コソコソする琴子

 テスト週間も終わり、あと数日で待望の夏休みとなる。僕は夏休みの到来を今か今かと待ちながら、その日も琴子と一緒に学校へと登校していた。


「ごめん武光君、私ちょっとトイレに行ってくるね」


「うん、先に教室に行って待ってるよ」


 僕と琴子は女子トイレの前で別れる。最近琴子は学校に来ると必ずトイレに行くようになっていた。以前はそんな事なかったんだけどな。


 まぁ人間生理現象はなかなか制御しようと思っても制御できるものではないし、これに関しては仕方がない。むしろ我慢する方が毒である。


 僕は彼女と一旦別れ、先に教室に向かった。

 

 教室に入る前に室内をチラリと覗き見て、横浜と柏木がいないかどうか確認する。最近はこれが教室に入る前の日課となっていた。はぁ…いつまでこんな事を続けなきゃいけないんだか。


 2人がいない事を確認した僕は自分の席へと向かった。いつもの如く、僕より先に来ている前の席の康太に挨拶をする


「おはよう!」


「おっす! あれ? 今日も1人?」


「琴子はお花摘みに行ってる」


「ああ、そう」


 僕は自分の机に座ってその日の授業の準備を整えると康太と談笑し始めた。結局、琴子がトイレから戻って来たのはSHRが始まる寸前だった。結構長かったな。おっと、あまり女性のトイレの時間をどうこう言うのは失礼か。



○○〇



 そしてその日のお昼。


「えっ? 琴子今日もお昼一緒に食べられないの?」


「ごめんね武光君、どうしてもやらなきゃいけない用事があって…お弁当は渡しておくから…」


 彼女と一緒にお昼を食べようとしたのだが、用事があると言って断られてしまう。これで昨日と合わせて2日連続である。2日連続でやらなきゃいけない用事ってなんだろう?


「うん、わかったよ。でも1人で大丈夫? 僕に手伝える事があるなら手伝うよ?」


「ううん、武光君の手をわざわざ煩わせるような事でもないかなって♡ あなたが汚れちゃうし♪」


「そう…? でも助けが必要ならいつでも言ってね。僕は琴子の彼氏なんだから」


「ありがとう武光君、愛してる♡」


 琴子はそう言って僕に投げキッスをしながら教室を出て行った。1人になった僕はしょうがないので前の席にいる康太と一緒に弁当を食べる事にした。ちなみに彼の昼食は購買で買ったパンのようだ。


「どうしたんだ瀬名さん? 確か昨日もお前と一緒にお昼食べるの断ってたよな?」


「さぁ…? 今までこういう事はなかったんだけどな」


「もしかして…お前瀬名さんに愛想尽かされたのか?」


「まさか? 琴子に限ってそんな事は無いと思うよ。放課後はいつも通りだし、それに愛想を尽かした相手にお弁当を作って来るってのもおかしな話じゃないか?」


 僕は琴子の用意してくれた弁当の蓋を開ける。すると中には手間のかかってそうな色とりどりのおかずと白く輝くご飯。そしてご飯の中央部分には桜でんぶで大きくハートが描かれ、更にはその下に海苔で「武光君LOVE」と器用に文字が書かれていた。


「ね?」


「確かにこんな手間のかかる弁当を作ってくれてるんだから愛想を尽かされたってのは無いな。むしろ無茶苦茶愛されてるわ。でもだとしたらどうして…?」


「気になるけど、僕は琴子の事を信じているから何も聞かない事にしたよ。時がくればそのうち彼女の方から話してくれるでしょ?」


「…なんかお前らいつの間にか熟練の夫婦みたいになってんな。お互いの事を理解し合っていると言うか…」


「そう? 付き合ってたら結構分かって来るよ」


「ノロケかよ。チクショー。俺も彼女欲しいぃー!」


 僕は手を合わせて「いただきます」と言うと、箸を取り琴子の作った愛妻弁当を食べ始める。僕がまず口にしたのは唐揚げ。琴子曰く、瀬名家秘伝のタレに鶏肉を付けて揚げた物らしいので非常にスパイシーで美味しい。


「瀬名さんの作った弁当美味しそうだなぁ。…なぁ、物は相談なんだが俺のコロッケパンのコロッケと瀬名さんが作った唐揚げ1個交換しねぇ?」


「あげないよ。琴子の作った弁当は全部僕のだ」


 こればっかりはいくら親友の康太の願いでも聞き入れられない。彼女の作ったものを他人にあげるなんて以ての外だ。


「おまっ! 俺のコロッケの方がその唐揚げよりも大きいんだぞ!? そっちの方がその分得だろ?」


「康太、こういうのは量じゃないんだよ。考えてもみなよ。美少女が愛をこめて作った唐揚げと機械で作った大量生産のコロッケ…どっちの方が価値が高いと思う?」


「クッ…」


 康太が悔しそうな顔をする。すまんな康太よ。自分も彼女を作ってその幸せを堪能してくれ。



○○〇



 時は過ぎその日の放課後、僕と琴子はいつも通り腕を組みながら帰宅していた。


「やっと用事が終わったの。明日からは一緒にご飯食べられるよ♡」


「それは良かったよ。僕も琴子と一緒にお昼が食べられなくて寂しかったから」


「ごめんね武光君、でもやっと…害虫駆除の目処がついたの」


「害虫駆除?」


 …害虫ってゴキブリとかネズミとかの事だよな? 琴子って環境委員会か何かに所属してたっけ? 委員会で害虫駆除の仕事をやるとか? でもそういうのって基本生徒の仕事じゃなくて専門の業者を雇ってやるもんじゃ…? うーん…よく分からんな。


 僕は彼女の言葉に疑問を抱きながらも「まぁいいか」とその話題を流した。



○○〇



※念のため補足しておきますが、琴子が用事があると言って抜け出していたのは全て害虫駆除のためです。


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