琴子に追及する

 僕がトイレに行っている間にベットの上で転がっていた琴子、彼女は僕が声をかけると固まった。


 しばらくの間僕たちはそのまま見つめ合っていたが、琴子は急にのそりと僕のベットから起き上がると勉強のために教科書を置いてあるテーブルの方に移動した。そして何食わぬ顔で僕にこう言い放つ。


「武光君おかえり♡ さぁ勉強の続きしよう♪」


「何でだよ!?」


 僕は思いっきり突っ込んでしまった。僕ってそんなに突っ込むキャラじゃないんだけど、これは流石に突っ込まざるを得ない。


「えっ、琴子今何してたの?」


「な、何のことかなぁ~////」


 そう問い詰めると、琴子は白を切ってきた。僕は彼女の肩に両手を置き、彼女の目を見て言った。


「ッ/////////」


「琴子、何してたの?」


 琴子は観念したのか顔を赤くして目を横にそらしながら白状した。


「えっと…武光君の濃厚な匂いを堪能してました///」


 …まぁ大方そうじゃないかと思っていたけど。琴子ってもしかして匂いフェチとかそういう部類の人なのかな? 頻繁に僕の匂いを嗅ぎたがるし…。


「別にベットでゴロゴロするのは構わないけど…できれば僕に一言欲しかったな」


「ご、ごめんなさい…/// この部屋に充満する武光君の匂いに当てられて我慢できなかったの…////」


 琴子は申し訳なさそうにシュンとする。僕の言い分は正当なはずなんだけど、彼女の顔を見ていると自分が悪い事を言っている様に思えてくるから不思議だ。


「はぁ…いいよ別に。思う存分ゴロゴロしなよ」


「えっ、いいの?」


 琴子は顔をあげて「パァ」と顔を破顔させた。ベットでゴロゴロするのを許可したぐらいでこんなにも喜ぶのはおそらく世界で彼女只1人だろう。


 琴子はすぐに僕のベットの上に移動すると無言でゴロゴロし始めた。そして5分程そうしていたが、満足したのかホクホクした顔でテーブルの方に戻って来た。


「もういいの?」


「うん、もう匂いが薄くなっちゃったから♡(私の匂いを擦り付けたからだけど)」


 ベットに染みついた匂いがたかが5分で薄くなるなんてありえるのだろうか? まぁ匂いに敏感な彼女が薄くなったというのだからそうなんだろうと納得する事にした。僕はあまり匂いに敏感な方ではないので良く分からない。琴子の匂いは分かるけど。


 僕はついでに自分の匂いについて彼女に聞いてみる事にした。彼女は僕の匂いを好きとは言うけど、どういう匂いなのだろうか?


「ねぇ琴子、僕の匂いってどんな感じなの?」


「うん? えっとね…武光君の匂いは刺激的で嗅ぐたびに私の胸をときめかせて…でも同時に心を落ち着けて安心もして…とりあえずスッゴクいい匂い♡ 武光君の匂いに包まれていると私はとても幸福な気分になるの♡」


「うーん…」


 琴子は恍惚と言った表情で答える。彼女の説明では理解できなかった。刺激的な匂いと落ち着く匂いって矛盾しているような気がするけど…。例えば興奮作用のあるレモンの香りと鎮静作用のあるラベンダーの香りを一緒に嗅いだみたいな感じだろうか?


 僕はレモンとラベンダーを同時に嗅いだ時の匂いを頭の中に思い浮かべようとしたが…上手くいかなかった。中々想像するのは難しいな。各々はいい匂いだと思うんだけどね。


「あっ、だから香水とかそういうのは絶対に付けないでね。せっかくの武光君の香りが損なわれちゃうから。武光君はそのままでもいい香りだから!」


 琴子はテーブルから身を乗り出して凄い勢いで僕にそう言ってきた。彼女の綺麗な顔が目の前にある。僕は恥ずかしくなって少し顔を反らした。


「わ、わかったよ//// だから落ち着いて////」


 僕は興奮する琴子をなだめながら勉強を続けた。



○○〇



 色々紆余曲折あったが、僕たちはなんとか勉強を続けた。スマホで時間を確認するといつの間にか18時を過ぎていた。学校が終わったのが15時ぐらいだから3時間近く勉強していたことになる。


 窓から外を見るともう日が沈みかかって綺麗な夕焼けが見えていた。あまり遅くなると琴子の両親が心配するだろうし、今日はこれくらいで解散しとこうかな。


「琴子、今日はこれくらいにしとこうか?」


「えっ、もうこんな時間? 時間が経つのは早いね。もっと武光君と一緒にいたかったな」


「明日もやればいいじゃない」


「あっ、そうか! じゃあ今週は毎日やろうよ♪ 2人だけの勉強会!」


「分かった。じゃあ今週はずっと琴子と勉強だね。でも今日はここまで。家まで送るよ」


「嬉しい♡ ありがとう武光君♡」


 僕はそう言って立ち上がろうとした。しかし、長時間胡坐をかいて座っていたせいか、足がしびれてよろけてしまい、その拍子に辞書類を並べてある本棚にぶつかってしまう。


 本棚に並べてあった本がぶつかった勢いで足元にバタバタと落ちる。うっ、不味い…。僕は落ちた本を見て焦った。


 この辞書類を並べてある本の裏には僕のとっておきのエッチな本を隠してあるのだ。僕も男子高校生、人並みに性欲はある。ここに隠したのは真面目な本ばかり並べているから母親には検索対象にならないだろうと判断しての事である。


 今どきエロ本なんて紙の本ではなくて電子書籍で買えよ…と思うかもしれないが、その電子書籍版が何故か売ってなくて泣く泣く紙の本を購入したのだ。


「どうしたの、武光君?」


 琴子はニコニコと僕に話しかけて来る。


「えっ? いや、何でもないよ。ちょっと足がしびれちゃったみたい。ちょっと待ってて琴子、足のしびれが取れたらすぐにでも家に送るから」


 僕は慌てて落ちた本を本棚に戻した。ふぅ…エッチな本は琴子に見られなかったようだ。


「あっ、そこにあった破廉恥な本ならこの前掃除した時に捨てたよ♡」


 琴子のその言葉に僕は絶望した。



○○〇


次回、攻守逆転


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