初彼女…ゲットだぜ?

 来たる放課後、僕は気分の乗らない足を無理やり持ち上げながら屋上への階段を登っていた。今からされる告白が本当の告白であればどれほどよかったか…本当に陽キャ連中はめんどうなものを流行らせてくれたものだ。最初に嘘告を流行らせた奴は万死に値する。…いやまだ嘘告と完全に決まったわけではないけど。


「はぁ~」


 僕は屋上へ続く扉の前に立つと今日何度目かも分からないため息を吐く。


「ねぇ神様。本当にいるなら僕に奇跡を見せてよ」


 僕は首から垂れ下がっている勾玉を右手で握りしめるとそれに祈りを込めた。僕が勾玉を握りしめた瞬間、青い勾玉が一瞬輝いたように見えたが…気のせいかな?


 僕は深呼吸をし、そして意を決すると屋上へと続く扉のドアノブに手をかけ一気に扉を開いた。


 外から吹く夏の生ぬるい風が僕の体を撫でて通り過ぎる。その風圧が思ったより強くて僕は目をつむってしまった。風が通り過ぎた後、僕はつむっていた目を開けて屋上の奥を見るとそこには女の子が立っていた。


 腰のあたりまである艶のある綺麗な黒髪を風に揺らしながらその娘は運動場の方を見つめている。


 あの娘が僕にラブレターをくれた娘だろうか?


 僕は記憶からその娘の事を思い出そうとする。僕と会ったことのある娘だろうか? あの艶のある綺麗な黒髪…どこかで見たような気がするんだけど、思い出せない。


 僕が屋上に入り、扉をバタンと閉めるとその娘は僕が来た事に気が付いた様でこちらの方を振り向いた。


「来てくれたんだ。武光君」


「君がラブレターをくれたのかい?」


「そうだよ」


 顔の半分程まで垂れ下がった髪のせいで顔はよく見えないが、僕はその娘に見覚えがあった。確か…同じクラスの瀬名琴子せなことこさんだ。


 彼女はどちらかというと陰キャ側に属するタイプの人で、そもそも学校ではあまりしゃべっている所を見た事がない。いつも本を読んでいる娘というのが僕の中のイメージである。ちなみに今は僕の右隣の席に座っている。


 僕ともほとんど会話をした事などないはずだ。それなのに何故彼女は僕にラブレターなど送ってきたのだろうか? 僕の中で警戒心が大きくなり始める。


 例えば…瀬名さんが横浜に僕に嘘告をしろと脅されていたのなら? 僕は気を抜かないようにしながら彼女を見つめた。


「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ♪ 嘘告なんかじゃないし」


 彼女は僕の様子を見て察したのか先手を打ってくる。そして深呼吸をしてこう告げた。


「佐伯武光君。あなたの事が好きです。私と結婚を前提に付き合ってください」


 僕はそれを聞いて表面上は平然としていた…と思うが、いきなりの告白に内心はドキドキしていた。なんせ人生で初めての告白である。緊張しない方がおかしい。僕は緊張でカラカラになった口をなんとかこじ開けて彼女に疑問を尋ねた。


「えっと…なんで僕に告白を? 瀬名さんとはあまり話したこともないよね?」


「一昨日助けてもらった時に武光君に一目ぼれしちゃった♡」


「一昨日?」


 おかしいな。僕は一昨日瀬名さんとは会っていないはずである。一昨日というと本屋に行ってその帰りに美少女を暴漢から助けた覚えがあるが…あれは瀬名さんではない。


「こうすれば思い出すかな?」


 彼女はそう言って長い前髪を左右に分け、その髪に隠された素顔をあらわにした。


「あっ!!!」


「思い出してくれた?」


 彼女の素顔…それは紛れもなく僕が一昨日助けた美少女の顔そのものであった。忘れようはずもない。なんせ100年に1度ともいえる美少女だったのだから。あの人は瀬名さんだったのか、全く気が付かなかった…。


「ついでに忘れ物も返しておくね」


 そう言って彼女は僕に本屋の紙袋を渡してきた。これは…僕が一昨日あの場所に忘れていった漫画の新刊じゃないか!?


「どうしてそんなに綺麗な顔をしているのに髪で顔を隠しているの?」


「ありがとう、武光君にそう言ってもらえると嬉しいな///// うーん、顔を隠している理由かぁ…。一言で言うとめんどくさい人を避けるためかな?」


 良く分からないが、彼女ほどの美少女になると色々やっかみもあるのだろう。だからそれを避けるために顔を隠していた。僕はそう解釈することにした。


「それで…告白の返事を聞かせて貰えるかな?」


 彼女はニッコリとその美しい顔でほほ笑む。僕はその彼女の笑顔に思わず顔が赤くなってしまった。美少女の笑顔は破壊力が高いのだ。


 告白の返事はどうしようか…? 僕に助けられたから一目ぼれした…男女の恋の始まりの王道パターンといえる。という事はこれは嘘告ではない可能性が高い。


 だが僕は瀬名さんについて何一つ知らないかった。嬉しい事は嬉しいが、いきなり告白されても…という感じである。僕はその告白を受ける事をためらった。


「えっと…僕達まだお互いの事を何も知らないし…」


「じゃあお試しでしばらく付き合ってみるってのはどう? それで気が合ったなら本格的に付き合えば良いし、気が合わなかったら別れるという事で」


「うーん…」


 美少女に告白されて、気に入らなければ別れても良い。なんとも僕に都合の良い話だ。現実味がない。これが夢でないことを確かめるために僕は自分の頬をつねった。


「痛い…」


「あはは。武光君って面白いね。ますます気に入っちゃった♡ もう一度言うけどこれは嘘告なんかじゃない、私の本当の気持ち。そして夢でもないよ」


 嘘告ではないし、夢でもない。ではお試しという事で付き合ってみても良いのではないだろうか? 僕はそう判断した。幸い僕には好きな人も彼女もいない。


「…しばらくの間よろしくお願いします」


「やったぁ! とりあえず受けてくれるんだね。じゃお試し期間中に武光君の事を頑張って落とさないと♪」


 こうして僕に仮…とはいえ初彼女が出来た。そしてその日は彼女と連絡先を交換して別れた。ま、気が合わなければ別れれればいいだろうし。何事も挑戦だと思って受けてみよう。


「…逃がさないけどね♡」


 瀬名さんが別れ際に何か言ったようだが、何を言ったのだろうか? そういえば何か大事な事を忘れているような…?



○○〇


主人公に告白してきたのは100年に1度とも言われる美少女でした。晴れて付き合う事になった2人。今後どうなる?


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