第42話 大成功
長い長いウォータースライダーは、途中でぐるぐると螺旋を描いたり、傾斜が急になったりしたのだが、あいにく今の俺たちにそれらを楽しむ余裕はなかった。
本当に鮫たちから逃げ切れたのかという不安と、勢いで身体を密着させたは良いものの、離れるタイミングが分からないという恥ずかしさで、ただただこの滑走がいち早く終わることを願うばかりだ。
「……なあライト」
「はい?」
不意に部長がつぶやいた。
「……いや、やっぱり何でもない」
そう言うと部長はスッとそっぽを向いてしまった。
なんだろう、いつまでくっ付いてんだヘンタイ!とでも言いたかったのだろうか。
すみません。
今離れると危なそうなんでもう少し我慢してください……。
〇
最後のフィナーレだと言わんばかりに急カーブが連続した後、出口の光が見えた。俺と部長は高速を保ったまま、1階のプールへ排出された。
鼻に水が入った痛みで、俺は慌てて水面に顔を出す。
隣を見ると部長も同じような状況みたいで、ゴホゴホとせき込んでいた。しかし、他に身体的な異常はないようなので一安心だ。
「……よし、行くぞ。まだ安心するには早い」
呼吸を整えた部長は、プールサイドに向かって歩き出した。
忙しないがその通りだ。時間稼ぎに成功しただけで、まだ完全に身の安全が確保されたわけではない。
俺が部長のあとに続こうとしたその時、視界の前方に違和感を覚えた。
プールサイドの上で、たくさんの黒い影が蠢いているように見えたのだ。
部長もそれに気づいたようで、同じ方向を訝しげに凝視している。
不思議に思って目を細めた瞬間、
カッ
という軽快な音と共に視線の先が強烈な光で照らされた。
そして……、
「「「ドッキリ、大成功~~~~~~~~~~~~~~!!!!」」」
「………………………………は?」
俺と部長は、呆然とその光景を眺めることしかできなかった。
群衆の中央にはでかでかと「ドッキリ大成功!」と書かれた横断幕が掲げられ、その下で大勢の魚人たちが明るい音楽に合わせて踊り回っている。
そして何よりも衝撃だったのは、スポットライトの中央、最も目立つ場所に死んだと思われた乙姫様とアユリス様が笑顔を浮かべながら立っていたことだ。
アユリス様なんかは、のん気にこちらに向かって手を振っている。
……そう、鮫魚人の暴走から始まる一連の騒動は、すべて始めから仕組まれていたことだったのだ。
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