生きる資格なし

第1話 はじめに

その男の写真を3回見たことがある。

1度はその男の子供時代の写真。おそらく10歳前後の頃の写真だ。

その写真は、庭園の池のほとりで大勢の親戚の女性に囲まれ、その子供は首を30°ほど左に傾けて、”醜く”笑っていた。

子供の可愛さなんて全く分からない人たちは、特に表情も変えず

「可愛いお子さんですね」とかいい加減なお世辞を言うだろう。

まあ、それくらいの子供らしさを残しながら笑っているのだが。

少しでも子供の可愛さがわかる人ならば、一瞬見ただけでも

『なんて嫌な笑顔なんだろう』

と心の中で思いながら、その写真からすぐに目を逸らすだろう。

その笑顔をよく見れば見るほど、なんとも言えない、嫌な感じ…

薄気味悪さまで感じてくる。

そもそもその子供は笑っていない。

なんでかって？

その証拠にその子供は両手の拳を強く握っているだろう？

人間は拳を強く握りしめながら笑えるわけがない。

そう、これは作り笑い。ただただ顔にシワを寄せているだけ。

しかも拳を力一杯握りながらだ。こんなチグハグな写真を見たら、

子供の本物の笑顔を見たことがある人には”醜く”見えてしまう。

こんな不思議な表情の子供を見たことは1度もなく、すごく印象に残っている。