何故彼女は人前でイチャイチャしたがるんだろうか?

「はい、武光君、あ~ん♪」


「えっ、いや…流石に自分で食べるよ」


「武光君は私に『あ~ん』ってやられるの嫌?」


 彼女はその可憐な瞳を潤ませながら上目遣いになって僕を見つめてくる。くぅ…そんな顔されたら断れるわけないじゃないか。僕は顔を赤らめながらしぶしぶ口を開けた。


 昼休みの教室、僕は瀬名さんと一緒にお弁当を食べる約束をしたまでは良かったのだが、その彼女から何故か「あ~ん」攻撃を受けていた


「あ、あ~ん…」


 僕が口を開けた隙に瀬名さんが唐揚げを口の中に放り込んだ。


「はい、あ~ん。良く出来ました♡ 美味しい?」


「お、美味しい…////」


 正直恥ずかしくて味なんて良く分からなかったが、とりあえず美味しいと答えておいた。


 僕たちがイチャイチャしているのが教室の中という事は、当然クラスの連中も見ているワケで…。クラスの男連中が嫉妬や羨望の入り混じった眼差しをこちらに向けて来る。


「あんな美人に『あ~ん』やられるなんて羨ましい!!!」「瀬名さんの作った料理すごく美味しそうだぜ…」「2人ともラブラブだね」「クソッ、佐伯の奴…どんな手を使って瀬名さんを篭絡したんだ?」


 こうなるなら教室でお弁当食べるんじゃなくて、どこか2人っきりになれる場所で食べた方が良かったな。教室だとどうしても他人の目があるからね。次に彼女とお弁当を食べる時はそう提案してみよう。


「はい、あ~ん♪」


 彼女は次はコロッケを箸に掴んで差し出してきた。僕は先ほどと同じく口を開けてそれを食べたのだが、口元にコロッケのカスが残ってしまった。


 僕はそれを自分でとろうとしたのだが、瀬名さんがそれより早く自分の指でコロッケのカスを掴み、あろうことかそれを自分の口に持って行って食べてしまった。


「ふふっ♪」


 彼女は何一つ嫌な顔をせずにそれを飲み込むと、僕に向かってその綺麗な顔で笑いかけてくる。そしてそれを見たクラスの連中からまたもやどよめきの声が上がる。


「おいおいガチかよ…。佐伯にあそこまでやるのか」「2人の仲はもう結構進んでいるようだな」「マジで羨ましい…」「なんかこの教室暑くね?」


 僕は彼女の行動に困惑した。いくら彼女が僕の事を好きとは言っても僕たちは昨日付き合ったばかりなのだが…どうしてそこまでできるんだろう。


「べ、別にそこまでしなくても良いのに。汚いよ」


「どうして? 好きな人の食べカスが汚いはずないじゃない♡」


 彼女の突然の愛の言葉に僕は思わず赤面してしまう。それを聞いていた周りの連中も「ヒューヒュー! これはお熱いカップルの誕生だぜ!」と冷やかしを入れて来た。


 教室でこんな恥ずかしい事を堂々と言うとは…朝のカミングアウトの件と言い彼女は一体何を考えているのだろうか?


 僕が疑問に思っていると彼女はそれを察したのか、耳元に口を寄せてくるとヒソヒソ声でこうつぶやいた。


「私たちがラブラブだっていう所を見せつけちゃおうと思って♡ そうすれば武光君に他の女の子が言い寄ってこなくなるでしょう? これは私なりの虫よけ。私って嫉妬深いから…」


 ああ、成程。そういう理由だったのか。だから彼女は先ほどから皆に見せつけるようにアピールしていたんだな。でもそんなに心配しなくても僕に言い寄って来る女の子なんていないと思うけど…。


 その後、瀬名さんはお昼ご飯が終わった後の昼休みも僕とくっ付いて離れてくれなかった。まぁでもこれくらいはいいか。僕も可愛い女の子がくっついてくれて嫌なわけじゃないしな。


 だがその時の僕は彼女に気を取られすぎていて、僕たちの方を鋭い目で見ている男に気が付かなかった。



○○〇



~side横浜~


「クソッ。…なんであんな奴がSSR級の美少女捕まえてんだよ。あぁ、ムカつくぜ! あんなカスみたいな奴に瀬名はふさわしくねぇ! このイケメンの俺にこそふさわしいんだよなぁ! よし、次のターゲットは決まった。この超絶イケメンの俺に落ちねぇ女はいねぇって事を見せてやるぜ。ああ…楽しみだなぁ、あいつから瀬名を寝取るの」


 この男の名は横浜英明。現在、佐伯武光の昔の想い人だった柏木早苗と付き合っている人物である。


 彼は今まで瀬名琴子の事は只の陰キャ女子としか見ていなかったのだが、彼女の素顔を見て自分の物にしようと考えを改めたのだ。彼は瀬名琴子をじっと見つめながら悪だくみを考える。


 その横浜に教室に戻って来た今カノの柏木早苗がウキウキで話しかけてきた。


「ごめんねぇー秀君、先生の用事が長引いちゃって。ホントあのハゲさぁ…。あっ! 今日の放課後どこ行く? 確か部活休みだよね? その…ホテルでも行っちゃう?///」


 しかし今の横浜の頭の中には瀬名琴子をどう落とすかという事しかなかった。早苗など彼女に比べればレアリティR程度の低級女である。


「うるせぇ! 1人で行って腰振ってろよこのブス! 俺様は今忙しいんだよ!」


「どうしたの秀君? 私なんかやっちゃった?」


 早苗は今まで優しかった横浜がなぜ自分をいきなり怒鳴りつけて来たのか理解が出来なかった。


「いいからどっか行け! 邪魔だこの猿女!」


「秀君…」


 早苗は訳が分からずにひとまずそこから退散する事にした。明日にはいつもの優しい彼氏に戻っている事を信じて。


 だが早苗は気が付いていなかった。横浜が早苗に優しかったのは彼が仲間たちと彼女がどれだけ早く落ちるかというゲームをしているから優しかっただけである事を。


 彼にとって自分に落ちた女はもう用済みなのである。適当に股を開かせた後はポイするだけの簡単なお仕事だ。


 早苗はおろかにもイケメンというだけでそういう男に引っかかってしまったのだ。この後自分に悲しい運命が待ち受けている事を彼女はまだ理解していない。



○○〇


当然ですが、瀬名さんは寝取られません。主人公一筋です。一応念のため書いておきます。彼らは後にざまぁされます。


今後の展開が気になると言う方は☆での評価やフォローお願いします。

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