするのだが、気のせいだろうか?



○○〇


ざまぁはもうちょっとだけ続きます


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