デート先で

「水族館?」


 電車に乗り、隣町まで来た僕たちは水族館にやって来ていた。水族館といえば初デートのド定番…と言われるぐらいの場所である。様々な魚が水槽の中を泳いでいて飽きないし、イルカやペンギンなどの可愛らしい動物のショーもやっている。男性だけでなく、女性も十分楽しめる場所のはずだ。


 それに僕がここをチョイスしたのにはもう1つ理由がある。前々から密かに琴子はペンギンが好きなのではないかと僕は疑っていた。


 最初に気が付いたのは彼女のシャーペン。ペンギンが描かれているシャーペンを彼女は愛用していた。


 その後、色々と彼女の身に着けている物をチェックしていくと…彼女のスマホにはペンギンのストラップが、また彼女の学生鞄にはペンギンのキーホルダーが付いていた。そういう理由で僕は彼女はペンギンが好きなのではないかと予想したのだ。


「そう、琴子ってよくペンギンの小物とか身に着けてるでしょ? だから水族館とか好きかなと思って」


「武光君…」

 

 彼女はうつむいてプルプルと震えている。あれ? もしかして選択肢ミスった?


 僕が困惑していると彼女はいきなり抱き着いてきた。


「嬉しい///// 武光君ちゃんと私の事見ててくれたんだね///// 確かに私はペンギンが好きよ。もちろん、武光君の次にだけど♡」


 いきなり抱き着いてきた彼女の柔らかい感触と彼女から漂ってくる女性特有の良い匂いに僕の心臓は爆発寸前だった。


 琴子さん、だからいきなり抱き着いてくるのは反則ですって。…心臓に悪いなこれ。いつか僕の心臓は本当に破裂してしまうんじゃないかと心配になる。


「ちょ、琴子。周りの人が見てるから!」


「どうして? 私たちは恋人同士なんだから何の問題もないよ♡ むしろ見せつけてあげればいいじゃない♡」


 周りにいる家族連れなどが僕たちの方を見て「おーおー。熱いわねぇ。私たちも数年前はあんなだったわ」と懐かしむような視線を向けて来る。


 う、うーん、確かに恋人同士が抱き合っていても問題はないのか? 僕が恥ずかしがり屋なだけだろうか?


 なんとか彼女を引きはがす事に成功した僕は水族館の受付に行き入場料を学生2人分支払った。


「あっ、私も出すよ」


「いい、いい。今日はいつも僕に色々してくれる琴子へのせめてものお礼だから。僕に払わせて」


 琴子は僕にお弁当を作ってくれたり、他にも色々尽くしてくれている。だからこそデートの時ぐらいは僕がお金を出して彼女に奢るべきだと思ったのだ。彼女へのせめてもの恩返しである。彼女に貰ってばかりではダメだ。貰ったらその分返さないとな。


 彼女は最初不満げな顔をしていたが、しぶしぶ納得したようだった。


「じゃあ次のお弁当はもっと豪華にするね♪」


 うーん、それだといつまで経っても彼女に恩を返しきれないのだが…。まぁいいか。僕もその分琴子に恩返しすればいいだけの話だ。


 気を取り直して僕たちは水族館の中に入って行った。琴子はもちろん満面の笑みで僕の腕に抱き着いている。


 最初は海の魚の水槽だった。この町の近海に生息する魚がこの水槽に展示されているらしい。


「あっ、あれはアジかな? その横にいるのはサバ?」


「どれも美味しそうだなぁ…」


「武光君ってば結構食いしん坊なんだね♪ 魚を見て1番に出てくる感想がそれなんだ?」


 琴子は愉快そうに笑いながらそう言った。それはしょうがないじゃないか。だってアジといえば文字通りが良いのが名前の由来だからね。これが熱帯魚とかなら「綺麗だね」とかそういう感想が出て来るが、アジやサバを見ても「美味しそうだな」という感想しか出てこない。


 あぁ…アジのなめろうやサバの味噌煮が僕の頭の中で連想されてお腹が減って来る。


「ちなみに…武光君はアジやサバの料理は何が好きなの?」


「えっ…なめろうとか味噌煮かな?」


「なめろうはお弁当にするには衛生上難しいけど、サバの味噌煮ならできるよ♪ 今度の月曜作って行こうか?」


「えっ、いいの?」


「もちろん♪ それくらいお安い御用だよ」


 琴子の料理はなんでも美味しいからな。僕はそれを聞いて腹の虫が「グゥ」となってしまった。


「ふふふ…胃袋の方はもう私に落ちたのかな? もっと、もっと私に依存させてあげる…♡」


「ん? なんか言った?」


「ううん♪ 何でもないよ。それより次の水槽見に行こうよ!」


 僕は琴子に手を引っ張られて次の水槽へと向かった。



○○〇


徐々に主人公を落としていく琴子


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