ラブレター? どうせ嘘告だろ?

 次の週の月曜日、僕はいつも通り学校へ向かっていた。もう後2週間足らずで学校は夏休みになる。高校生になって初めての夏休み、僕は夏休みになったら何をしようかなと考えながら学校の昇降口で靴を脱ぎ、上履きに履き替えるべく自分の靴箱を開けた。


 するとパサリと音を立てて、何やら紙のようなものが僕の靴箱からひらりと蝶のように足元に舞い落ちた。


 何だろうこれは…? 


 僕はその不審な紙を拾うとマジマジと観察する。どうやらそれは手紙のようだった。綺麗なピンク色の便箋でほのかに甘い香りがする…ような気がする。便箋の開け口には可愛らしいハートのシールが貼ってあった。


 …もしかするとこれはラブレターという物だろうか?


 創作の世界…ラノベや漫画の中でそういうものがあるという存在自体は知識として知っていたが、現実の世界で目にするのは初めての事である。


 そこで僕は「ハッ!」として首にかけてある勾玉を見つめた。ひょっとしてこれは勾玉の効力がやっと発揮された? 僕に美少女が告白してくる? 夏休み前に初彼女できちゃう?


 と、少し心を躍らせたのもつかの間、数秒後に思い直して冷静になった。


 いや待て、よく考えてもみろ。そもそも僕は女の子に惚れられるような事を何一つやってないじゃないか。漫画やラノベのラブコメだってまずフラグが立たないとラブレターなんてものは送られないし美少女からの告白は無いのだ。


 もちろん僕に一目惚れをしてラブレターを送って来たという線も無くはない。しかし、自慢ではないが僕は平凡な容姿をしているためこれはあり得ないだろう。


 そもそもな話…自分の事を「神」と自称する人間から貰った変な石ころに美少女からモテる効能があるというのを信じるという事自体が荒唐無稽こうとうむけいな話なのだ。


 つまるところこれは…孔明の罠。陽キャ達の間で流行っている「嘘告」用のラブレターといった所だろうと僕は推察した。


 「嘘告」…気に入らない陰キャを偽のラブレターで呼び出し、陰キャに「僕にも女の子からの告白が?」と希望を抱かせた後にそれが嘘である事をバラし、陰キャを絶望の淵に追い詰め、陽キャ達がその様を見て大爆笑する行事の事である。


 僕にはそれの何が面白いのか分からないが…彼らの間では抱腹絶倒ものらしい。まぁどっかの偉い人も「希望を与えられ、それを奪われる…その瞬間こそ人間は一番美しい顔をする」と言っていたし、陽キャ達の間では最高の娯楽なのだろう。


 おそらくこのラブレターの送り主は横浜あたりではないだろうか? 先週の早苗の一件で僕は彼の不評を買っている。陰キャの僕を偽のラブレターで呼び出して笑いものにしようとしていてもおかしくはない。あいつならこういう事は平気でやる。


 …あいつの思い通りにするのも癪だな。


 そう思った僕は手紙を一旦ズボンのポケットにしまい、靴を上履きに履き替えて自分の教室へと向かった。とりあえず康太あたりに相談してみよう。彼の事だからもうすでに登校しているはずだ。



○○〇



「嘘告?」


「うん、今朝僕の靴箱にこんなものが入っていたんだ」


 康太は僕の予想通り自分の席にすでに座っていた。僕は早速彼にラブレターの件を説明し、どうするべきなのかを相談した。


「中身は読んだのか?」


「いや、まだ」


「とりあえずまずは中身を読んでみようぜ? 話はそれからだ。もしかすると本当にラブレターかもしれないぞ?」


「まさかぁ…」


 僕は便箋のハートのシールをはがし、中に入っている紙を取り出して目を通した。それには可愛らしい字でこう簡潔に書かれていた。


『今日の放課後、屋上で待ってます』


「だってさ。見るからに怪しいじゃないか。それに名前も書いてないし…」


「そうか? この字は多分女の子の字だと思うぞ」


「女子に代筆を頼んだんじゃない?」


 彼らは陰キャを笑いものにするためなら何でもする連中だ。嘘告をするためにそれくらい手の込んだことはやるだろう。


「いいや、俺のラブセンサーがビンビンと来てる。これは正真正銘のラブレターだ。という事で武光、お前放課後屋上確定な」


 康太が僕の肩に手を置きながら自信満々の顔で全く根拠のない事を言ってくる。


「康太の『カン』って全く信用ならないんだよねぇ…早苗の時だってそうだったし」


「…それを言われると痛い。でも柏木さんはお前の事好きだったと思うんだけどなぁ…」


「でも柏木は横浜と付き合ってるじゃん?」


「だから不思議なんだよなぁ…。なんで横浜の告白を受けたのか分かんねぇ」


「その話はもういいよ。今はこのラブレターをどうするかだよ」


「どうするって…行くしかないだろ常識的に考えて」


「ええ…? 嘘告されるかもしれないのにわざわざ屋上に行くの? それだとあいつらの思うツボじゃないか?」


「そうだなぁ…まずは相手がどういう娘なのか見てみようぜ? で、どう見てもお前に告白しそうにない娘なら嘘告確定という事で断る。お前に告白してきそうな娘なら告白を受ける。それでどうだ? これはもしこのラブレターが本物だった場合を考慮しての事だ。告白をすっぽかしたんなんて事が女子に知れたら武光は女子連中から総スカンにされるぞ」


「うーん…」


 確かに康太の言う事も一理ある。このラブレターがもし本物だった場合、告白を無視すればめんどうな事になりかねない。女子のこういう時の結束力の強さは異常だからね。


「はぁ…行くしかないのか」


「吉報期待してるぜ!」


「自分が当事者じゃないからって簡単に言ってくれちゃって…」


 康太とそこまで話したところで担任の先生が教室に入って来た。担任の先生が点呼を取り始める。僕は一旦康太と話すのを止め、SHRの方に集中することにした。



○○〇


ラブレターを貰った主人公、今後どうなる?


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