そのタオルは

 次の日、学校に登校してきた僕はまず教室内を覗いて横浜たちがいないか確かめてみた。なんせ昨日の今日である。また何か仕掛けてきてもおかしくない。


 だが横浜も柏木もまだ来ていないらしく、彼らの席には誰も座っておらず鞄も無かった。僕は安心して教室に入り、自分の席へと向かう。


 琴子とは一緒に登校してきていたのだが、彼女はちょっとお花摘みに行くと言ってトイレの前で別れた。トイレが終わるまで待っていようかと思ったが、彼女に「武光君のエッチ♡」と言われたので先に来た。そのうち来るだろう。


「おはよう武光! そういえばそろそろ夏休みだな」


 自分の席に座ると前の席に座る康太が話しかけて来た。確かに彼の言う通りあと2週間ほどで夏休みになる。僕は鞄の中の教科書を机の中に入れながら彼に言葉を返した。


「その前に定期試験があるけどね」


 今週からはもう試験週間に入っていた。来週は期末試験である。


「嫌な事思い出させんなよ…。あ~あ、気分はすっかり夏だったのに」


 康太が机にぐったりとうなだれる。


「お前はいいよなぁ…彼女がいて。夏休みに瀬名さんと海とかに行くんだろ?」


「まだ細かい予定は決めてないけど、とりあえずどこかにデートに行くのは決定事項かな?」


「かぁ~。いいねぇ、いいねぇ。俺は夏休みどうしようかな。お前と遊ぶつもりだったけど、流石に彼女持ちを誘う訳にはいかないしな」


「僕も毎日琴子とデートする訳じゃないよ。だから康太と遊べる日もあると思う。彼女との時間は大事だけど、友達との時間も大切だから」


「武光…。お前っていい奴だな。予定の無い俺のために予定を作ってくれるなんて…」


 康太は僕の言葉に心打たれたのか涙目になりながら感謝してきた。そこまで感謝しなくても。若干気まずくなった空気を変えるために違う話題を切り出す。


「そういえば昨日横浜が仕掛けて来たよ」


「えっ? やっぱりか」


 僕は昨日起こった事を康太に話した。康太は僕の話をウンウンと唸りながら真剣な表情で聞いた。


「そんな事があったのか。あいつ本当にクズだな」


「琴子に一度フラれてるんだから大人しく引き下がればいいのに…。でもどうしよう? あいつと同じ学校にいる以上これからも仕掛けて来るよね? まさか転校するわけにもいかないし…」


「それなんだけどさ。実は横浜ってかなり周りのヘイトを集めてるって知ってるか? あいつに彼女を寝取られた連中とか、あいつの横暴な態度に辟易している連中とかが結構いてさ」


 それに関してはなんとなく僕も感じていた。彼は一応このクラスのトップカーストに君臨しているが、クラスの連中も内心では彼を嫌っているのが、なんとなく彼への態度で理解できた。


「そいつらが今協力して横浜をしめようと画策してるのよ。だからもう少し我慢しとけば横浜は大人しくなる…かもしれない」


 そうなのか。何にせよ僕たちに関わって来なくなるならそれでいい。僕は琴子と平和な学園ライフを送りたいだけなのだ。別に彼をかわいそうだとは思わない。全部自分で蒔いた種なのだ。彼の蒔いた憎悪の種が実りに実って彼に返って来るだけだ。


「ごめーん。武光君待った?」


 康太と話しているとトイレに行っていた琴子が戻って来た。彼女は自分の席に座ると鞄から教科書を出して机に入れ始める。


「そうそう武光君、この前借りていたタオル返しとくね」


 彼女はそう言って鞄からタオルを取り出す。おそらくこの前デートで行った水族館で、彼女が水を被った時に貸したタオルを返してくれるのだろう。


 だが僕はそのタオルを見て少し違和感を抱いた。僕が彼女に貸したタオルと同じ物のように見える。しかし…。


「あれ…? このタオルこんなに綺麗だったっけ? もっと古ぼけていたような…?」


「ッ!///////////」


 僕が琴子に貸したタオルは中学時代から体育の時間の後に汗を拭くのに使っていた物なので、結構古い物のはずなのだが…琴子に渡されたタオルはまるで新品のように綺麗だった。


「え、えっとね///// 武光君は最近CMでよくやってる洗剤知ってる? 最近の洗剤って凄くてね。界面活性剤や酵素の効果で古いタオルの繊維をまるで新品のように綺麗にしちゃうんだって。だからそのせいじゃないかな? 真っ白でしょ?」


「ふーん、最近の洗剤は凄いんだね」


 洗剤ひとつ違うだけでここまで綺麗になるんだな。今度お母さんにたまには安い洗剤じゃなくて性能のいい洗剤を買うように言ってみるか。


 と、僕はそこでタオルから匂ってくる甘い香りに気がついた。これは…洗剤の香りでも柔軟剤の香りでもない。でも嗅いだことのある匂いだ。


 僕はその匂いを確かめるためにタオルに鼻を近づけた。


「(…ゾクゾク///////)」


「???」


 琴子が何やら顔を赤くして悶えているようだが何かあったのだろうか? 僕は若干気になりつつもタオルに鼻を近づけた。


 これは…琴子の香り? タオルから漂ってくるのは脳がとろけそうになるくらい甘い琴子の匂いだった。彼女が今までこのタオルを持っていたのだから、彼女の匂いがするのは当たり前と言えば当たり前なんだけど…。


 でも洗剤や柔軟剤の香りが全くしないというのも変だな。彼女は最新の洗剤を使って洗ったと言っていたので、その匂いがしてもいいはずである。


 …まぁいいか。別に変な匂いがするわけでもないし、むしろ琴子の匂い好きだし。僕はそのタオルを鞄の中にしまった。


「大事に使ってね♡ 私がそばにいない時とかに…」


「??? うん。このタオルは元から大事に使ってたし、これからも大事に使うよ」


 琴子の言動が少し変で気になったが、先生が教室に入って来て朝のSHRを始めたので僕は意識をそちらに向けた。



○○〇


そのタオルには琴子さんが自分の匂いをしこたまこすり付けています。


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