幼馴染の彼氏からの洗礼

 告白した次の日も学校があったので僕はいつも通り登校した。神様…というか神社の神聖パワーに僕の精神が清められたかどうかは知らないが、フラれた翌日なのに僕の精神はさっぱりとし、気力に満ち溢れていた。憂鬱な気分は一切なく、むしろ早く学校に行きたくて仕方が無い。


 もちろん自称神様から貰った胡散臭い勾玉も身体に身に着けて学校に登校した。


 自分の教室に着くとすでに前の席には康太が座っていた。僕は窓際の1番後ろの席で、所謂「陰キャ席」と言われている所に座っている。個人的には授業が退屈な時は外を見れるし、目立たないし結構いい席だと思ってるけど。


 そしてその前の席が康太の席だ。何故かは分からないが…彼とは席替えで絶対に上下左右のどこかの席同士になるのである。4月は右隣、5月の席替えでは僕の後ろ、6月は左隣、そして今月は僕の前の席になった。


 この康太との妙な縁も僕が彼の言葉を信じて告白に踏み切った理由の1つかもしれない。


「おはよう!」


 僕は自分の席に着くと元気よく康太に朝の挨拶をした。


「おっす武光! その顔は告白に成功したか?」


「ううん、失敗したよ」


 その言葉を聞いた康太は椅子からズルリと転げ落ちる。大げさなリアクションだな…。


「ガチで!? お前何でフラれたのにそんなにさわやかなの?」


「何でだろう? 自分でも良く分からないや」


「空元気って奴か? 悲しい時は素直に『悲しい』って言っていいんだぞ」


「うーん…僕の今の気分は凄く晴れやかだよ」


「そ、そうか…」


 康太はフラれたにも関わらずケロッとしている僕に若干驚いていたようだったが、すぐにいつもの人懐っこい顔つきに戻ると昨日の詳細を尋ねて来た。


「何でフラれたんだよ? 俺の調べによると脈はあったはずだぜ?」


「すでに付き合ってる人がいるらしいよ」


「柏木さんが誰かと付き合ってるなんて話初めて聞いたぞ? 誰と?」


「ウチのクラスの横浜だって」


「横浜ぁ!?」


 康太が明らかに不愉快そうな顔つきに代わった。何を隠そう彼も横浜の事が大嫌いなのだ。入学してすぐの頃、横浜が康太の顔を不細工だと笑いものにしたので嫌いになったんだとか。


 一応言っておくが康太の顔は別に不細工ではない。愛嬌のある顔だ。そりゃイケメンの横浜に比べると落ちるだろうけれども。


 康太はため息を吐きながら机に肘をつき、手で顔を支えて言葉を続けた。


「よりにもよって横浜かよ…。あいつ全くいい話聞かないぜ?」


「仕方ないよ。女の子に人気があって更にイケメンだもん」


「いやさ。横浜って彼女をとっかえひっかえしてるって知ってるか? 入学してからもうすでに5人ぐらいの女の子をヤッては捨て、ヤッては捨てしてるらしいぜ? 仲間内でどれだけ女の子が早く落ちるか賭けるゲームをしてるとか言う話も聞くし…多分柏木さんも…あっ、スマン」


「別に気を使わなくてもいいよ」


 おそらく康太は仮にも僕が好きだった女の子の事を「ヤリ捨てにされる」という脳破壊的な文言を言ってしまった事に罪悪感を感じたんだと思うが、今の僕には早苗に対する気持ちなど綺麗さっぱり無くなってしまっていた。あれだけ好きだったのに…不思議だ。


 ちなみに康太には例の神社での出来事は黙っておいた。多分言っても信じて貰えないと思うし。


「絶対柏木さんはお前の事好きだと思ってたんだけど…。なんで横浜と…」


「終わったことは仕方ないさ。切り替えて次にいこう」


「なんかお前強くなったなぁ…。一皮剥けたって感じ?」


 そこまで話したところで始業ベルが鳴り、担任の先生が教室に入って来て点呼を取り始めた。僕と康太は話を一旦中断して朝のSHRショートホームルームの方に意識を向けた。



○○〇



「おい佐伯、ちょっと顔貸せや」


 1限目が終わった休み時間、僕にくだんの横浜が話しかけて来た。いったい僕に何の用だろうか? 俺の彼女によくも告白しやがったなとかそんな感じか?


「武光はお前に用なんか無いってよ」


 康太が露骨に横浜を威嚇するが、僕は彼の言葉を手で遮った。


「なんか用かい? 横浜」


「ちょっと教室の外まで来い」


 僕は席を立つと彼の後に着いて行った。


「武光…」


「大丈夫」


 康太が心配そうな目で見てくるが、どうせ横浜には嫌味を言われるだけだろうし個人的にとっとと終わらせた方が良いだろうと判断したのだ。


 うーむ、以前の僕ならここで臆していたと思うが…やはり神社の神聖パワーのおかげだろうか? 全く怖くなかった。


 教室を出て廊下に行くとそこには早苗もいた。やはり昨日の告白の件で色々言われるらしい。


「佐伯、お前さぁ…人の女に何やってくれちゃってんの?」


「ごめんごめん。2人が付き合ってるの知らなかったんだ」


「あっそう、じゃあこの機会に教えといてやるよ。俺と早苗は今付き合ってんの。それはもうラブラブ、なぁ早苗♡」


「ねぇ秀君♡」


 早苗は愛おしそうに横浜の腕に抱き着く。好きだった女の子が別の男に媚びを売る。オスとして完全敗北…もっと言うと見る人が見れば脳破壊されそうな光景だったが、僕は不思議と何ともなかった。やはり彼女への気持ちは完全に冷めてしまったようだ。


「ごめんって、もう2人には関わらないよ」


「ハッ! 第一お前みたいなカスが告白したってなびく女なんていねえだろうに…。もっと自分を鏡で良く見てみろよ。早苗も可哀そうになぁ、お前と幼馴染というだけで好意を持たれて告白されて…。人生の汚点だろうよ」


「ホントよ。しかも人の誕生日に告白してくれちゃって…もう最悪だったわ。でもそのあと秀君に慰めて貰ったから結果オーライかも♡」


「ハハッ、嬉しい事言ってくれるねぇ。ほら、早苗」


「んんっ、秀君/// チュッ♡」


 2人はそう言いながら僕の目の前でキスをした。うわっ、舌まで入れてる。ディープキスと言う奴だな。彼の言った通り2人の仲はもうかなり深いところまでいっているらしい。だが僕にとってはもうどうでもいい事だ。


「話はそれだけ? もう戻ってもいい? 僕次の授業の準備しなきゃならないんだけど」


「んちゅ、待てよ佐伯。お前人の彼女に迷惑かけといて何もせずに帰る気かよ?」


 横浜は早苗から口を話すとそう難癖をつけて来た。


「土下座しろや土下座ぁ! 人の女にとんでもなく不快な思いをさせたんだから土下座するのが当然の道理だろうがよぉ!」


「そうよそうよ。謝罪しなさいよ!」


 横浜はニヤニヤと笑いながら下卑た顔で僕に向かってそう言い放った。めんどくさい奴だなぁ…。前々から嫌いだったけどもっと嫌いになった。こんな性悪な奴に惚れる方もどうかしている。


 僕はあんな女に惚れていたのか。長年幼馴染として一緒に過ごしてきて彼女の性格は分かっているつもりだった。少々口の悪い所はあるが、物事の善悪は弁えていると思っていた。


 しかし現実はこうである。僕に人を見る目が無かったのだ。少し自分の情けなさに自己嫌悪をした。


 …いや、逆に考えよう「クズな女を引き取ってくれてありがとう」と思った方が良い。所詮これはクズとクズがくっついただけの話だ。彼女は最初から僕の様な人間にはふさわしくなかったのだ。彼女のようなクズと付き合わなくてむしろラッキー。


 僕は膝をついて頭を下げると横浜にこう言った。


「ははぁー! 横浜様、柏木と付き合ってくれてありがとうございます」


「なんじゃそら? お前何で俺に礼言ってんだよ。脳破壊されておかしくなったのか?」


「もういいでしょ秀君。こんなゴミほっときましょ」


「そうだな早苗。じゃあな佐伯、2度と早苗に近づくんじゃねえぞ!」


 そう言うと2人は抱き合いながら教室に戻っていった。


「さて、僕も戻るか」


 僕は気分を切り替えて次の授業の準備をすることにした。連れ出された僕を心配した康太が色々話しかけてきたが、僕はあのクズたちの事は本当にどうでも良かったので適当に彼の言葉に相槌を打った。



○○〇


次回いよいよヒロイン登場です。

あと、当然ですが2人はざまぁされます。


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