帰り道での事
琴子とお互いにプレゼントを交換した後、僕たちは水族館を出た。そろそろ時刻は17時、思ったより2人とも時間を忘れて水族館を満喫していたらしい。
彼女もご機嫌なようだし、水族館をチョイスして良かった。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうと言うが、本当にその通りだ。
本当は水族館の後にも色々と予定を考えていたんだけど…今から行くにはちょっと微妙な時間になってしまった。17時は高校生にとっては解散するべきか、もう少し一緒にいるべきか悩む時間である。
…というのも僕たちの住んでいる所は田舎なので、あまり遅くなると帰りの電車が無くなってしまうのだ。都会に住んでいる人からすると信じられないかもしれないが、18時以降になると電車の本数が一気に減るのである。もし乗り過ごしたりすると1時間…下手するとそれ以上待たなければ次の電車が来ない。
僕はどうするべきか考えたが、今日が初めてのデートだし…あまり遅くなると琴子の両親が心配するかもしれない。
そう考えた僕は名残惜しいが…今日のデートはここまでにしようと思った。なぁに、僕と琴子は付き合っているのだ。今日行けなかった所は次のデートで来ればいい。今の時間ならまだ電車の本数は結構あるので、帰るのも余裕だ。
琴子の方を見ると先ほど買ってあげたチョーカーの袋を開けて、早速首に付けていた。それはもうニッコニコの笑顔で。あそこまで喜んでくれると買ってあげて良かったという気分になる。
それにしても売り場で見た時は何とも思わなかったけど…チョーカーってなんか首輪みたいだな。
「武光君見て見て、早速つけてみたの! どう、似合ってる?」
「うん、良く似合ってるよ」
琴子は元の素材が良いので何を付けても似合うと思う。むしろ似合わないものを探す方が難しいんじゃないだろうか。
「武光君も付けようよ。お揃いのチョーカー♡」
「う、うん」
僕は琴子にせかされて彼女からプレゼントされたチョーカーの封を破り、自分の首に付けた。
「どうかな?」
「武光君も良く似合ってるよ。えへへ♪ これでお揃いだね♪ ゾクゾクしちゃう…♡」
琴子は物凄く喜んでいる様だ。そんなにお揃いの小物を身に付けられたのが嬉しいのかな? 彼女が喜んでいる姿を見ると僕も嬉しくなってしまう。
僕はスマホで時間を確認した。現在17時10分、確か次に電車が来るのが17時30分だからそろそろ駅に移動した方がいいか。
「琴子、時間も遅くなっちゃったし、今日のデートはここまでにしようか?」
「ええっ? 私はまだ大丈夫だよ? お母さんにも遅くなるかもって言ってあるし…。まだまだ一緒にいようよ」
「僕も一緒に居たいけど、あまり遅くなると電車の時間が無くなっちゃうからさ」
「…そうだね。今日はここまでにする」
琴子はションボリとした顔で頷いた。ううん、これはまた絶対デートに誘わないと…という気分にさせられるな。幸いにも今月末から夏休みが始まるので彼女をデートに誘う時間は沢山ある。彼女と過ごす夏休み…楽しみだなぁ。
○○〇
僕と彼女は電車にガタガタと揺られながら僕たちが住む町へと帰還する。行きとは違い、帰りの電車は空いていたので座る事が出来た。
琴子は僕の肩に頭をもたれかけて眠っていた。はしゃぎすぎて疲れたのかもしれない。彼女の寝顔もまた可愛い。長いまつげ、綺麗な肌、瑞々しい唇…眠っていても彼女は僕をドキリとさせる。
僕はそんな彼女の寝顔を見ながら少し考え事をしていた。内容は彼女が僕に告白してきた時の事だ。
彼女の告白に僕は「まだお互いの事を知らないからお試しで…」と答えた。あれから約1週間、まだ彼女の全てを知っているわけではないが、彼女の様々な一面を見て来た。
尽くしたがりな所、優しい所、嫉妬深い所、一途な所、意外と少女趣味な所、可愛い所、怖い所…沢山。そしてその彼女の様々な一面を知って僕の中で1つの答えが生まれた。
それは「琴子とお試しではなく本格的に付き合おう」という事である。琴子は決して悪い子ではない。むしろいい子だ。欠点というと本当に…愛が少し重い事だけ。だからこそ僕は自分の手で彼女を幸せにしてあげたい…そう思った。
よし…彼女が起きたら話を切り出そう。僕はそう覚悟を決めた。
〇○○
彼女が起きたのは駅に着いてからだった。というか起きないので僕が肩を揺らして起こした。「ふえっ!?」と可愛い声を上げて彼女は飛び起きる。あまりのんびりしていると電車が次の駅に出発してしまうので急いで降りた。
駅の改札口を出て、僕たちは駅の前にある広場にまで出て来た。そして僕はそこで改めて彼女に向き合った。
「琴子、ちょっといいかな?」
「どうしたの武光君、いきなり改まった顔して? でもそんな顔もカッコいい♡」
「えっと…さ、琴子が以前僕に告白してくれた時、僕はお試しでって言ったじゃん?」
「うん。言ったね」
「えっと…瀬名琴子さん、僕とお試しではなくて本格的にお付き合いして頂けませんか?」
「えっ?/////」
琴子は驚いた顔をしていた。しかし、すぐに顔をほころばせて僕に抱き着いてくる。
「嬉しい! じゃあ私と結婚してくれるって事?」
「えっ、結婚?」
そこまではまだ早いんじゃないかな?
「私言ったよ! 『結婚を前提にお付き合いしてくれませんか?』って。つまり武光君も私と結婚したいって思ってくれたって事でしょ?」
僕は彼女に告白された時の事を思い出してみる。あっ…そういえばそんな事を言っていたような…? えぇ…でも僕たちはまだ高校生だよ?
「えっと…琴子?」
「もうダメ、取り消せないからね。もし取り消そうものなら…」
彼女の雰囲気が一気に変わり、僕はまるで絶対零度の部屋の中にいるかのような悪寒に包まれる。怖い…。また目のハイライト消えてるじゃん…。
まぁ…でもいいか。僕も彼女と別れる気はない。…よくよく考えると琴子って結婚相手としても良物件なのでは? 料理上手いし、一途だし。
そんな事を考えていると僕の唇に何か柔らかく、生暖かい物が押し付けられた。
…えっ? これ何? 目の前には琴子の顔がドアップである。じゃあこれは…彼女の唇? キス? マウストゥマウス? 僕は今彼女と初キスをしているの?
いきなりの出来事に頭が混乱する。でも…キスってこんなにも気持ちのいい物なんだな。唇の柔らかさが凄く心地いい。
横浜と柏木が人前でキスしているのを見て僕は軽蔑していたけど、今なら少しその気持ちがわかる気がする。これは…中毒になりそうだ。頭の中がとろけると言えばいいのだろうか?
琴子はしばらくして僕の唇から自分の唇を離した。おそらく時間にして1分程しかたっていないと思うが、僕にはそれが物凄く長い時間のように感じられた。
「えへへ♡ ちょっと早いけど誓いのキス! じゃあまたね武光君! 今日のデート楽しかったよ!」
「えっ? あ、うん…」
彼女は若干赤い顔をしながら僕に手を振ると自分の家の方向に走っていった。僕はそのまま思考が追い付かず、しばらくの間魂を抜き取られたかのように駅前でボーっとしていた。
○○〇
すいません、少し長くなりました。
結婚の件については『初彼女…ゲットだぜ?』を見直していただければ、彼女はそう言ってると思います。
今後の展開が気になると言う方は☆での評価やフォローお願いします。
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