そういえば彼女はヤンデレだった…

 僕と琴子は公園にあったベンチに座りクレープを食べている。僕はチョコバナナのクレープ。琴子はイチゴと生クリームのクレープだ。一口かじると新鮮なバナナの甘さとチョコのハーモニーが口の中に広まった。


「うん、美味しいとは聞いていたけど本当に美味しいね」


 琴子にも感想を聞いてみると彼女のイチゴと生クリームのクレープも美味しいそうだ。うーん、僕もイチゴと迷ったんだけど、僅差でバナナの方が買ってしまった。琴子が食べているのを見るとそちらも食べたくなってくる。


「武光君のチョコバナナクレープも美味しそうだね。あっ、そうだ。せっかくなんだから一口ずつ食べさせあいっこしない?」


 琴子は僕の思考を読み取ったのか、突然そんな事を言ってくる。えっ…食べさせあいっこってお昼みたいにお互いに「あーん」しあうって事? 


 それは…流石に無茶苦茶恥ずかしい。彼女に「あーん」されるのすら恥ずかしかったのに、更に自分も彼女に「あーん」しなければならないなんて…。


 困惑している僕に琴子は口を耳元に寄せるとこうささやいてきた。


「私たち恋人同士なんだからそれくらい普通でしょう? ね? やっちゃおうよ。今なら見ている人は誰もいないよ?」


 彼女はその深い深紅の瞳で僕を見つめた。彼女に耳元でささやかれると体がゾクゾクして脳がとろけてくる。「やっちゃってもいいかな?」という気分になる。これは僕が彼女に惹かれ始めているという事だろうか。


 公園内を見渡すと確かにあのクレープの屋台のおっさん以外は誰もいなかった。そのおっさんも今はこちらの方を向いていない。誰も見ていないのなら…いいか。


 それに昼に彼女に「あーん」されたのだから、お返ししないとダメだよなと僕は思い直した。


「よし、やろう。はい、あーん////」


「ふふっ、そうでなくちゃ。はい、あーん」


 お互いの口の中にお互いが差し出したクレープが入る。別にいやらしい事をしている訳でもないのに、クレープが口の中に入るまでの時間がまるで永遠のように感じられ、そして何故か僕の心臓はドキドキと高鳴っていた。


「うん、武光君のチョコバナナ美味しい♪」


 彼女が意図しているのか意図していないのかは分からないが…琴子、それはちょっと卑猥な意味に聞こえるぞ。僕も彼女から貰ったイチゴと生クリームのクレープを噛みしめるが、ドキドキしすぎてイチゴの味がすること以外何も分からなかった。


「あっ、武光君のほっぺたに生クリームが付いてる」


「えっ?」


 おそらく先ほど「あーん」しあった時についてしまったのだろう。僕はそれをティッシュで拭き取ろうとポケットに手を伸ばした。しかし、それより早く彼女の唇が僕の頬に吸い付いた。


 彼女の唇の感想は柔らかく…そして暖かかった。僕は彼女がした行動に一瞬意識が固まる。


 うん? 彼女は今何をやったんだ? えっ? 僕の頬に吸い付いた? つまりキス?


 彼女は僕のほっぺたについていたクリームを吸い取ると僕の方を見て妖艶にほほ笑みながら唇を舌で舐めた。僕は彼女のその表情に艶めかしさを感じてしまう。


「恋人だもん。これくらいは普通だよね?」


 まだ恋人になって2日目なのだが、彼女の距離の詰め方が尋常じゃない。これは気を付けておかないと僕はあっという間に彼女に骨抜きにされるかもしれない。



○○〇



クレープを食べ終えた僕たちは公園で談笑していた。お互いの家族や趣味、好きなものについて語り合う。なんだかんだ言って僕たちは実質出会って2日目、お互いの事はまだ全然知らないのだ。


「へぇ~、武光君って『呪殺の刃』好きなんだ」


「うん、予想できない展開が面白くてワクワクするんだよね」


「私も読んでみたいなぁ」


「よかったら貸そうか? 全巻持ってるし」


「本当に!? 嬉しいなぁ」


 『呪殺の刃』とは現在週刊少年ジョンプで連載中の大人気漫画である。僕はこの作品の大ファンだった。自分が好きなものを相手にも興味を持って貰えるとやはり嬉しい。これを機に琴子も『呪殺の刃』のファンになってもらいたいものだ。


 そういえば早苗…いや、柏木は以前僕が『呪殺の刃』にハマってるって言ったら「まだそんなんにハマってんの?」とか言って馬鹿にしてきたなぁ。思い出すとなんだか腹が立ってきたぞ。


 僕が柏木の事を思い出していると、横にいる琴子からものすごいプレッシャーが放たれるのを感じた。


「ねぇ、武光君。今、別の女の事を考えなかった…?」


 鋭い…。彼女は僕の思考が読めるというのか。恐る恐る彼女の方を見る。見ると彼女の目からはハイライトが消えていた。うつろな目をしてこちらを見つめて来る。ひぇぇ…怖い。


 そうだ思い出した。そういえばあの勾玉は「ヤンデレ」美少女にモテる特級呪物だったな。琴子も例に漏れずヤンデレだったという事か。


 だがしかし僕は考え直した。ヤンデレ美少女の何がいけないのだろうか? 自分だけを一途に思ってくれるなんて最高じゃないか!


 今日1日彼女に付き合って琴子が凄くいい娘であることは分かった。ならばあとは僕が彼女の期待を裏切らないようにすればいいだけだ。


「ごめんね琴子、僕が悪かったよ。そうだよね琴子とのデート中に他の子の事を考えるなんて失礼だよね。これからは琴子の事だけを考えるようにするよ」


「分かればいいんです♪ 私も武光君の事だけを考えるから」


 機嫌が戻った琴子に安堵しつつ、その日はもう少しそこで話して彼女と別れた。



○○〇


※…11/7日に内容を一部修正しました。


彼女のヤンの部分はまだまだ一部しか現れてません


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