神社から神様が出てきた

 僕はトボトボともう暗くなった道を家に向かって歩いていた。僕が住むこの町は田舎なので都会のようにそこら中に街灯があるわけではない。数十メートルおきに1本あるだけである。なので夜道は非常に暗いのだ。


 今は季節が夏と言っても流石に20時を過ぎれば日が沈んで暗くなる。僕はそんな暗い道をなんとか目を凝らしながら帰宅していた。


 でも家に帰ってもどうしよう…? 早苗にフラれてから頭も心もパニック状態で落ち着かない。


 よくドラマなどで主人公が「どこか遠くへ行ってしまいたい」と言っていた気持ちが今なら良く分かる気がする。おそらく誰も知っている人がいない所へ行って気分をリフレッシュさせ、リスタートを切りたかったのだろう。今の僕も同じ気持ちだった。


 心ここにあらずと言った感じで僕はヨボヨボと歩きながら帰り道を進んでいく。僕がフラフラと歩きながら帰っているとその道中の右手側に寂れた神社が見えた。あそこは…。


 自宅の近所にある神社で僕が子供の頃はまだ綺麗だったのだが、神主さんの一族が断絶したとかで、その後引き取ってくれる人もいなく荒れ放題になっている実質廃神社であった。


 祀神も何を祀っているのか知らない。おそらくお年寄り連中に聞けばわかると思うが、僕はあまりそんなことには興味が無かった。


 その時の僕は早苗にフラれたショックで頭がどうにかしていたのだと思う。なんとなく…その神社に寄ってみたい気分になった。どうせ帰ってもやることは無いし、何より彼女にフラれてざわついた心を静めたいというのがあった。


 神社というのは神聖な清められた場所だと聞く。その清められた場所ならば…僕のこの荒れた心を静められるのではないかと考えたのだ。まぁ…この全く手入れのされていない神社が清められているとは思わないが、それでも自宅よりかはマシだと思えた。

 

 荒れ放題の長い雑草を必死に避けて僕はなんとか神社の本殿までたどり着いた。廃神社になったとは言っても賽銭箱や本坪鈴ほんつぼすず…あの神社に参拝した時にガラガラ鳴らすやつである…はそのまま残っている様だった。


 僕は学生カバンを賽銭箱に立てかけ、神社の本殿の階段に座り一息つく。そしてボーっといつもとは違う景色を眺めた。雑草の生い茂る境内、樹齢何年か分からない立派な太い大木、少し顔を上げると綺麗な夜空に瞬く星と月が見えた。えっと…どれが夏の大三角だっけ?


 耳を澄ませると夏の虫が鳴く音や蚊がプ~ンと飛ぶ羽音が耳に聞こえてくる。いつも僕が見て、感じている景色とは違う景色。何故かは分からないけどそれらを見ることによって、ささくれ立っていた心が少しだけ平らかになったような気がした。


 少し落ち着いてきた僕はそのまま神社の本殿の階段に座りながらこれからの事を考える。


 …明日からどうしようか? …康太にはどう説明しよう? 早苗とは…もうあまり関わらない方が良いよな。彼氏がいるし、あんなこと言われちゃったし…。


 僕はポケットからスマホを取り出すと彼女のreinアドレスを削除した。さようなら早苗…。


 気付けば彼女のreinアドレスを消した僕の目には涙があふれていた。あぁ…僕の初恋は失恋に終わってしまった。彼女とは仲が良いと思ってたんだけどなぁ…。そう思っていたのは僕の方だけだったのか…。


 僕は神社の本殿でひとしきり泣いた。



○○〇



 30分ぐらいたっただろうか? 涙をしこたま流した僕は気分が晴れ晴れとしていた。少し前までとは違い、絶望に染まった気分ではなくスッキリやる気に満ち溢れている。


 神社の神聖なパワーが僕の気持ちをスッキリさせてくれたのかもしれない。


「幼馴染にフラれたぐらいで何だ! 僕は早苗以上に可愛い彼女を作ってやるぞ!」


 僕はそういきり立ち、月に向かって宣言した。不思議なぐらい今の僕は気力に満ち溢れている。


 …とその時、僕のスマホに母親から「どこにいるの? 早く帰ってきなさい」というメッセージが入った。


 時計を確認するともう20時半である。いつもならとっくに帰宅している時間だ。早く帰らないと…。僕は急いでカバンを持つとその神社からでようとした。…しかし。


「気分をスッキリさせてもらったのに何もしないのは恩義に反するよな」


 神社の神聖パワーが原因…かどうかは分からないが、ここで僕の気分がスッキリしたことは事実だ。なので僕は神様へのお礼としてお賽銭を投げ入れることにした。


 財布の中には500円玉が1枚だけ。今月はまだ小遣いをもらっていないので、これを投げ入れてしまえばしばらく買い物はできない。


「まぁいいか」

 

 僕は自分の気分をリフレッシュさせてくれたお礼としてその500円玉を賽銭箱に投げ入れ、本坪鈴を鳴らし二礼二拍手一礼をする。神社に参拝する時の作法だ。


「(神様、僕の気分をスッキリさせてくれてありがとうございます。あ、あとついでにお願いするのですが、僕に可愛い彼女を下さい!)」


 …少し強欲だったかもしれない。


 しかし僕が神様にお礼とお願いをしてから目を開けると、神社の本殿の中に先ほどまでいなかった老人が立っていた。僕はいきなり現れたその老人に驚く。


 その老人は床まで届く白い髪を垂らし、髭はお腹のあたりまで伸びている。傍から見ると完全に不審者だ。だがその老人からは不思議と不潔さは感じられず、むしろ逆に神聖な雰囲気を纏っている様に感じられた。


 誰だ? さっきまでこんな人はいなかったぞ…。


「ほっほっほ…。少年よ。彼女が欲しいか?」


 その老人はあろうことか話し掛けて来た。僕は困惑しながらもそれに返答する。


「え? ええ、欲しいです。えっと、その…あなたは?」


「わしは神じゃ! しかも縁結びの神であるぞよ!」


「縁結びの神様!?」


 かなり疑わしい存在ではあるが…、この老人から神聖な気配を感じるというのも事実である。もしや本当に神様なのか?


「少年よ。ちょいと近うよれ。お主にとっておきの物をやろう」


 自称神はそう言って僕に手招きをする。僕は半信半疑でその神の手招きに従い、彼に近づいていった。そうすると神様は僕の首にネックレスのようなものをかけた。ネックレスの先っぽには青い勾玉のようなものが付いている。


「それはな…つけた者が美少女に好かれるという神具じゃ!」


「えっ? そんな凄い物を僕に…?」


「ただし、ヤンデレの美少女限定のな」


「どうしてヤンデレ限定なんですか!?」


「贅沢言うな。美少女にモテるというだけでも良いじゃろ?」


「えぇ…」


「説明を続けるぞい。その首飾りを付けたものはヤンデレの美少女に好かれるが…気を付けなければならぬのが、もしその美少女の期待を裏切るような事をすれば…お主は包丁で刺されることになるぞ!」


「それって神具って言えるんですか!? むしろ呪物に近いような…」


「だまらっしゃい!!!」


「………」


 僕は限りないうさん臭さをそのネックレスから感じたが、まぁせっかくくれたものなのでつけておくことにした。


「…ありがとうございます。神様…こんな素敵な物を頂いて…」


「うんうん、少年よ青春を存分に楽しみなさい。お礼はまたお賽銭でいいぞい」


「はぁ…」


 神様はそう言うと神社の本殿の奥に消えてしまった。うーん、なんか悪徳商法にかかった気分だ。


 時間も遅かったので、俺はその首飾りをつけて帰宅することした。



○○〇


さて、主人公は胡散臭い自称神様から宝具を授かりました。今後どうなっていくのでしょうか。


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