勇者パーティの仲間がちょっとおかしい

加加阿 葵

勇者パーティの仲間がちょっとおかしい

  何かがおかしい。

  というか全部おかしい。

 


 ここはダンジョン。王都を出てすぐにある遺跡型のダンジョンだ。


「ねえ、みんな? 俺達ってまだ旅に出たばっかだよね?」


 俺、勇者は仲間に声をかける。


 仲間の一人吟遊詩人が返事をする。


「何言ってるんですか勇者さん。当り前じゃないですか。我々は国王から魔王討伐の依頼をされて旅に出たばっかりですよ」


「いや、それはそうなんだけど。何というか違うのよ」


「何が違うの?」


 踊り子が会話に入ってくる。


「いやさ、まだ最初のダンジョンなわけじゃん? なのに君たちが使ってる技何?敵が塵になってるんだけど。変な装備つけてるし、どっから出てきたのよその装備」


 ってか、なんだよあの吟遊詩人が着てる装備。四捨五入したら裸だから。なんか着ろよ。


 楽器持ってるのに、素手で敵を殴殺してる。


 踊り子に至っては四捨五入しなくても裸だよあれ。あの布面積で何から身を守れるんだろ。なんか着ろよ。


 しかも扇で戦ってるし、扇って武器なの?




 ――吟遊詩人と踊り子が仲間ってなんだよ。


 もう魔王倒しに行く気ないでしょ。雑技団かなんかと間違えられるよこれ。




「まあ、細かいことは気にしなくてもいいじゃないですか。旅が順調なのは良いことじゃありませんか」


「そうよ、気にせず進みましょ」


 

 気にしないの無理でしょ。



「おい、隠し通路はここだ」


 勇者パーティ最後の仲間、鍛冶師が通路の途中で止まる。


「ねえ、隠しの意味知ってる? ここ初めて来たダンジョンだよね? 隠しってなんでわかるの?」


 鍛冶師って戦闘職じゃないよね?


 いよいよ魔王倒しに行く気無いじゃん。――装備ふんどしだし。なんか着ろよ。


 

 鍛冶師は呪いの武器しか作れないから修理専門らしい。


 あの気持ちの悪い形の楽器とか、禍々しい模様の扇とか修理するの? ほんとに?


 俺なんて武器木の棒だけど修理してみる?



 なんでみんなそろいもそろって裸みたいな装備なのさ。王様ドン引きしてたよ?


 え、これが勇者パーティ? ってなってたよ。


「こっちが近道だ、行くぞ」


「俺の質問無視かい」



 なんだかんだダンジョン最下層ボスがいるフロアに来た。


 たくさん通路あったのになんで迷子にならないんですかね。


 


 ボスと対峙する。大きな鋏を持った蠍のモンスターだ。かなり強そうだ。


 ボス戦の結果は見ての通り。


 踊り子のわけわからん威力の技で塵にされたボス。


 それにしても一撃って。


 かわいそ。



「ねえ、なんでそんなに強いの?」


「弱いよりいいじゃない」


「そりゃそうだけど」




  絶対おかしい。




 そこからの旅は順調そのものだった。無双といっても過言ではない。




 路銀稼ぎの迷子探しの依頼では、最初からここにいるのがわかってたかのように見つけるし。


「ねえ、もうちょい苦労して見つけよ?せめて聞き込みするとかさ。なんで場所わかるの?」




 隠し宝箱はめっちゃ見つけるし。


「だからさ、隠しの意味知ってる? これは隠されてるの! OK?」




 転職できる神殿を素通りするし。 


「まってまって! せめて僧侶には誰かなろ? 誰か怪我したらどうするの? ――なんで、え? ケガするの? みたいな顔で見てくるの? おかげさまでしてないけども」




 魔物に襲われてボロボロになった村に行った時も、動揺もせず行動するし。


「ねえ! どうせ敵のところに行こうとしてるんだろうけど、せめて何があったか聞こうよ。何。俺抜きでここ一回来たことでもあるの? 村すごい惨状だよ? そんな地獄なんてすでに通ってきました~みたいな感じで歩かないで。あんたたちほぼ裸なんだよ!? だからなんで敵の場所知ってんの?」




 仲間になりそうな魔物も無視するし。


「仲間になりたそうにこっち見てるよ! いらない? なんでよ。――ねえ、踊り子の魅了であいつ仲間にしようよ! え? いい年だから踊り子じゃなくて踊り大人ですって? やかましいわ」




 聖剣が祭られてる村も素通り。


「俺って勇者じゃなかったっけ? 聖剣いらない感じ? ん、なに? これ使えって? カースデスソード? 呪いの剣って勇者の俺持っちゃダメでしょ! 状態異常【即死】って。――ねえ、これって装備者につく状態異常じゃないよね? 切った敵につくんだよね? どっちでもいやだよ返すよ! あれ? 手から離れない。ねえ、これって。あれ? みんな?」




 カジノのスロットを何かに取り憑かれたかのようにやってるし。


「あの? 聞いてます? 魔王倒しに行きたいんですけども。もう一週間ぐらいその席いるじゃん。え? 水着装備が交換できる? 俺達魔王倒しに行くんだよね? 男性用!?」




 なんかの格闘大会では大会無敗の絶対防御のなんとかってやつ瞬殺してるし。


「あの人防御硬すぎて血も流したことないらしいよ? 矛盾ここに成立せずってあなたいつから最強の矛になったのよ。せめて殴りじゃなくてその自慢の楽器使えよ。優勝賞品バニー服!? 大会の主催者キモいな」




 雪山も通った。


「みんなその装備で寒くないってうそでしょ? おれめっちゃ寒いよ? まってまって攻撃しないで! アイツ塵になっちゃうでしょ! 俺が倒して毛皮もらうよ。――よし、即死だね。え、この即死の剣鍛冶師がつくったの? 確かに呪いの武器しかつくれないって言ってたね」



 はい、着きました。魔王城。



 今、みんなかっこつけてます。




「やっと着いたな魔王城! 覚悟しとけよ魔王!」


 あんたがスロットやってなかったらもっと早く着いてたよ。


 ふんどし装備だからカジノから出てきた時の「ああ、この人破産して服まで取られたんだ」みたいな視線すごかったぞ。なんか着ろ。






「魔王を倒してその伝説を詩にしましょう」


 せめて楽器使ってから言ってよ。もう、楽器をアイテム袋にしまっちゃってるじゃん。


 ってかなんで男性用水着着てるの? もらった?






「私のとっておき見せちゃうわよ」


 え? とっておきあるの?


 おい。いつの間にバニー服になってんだ。魔王城の禍々しい雰囲気台無しじゃん。


 もう、すでにふんどしと水着がいるから今更ではあるけど。






 「俺は何もしないでここまできちゃったなあ」


 村や町を救う度に「ありがとうございます勇者さま」って言われるの、どういう顔していいかわかんなかったよ。


 俺はちゃんとした服着てるよ? 家出た時から着てる服ね。なんか防具屋寄ってくれないんだよね。




 魔王城には魔王直属の部下、四天王がいるらしい。ってかいま目の前にいる。


「我の名は青龍」


 うわ、絶対強い。これ俺達も名乗った方がいいのかな?




 いや、もうぼこぼこになってた。


 バニー服で良く戦えるね。ピンヒール動きにくいでしょ。


 ピンヒール買うために扇売ってたもんね。ちなみにピンヒール武器じゃないよ?



「青龍がやられたか。まあ、やつは四人の四天王の中で最も最弱。次はこの俺ヌンチョバが相手しよう」



 頭痛が痛い構文のダブルパンチだ。これはかなりの威力だ。

 四天王って言ったら普通玄武とか白虎だろ。お前誰だよ。



 ああ、殴られてる。あの人なんで素手で戦うの?


 楽器使ってるとこ見たことないんだけど。楽器使わないにしても、弓とかあるじゃん?



「ヌンチョバまでやられたかい」


「まったく、四天王が聞いて呆れるよ」


「最後はあたしら金と銀が相手をしてやる」


 ペアなんだ。じゃあギリ三天王なのでは?


 うわ、鍛冶師ってああやって戦うんだ。初めて見た。


 見えちゃいけないとこも初めて見た。ふんどしだし見えちゃうよね。絵面キモ。





 魔王のいる部屋につきました。


 途中洗濯物干してある部屋があったり、通路に節電の張り紙はってあったり、変に生活感あったんだけど。雰囲気!!!




「よくぞここまでたどり着いた勇者よ」


 コバンザメのようについてきただけですけどね。ついてきただけだから経験値ぜんぜんもらえなかったよ。



「おい、見てみろアイツが魔王だってよ! ほぼ裸じゃねーか!!」


 鍛冶師は鏡を見た事がないらしい。



「私は人間界を征服しその頂点に立つのだ! 邪魔をするな!」


 言ってる意味普通にわかんないんだけど。

 多分病気だねこれ。頂点に立ち世界を導いてやろう病だね。



「ほう、見た感じなかなかの戦闘力だ。少しは楽しめそうだ。簡単に死んでくれるなよ!!」



 俺の方見てないんだけど。勇者俺だよね? 違ったっけ?



 魔王との戦いが始まる。

 いつどんな技が来るか完全に見切った動きをしてる。

 俺の仲間めっちゃすごい。


 普段魔王と手合わせでもしてたってくらい見切ってるじゃん。




「うおおおおお! アルティメットパンチ!!!」


 技名だせえ。だから、吟遊詩人だろ楽器使え楽器。

 もうそれはただの水着着てる人のパンチなんよ。






「食らいなさい! バニーキック!!」


 だせえ。それがとっておきじゃないよね?扇で戦ってた方が強かったよ?

 あ、でもちょっと効いてる。ピンヒールだから痛いよなそりゃ。






「おりゃあ! 岩鉄流奥義!! 鳴動瓦解!!!」


 だっ…さくない!え、技名ダサい流れじゃん。


 うわ、すんごい。四天王戦でも思ったんだけど鍛冶師ってみんな金床持って戦うの?


 魔王も小槌じゃなくて金床!? って思ってるよ絶対。



 仲間たちの技を受け、魔王が体勢を崩す。




「「「今だ! 勇者!」」」


 仲間たちの声が重なる。


 魔王は元々こっちを見ていない。見ろよ! いや、俺弱いから見るな!


 確かにチャンスだ。千載一遇といっても過言ではない。




 魔王に向かって走りだし、滑り込みながら脇腹を切りつける。




「はっはっは。なんだその攻撃は! 虫にでも刺されたのかとおもっ…ぐはっ!」


 魔王が急に苦しみだし、口から泡を吹き出して倒れた。



「え、あの……魔王さん?」




 反応がない。


 


 急に医者ムーブを始めた吟遊詩人が首に手を当てたり、瞳孔を確認している。

 調べ終えると魔王の部屋の外で待機していた使用人たちのとこに行き

 「お亡くなりになりました。眠るように旅立たれたようですね」と死亡宣告する。




 絶対こいつサイコパスじゃん……。



 てか、即死の状態異常って魔王にも効くの? 効いていいの?




「やったな勇者!」

「さすが勇者ね」




 もう、勇者って言葉が煽りに聞こえる。




 まあ、世界は救えたし別にいいか。






 真っ暗になる。




 人の名前が下から上へ流れていく。


 その背景には今までの冒険の記憶が映し出されていく。絵面がキモい。






―――




「ふう。主人公以外強くてニューゲームって斬新なモードがあったからやってみたけど、会話が一週目と違ってかなり変わってて面白かったな」




 コントローラーを置き、男はつぶやく。


「戦闘職じゃない職業にしてネタ装備で始めても会話が変わるし、かなり細かいとこまで作られてるゲームだな」


 このゲームは最初の町で仲間をスカウトするシステムだ。


 この男は、戦闘職以外の職業のキャラをスカウトして始めたのだ。


「でも、主人公の勇者以外ステータス引継ぎだから、あっけなく終わったな」


 ゲームを進めると最初の町にいるキャラも強くなり、二週目以降、強い状態のキャラをスカウトできてしまうのだ。




「やっぱゲームは初見で、少し不自由があるくらいが面白いな」






 これは、強くて儚いニューゲーム。泡沫の物語である。


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