また仕掛けて来た横浜
「ええ、では明日はその手はずでお願いします」
「ああ、分かった。こっちもあいつには恨みがあるからな。協力させてもらう」
「これで…害虫駆除の準備は整った」
○○〇
柏木から忠告を受けた次の日、僕たちは最大限警戒しながら登校した。僕は教室の入り口から「ソッ」と中を見渡す。…まだ横浜と柏木の机には誰も座っておらず、鞄もかかっていない。つまり彼らはまだ来ていないという事だ。
僕たちは一安心しながら教室の中へと入る。昨日柏木の忠告を受けて僕が考えた対策、それは常に人の沢山いる所に居て、彼に付け入る隙を与えないという作戦だ。流石に彼も大勢の人がいる場所で仕掛けてはこないだろう。
幸いにも夏休みまであと3日、あと3日耐えれば夏休みに突入し、彼らとしばらくは顔を合わせずに済む。
なので僕たちは常に教室にいる事にし、移動教室の際はできるだけ康太やその他のクラスメイトと一緒に移動した。
そして時は過ぎ、昼休みになる。僕はいつものように琴子と一緒にお弁当を食べようとした。
「琴子、お昼にしようよ」
「ごめん武光君、私今日はちょっと害虫くじょ…」
「おい佐伯ぃ、瀬名ぁ、ちょっと面貸せや」
僕と琴子が話していると、明らかにいら立った表情の横浜が僕たちに話しかけて来る。その隣には柏木も一緒だ。
「僕たちはお前に用なんてないんだが?」
「いいからちょっと来いよ。体育館の裏で待ってるからよぉ!」
「秀君が直々に『来い』って言ってるのよ。あんたみたいな陰キャに断る権利なんて無いわ!」
横浜が僕の机を蹴りながら威嚇してくる。こいつらの言う通りになど絶対にしない。僕は席を立つと琴子をかばうように彼女の前に立った。
僕は琴子の様子をチラリと確認する。彼女は僕の方を見て「はぁ…」とため息を吐くと言葉を発した。
「仕方ありませんね。武光君、付き合ってあげましょう」
「琴子!?」
彼女は僕の予想に反した返答をした。
えっ? 何で!?
「じゃあ待ってるからな。逃げるんじゃねぇぞ!」
横浜たちはそう言い残すとさっさと教室を出て行った。
「琴子、どういうつもりなのさ?」
僕は琴子の意図が分からずに困惑する。このまま体育館裏に行ったらあいつらの思うツボだ。
「武光君、えっとね…」
彼女は僕にコソコソと耳打ちした。
「あっ、そういう事だったの」
○○〇
僕と琴子はとある人たちに会った後に体育館裏に移動した。そこにはイラついた様子の横浜と柏木が待っていた。僕たちは2人と対峙する。
「えらく遅かったじゃねぇか。どれだけ俺様を待たせれば気が済むんだよ。まぁ逃げずに来た事は褒めてやる」
横浜はニヤニヤと僕たちを下卑た目で見て来る。横にいる柏木もニヤリとほくそ笑んでいた。何かしら企んでいるんだろう。
「俺さぁ、お前らの態度にイラついててさぁ。散々俺をコケにしてくれてよぉ。正直ボコっちまいたいのよ」
彼は右手で握りこぶしを作り「シュッシュッ」とボクシングの真似事をする。よくもまぁこんなに自己中心的になれるものだ。
「でも俺は優しいからさぁ、最後にもう一度だけ情けをかけてやるよ。瀬名琴子! お前、俺のモノにならねぇか? そうすればお前だけは助けてやってもいい」
「お断りします♪ ゴキブリと付き合うのは嫌なので」
琴子はニコニコと笑顔で即答した。
横浜はまだ琴子が諦めきれないのか、なおも彼女を説得しにかかる。無駄なのにな。
「なぁ瀬名。俺と付き合ったらブランド物のアクセサリーとか買ってやるぜ? お前が首に付けてるその安物のチョーカー、それ多分この陰キャのプレゼントだろ? 俺ならそれよりも数段高い物をプレゼントしてやれるぜ?」
「いりません。私にとってはどんなブランド物のアクセサリーよりも彼との愛の証であるこのチョーカーの方が大切なんです」
「あのさぁ瀬名。そんな奴のどこがいいのよ。そんな陰キャより俺様のようなイケメンでワイルドな男の方がイケてると思わないか?」
横浜はそう言いつつ、琴子の手に触れようとした。琴子は淡々と彼の手を「バシッ」と払う。そして払う際に彼の手に触れてしまった部分を携帯用のアルコールティッシュを取り出し、拭いて消毒した。
彼女はゴミを見るような眼で彼を見下して言い放った。
「汚らわしいので触らないで頂けますか? あなたと付き合うぐらいなら死んだ方がマシです」
「クソガッ! もういいわ。流石の優しい俺ももう限界だわこのクソ女がよぉ! お望み通り痛い目に合わせてやるよ!」
横浜は琴子に向かって握りこぶしを振り下ろした。僕はそれが琴子に当たらないように彼女を守る。
「グッ…」
僕はそれを顔で受け止めた。顔で受け止めたのには理由がある。クッ…痛い。彼は運動部に入っているだけあって力は強い。
「武光君!」
琴子が心配そうな顔で僕を見て来るが、作戦通りなので問題ない。
「ハッハッ。ざまぁねぇなぁ陰キャ。不細工な顔が更に不細工なったぞ。大人しく俺の言葉に従っていればこうなる事もなかったのによぉ! お前ら陰キャは大人しく俺たちに搾取されてればいいんだよ! ゴミカス共がぁ!」
横浜はその後も僕に連続でパンチを食らわせてくる。流石に全部顔に食らうのは嫌なので僕はそれを全て受け流した。
「いつまで持つかなぁ~♪ そうだ! 今のお前にぴったりの歌があるぜ? 歌ってやろうか? 『陰キャの歌が~聞こえて来るよ♪ チギュ、チギュ、チギュ、チギュ♪ キモイよキモイよ、チ、ギュギュ♪』」
彼は童謡「カエルの合唱」に合わせて僕を罵って来る。…それにしても岡崎といい、こいつら童謡に合わせて歌うの好きだなぁ。知能レベルがそこで止まっているからだろうか? いい加減にしないと牛丼屋に怒られるぞ。
僕はその後も彼の追撃を全て受け流した。僕が攻撃を受けきったのが予想外だったのか、彼の顔に焦りが見える。
「クソッ、何で当たらねぇんだよ。陰キャの分際で調子に乗りやがって。でももう終わりだ。おい、お前ら! 出てきていいぞ!」
横浜は体育館裏に生えている木々に向かってそう言った。
…しかし、何も起こらない。
「おいどうした? 出て来いよお前ら?」
「お前が話しかけているのはこいつらか?」
その時、体育館裏の木々の影から大勢の人間が姿を現した。その人たちはロープでグルグル巻きにされている何人かの男を横浜に向かって放り投げる。
「ンッー! ンッー!」
「名古屋、浜松、駿河…お前ら何で…」
グルグル巻きにされて放り投げられたのは横浜の取り巻きたち。彼らは横浜に指示されて僕たちをボコボコにしようと体育館裏の木の影に隠れていたのだ。
そして彼らをグルグル巻きに縛ったのは「横浜被害者の会」の皆様。横浜に彼女を寝取られたり、彼の横暴な言動が腹に据えかねている者たちの集まりだ。その中には康太もいた。
体育館裏に来る前に僕たちがまずやったのが「横浜被害者の会」の方々との作戦会議だった。どうやら琴子が以前から動いてくれており、横浜が今日仕掛けてくると分かったので彼らに集まってくれるように頼んだそうだ。
僕がそれを知ったのは、つい先ほど彼女に耳打ちされた時だ。琴子は最初僕の手を煩わせずに彼らを処理したかったので黙っていたらしい。水臭いなぁ。
彼らはありがたい事に横浜の悪だくみを知ると僕たちに協力を申し出てくれた。彼らも横浜の横暴な言動に辟易しており、恨みを晴らす機会を探っていたらしい。
「形勢逆転だな。横浜」
さぁ、お仕置きの時間だ。
○○〇
カエルの合唱は…流石に皆さん知ってますよね?
※少し補足。琴子が武光君に害虫駆除の件を話さなかったのは、彼に汚いものに触れて欲しくなかったから。なので密かに「横浜被害者の会」と協力して処理しようとしていたのですが、その前に向こうからやって来たので仕方なく武光君にも協力してもらう形をとっています。彼らの方から来なかったらこの昼休みに琴子はまとめて〆る気でした。
今後の展開が気になるという方は☆での評価やフォローお願いします。
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