またか…

 4限目に遅れていった僕たちは先生にしこたま怒られた。2人してあの時の熱が冷めぬまま顔を赤くして教室に入ったので、その様子を不審がった康太から「何があったんだよ?」と問い詰められたが、何とかはぐらかした。


 そして時は過ぎ…その日の授業も全て終わって掃除の時間になる。


 僕は箒で今日1日お世話になった学び舎を感謝の気持ちを込めて丹念に掃いていく。琴子は残念ながら掃除は別の班だった。


 僕が真面目に掃除していると、同じ班の男子から話しかけられた。背が小さく、髪をベリーショートにした肌の浅黒い男である。こいつ誰だっけ? ああ、そうだ。確かテニス部の田村だ。 


「佐伯、なんか柏木がお前に用があるから放課後に体育館の裏まで来て欲しいだってさ」


「柏木が? なんでまた?」


「さぁ? 俺は伝言頼まれただけだし。ちゃんと伝えたからな」


 柏木が僕に用事…? 何とも怪しい。僕たちの間にはもう話すような事など何も無かったはずだ。


 それに彼女は僕のreinアドレスを知っているので(僕の方は彼女のアドレスを消してしまったが)用があるならわざわざ誰かに伝言を頼まなくても、直接reinで送ってくればいいはずである。


 僕の頭の中に康太の「横浜がなんか余計な事を考えてるらしい」という言葉がよぎる。柏木は横浜の今カノ、彼の指示で動いていてもおかしくない。


 そこはかとない怪しさを感じ取った僕はその伝言を無視する事にした。君子危うきに近寄らずだ。すまんな、田村よ。



○○〇



 放課後になり、僕は田村の伝言を無視して琴子と一緒に帰ろうとしたのだが、運悪く担任の先生に捕まってしまい雑用を押し付けられる。琴子もそれを手伝うと言ってくれたのだが、1人ですぐに終わる雑用だったので、彼女には校門で先に待っていてもらった。


「ふぅ…意外と時間かかっちゃったな」


 先生に頼まれた雑用はすぐに終わったのだが、その後先生に「頼まれていた用が終わりましたよ」と報告に言った際に「ついでだから」とまたもや雑用を頼まれてしまう。


 早く琴子と一緒に帰りたかった僕は腹がったが、先生に文句を言う訳にもいかず、その雑用を渋々受ける。計2つの雑用をこなして校門に向かうが、琴子と別れてからずいぶん時間が経ってしまっていた。


 僕は急いで昇降口へ行き、靴箱で上履きを靴に履き替える。そして琴子が待っている校門を目指した。


「武光! ちょっと待ちなさい!」


 誰かに呼びとめられて僕は振り返る。見るとそこには柏木が立っていた。めんどくさいな。僕は琴子と一緒に帰るので忙しいんだ。なので無視して通り過ぎようとした。


「待ちなさいって言ってるでしょ!」


 彼女は走って僕を追いかけてくると羽交い絞めにしてきた。


「何するんだよ!?」


 僕は彼女から逃れようともがくが、彼女はしぶとく蛸のように絡み付いてくる。


「早く、写真撮って!」


「は? 写真?」


 「パシャリ」と校舎の茂みの影からスマホカメラの音が響く。そしてその茂みからニヤニヤと笑うのっぽでほっそりとした男が出て来た。あいつは…隣りのクラスの岡崎! 横浜とは気が合うらしく、よく一緒に行動している横浜グループの一員だ。


 スマホで僕の写真なんて撮ってどうするつもりだ?


「おい! 撮った写真すぐに消せよ。何に使うんだ?」


「クックック…教えてやろうか?」


 岡崎はスマホをこちらに向け、先ほど撮ったであろう写真を僕に見せて来た。


「あっ…」


 その写真は僕と柏木が抱き合うような感じになるように撮られていた。実際には僕は彼女から逃れるためにもがいていたのだが、上手い事彼女と抱き合うように見える所を撮ったらしい。


「瀬名はお前にぞっこんなんだってな? でもそんな愛する彼氏が別の女と抱き合っている写真を見たら…彼女はどう思うかな? そして傷心の瀬名を横浜が慰めるって寸法よ」


 確かに嫉妬深い琴子がこの写真を見たら…彼女は僕に失望して怒り狂うかもしれない。こいつら…僕と琴子を別れさせるためにわざわざこんな手の込んだ事をしやがって!


 やはり柏木が僕に用があると言ってきたのは横浜の考えた罠だったようだ。僕がいつまで経っても体育館裏に来ないので、探しに来たところに鉢合わせしてしまったらしい。


「残念だったな佐伯! お前はここで終わりだ」


 岡崎がゲス顔で笑う。僕は彼からスマホを取り上げようと飛び掛かるが、彼の背は無駄に高く僕の手は届かない。


「ほらほら~どうした? 手が届いてねぇぞ陰キャチー牛! そんなお前にぴったりの歌がある。歌ってやろうか?『チギュギュギュギュギュギュ♪ チギュギュギュギュギュギュ♪ チギュギュキモイよ♪ チ、ギュギュ♪』ハッハァ! これで瀬名は横浜のモノだな」


 岡崎は「おもちゃのチャチャチャ」のリズムに合わせて僕の事をチー牛と煽って来る。クソッ、腹の立つ奴だ。僕は引き続き彼のスマホに手を伸ばすが、やはり手は届かない。どうすればいいんだ。


「私が…どうかしたんですか?」


 その時、芯から凍るような低い声が響いた。この声は琴子? 振り返ると校門の方からゆっくりと彼女がこちらに向かってくる。季節は夏にも関わらず、何故か僕は震えていた。まるで真冬のように背中がブルブル震えて止まらない。


 間違いない。琴子は今、物凄く怒っている。彼女の怒りのオーラがここら辺一帯を包んでいる。


「武光君が遅いのでどうしたのかと思って見に来てみれば…ドブネズミと便所コオロギに捕まっていたんですね。話は…すべて聞かせて貰いました」


 琴子は柏木と岡崎を睨みつけた。



○○〇


長くなりそうなので一旦切ります。次回。琴子、激怒のお仕置き。


「おもちゃのチャチャチャ」は童謡で有名なアレです。「おもちゃのチャチャチャ♪ おもちゃのチャチャチャ♪」で始まる奴ですね。なんか音の感じが似てるので合わせてみました。


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