第46話

「お、オカ研を廃部って……、どういうことですか……?」


 俺の質問に、部長は至って冷静に答えた。


「どうもこうも、そのままの意味だよ。オカ研を解散して、活動を停止しようと言ってるんだ」


「言葉の意味は分かりますよ……!そうじゃなくて、どうして急に廃部にしようと思ったのか聞いてるんです」


 俺には部長がなんでそんなことを言い出したのか見当もつかなかった。

 つい先日、竜宮城でのバカンスを大いに楽しんだばかりだというのに。


「……別に、一人でも異世界を探求することはできると思っただけさ。実際ライトが入部する前は一人でやってたわけだし、今はアユリスもいるからオカ研で活動する必要はないだろう」


「そんな……」


 心臓が鉛玉になって、腹の底に落ちていくような感覚がした。

 自分でも驚くくらいショックだった。悲しいとかムカつくとか、そんな単純な言葉では表せない複雑な感情が渦巻いている。


 そんな気持ちが表情に現れていたのか、俺を見た部長は慌てた様子で少し補足を加えた。


「ちょ、ちょっと待て!別にライトのことが用済みだから切り捨てたとか、そんなつもりじゃなくて……」


 はあ……、とため息をつくと部長は観念したように言葉を続けた。


「正直に言うと、ライトにもう迷惑をかけたくないと思っただけだよ……。今更そんなことを言うのかと思うかもしれないけど……」


「ええ!!?そうなんですか!!」


 衝撃の告白に思わず声を上げてしまった。


「な、なんだよ!まるでボクが他人を思いやる心のない化け物だと思ってたみたいな反応は!」


「別にそこまでは……。いや、ちょっとは思ってましたけど……」


 協調性が皆無、くらいの認識だ。


「……はあ、もういいよ。それで、ライトはどう思うんだ?」


「え?」


「え?じゃないよ。オカ研の廃部に賛成なのか反対なのか聞いてるんだ」


「ああ……。そうですね……」


 俺は俯いて考えるふりをしたが、返答はだいたい決まっていた。


「俺は……反対ですよ」


「なんで?」


「なんでって、そりゃあ……」


 実は自分も楽しんでいたから、と素直に答えるのはなんだか恥ずかしい。

 なので、少しごまかしてみることにした。


「ほら、あれですよ。最近アビルくんが入部したばかりじゃないですか?それですぐに部が解散したら、男女間の痴情のもつれで廃部になったんじゃないかと周りに思われるかもしれません」


「はあ?」


 部長は納得いかない様子だった。

 安心してください。自分でも意味分かんないことを言っている自覚はあります。


「別にそんな風には思われないと思うけどなあ」


「いいや、絶対そうなります。部長は知らないと思いますけど、オカ研って悪い意味で結構注目されてますからね。突拍子もない噂話が広まるのなんて一瞬ですよ」


「そうかあ?」


「そうですよ」


 まあ、この主張自体はあながち間違ってはいない。

 オカ研に所属していると知られたせいで、クラスメートから奇異の目で見られたことは少なくない。


「……はあ、分かったよ。そこまで言うならこの話は保留だ」


「その方がいいと思います」


「よし、それじゃあ宿題を再開しようじゃないか。さっさと終わらせるぞ」



 そうして俺たちは再び黙々と宿題を進めた。

 結局作業は夜までかかって、その後に近くのファミレスで晩飯をおごらされた。

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