第17話 出発
リュックにまとめた荷物を背負って俺は集合場所となっている最寄り駅へ向かった。
部長の目的の廃村はそれなりに遠い場所にあり、電車を三本ほど乗り継いだ後、バスで約30分、さらにそこから山道を徒歩で小一時間程度進んだ場所にあるらしい。
男子高校生2人と女子高生1人が山奥の廃村に宿泊だなんて、字面だけ見れば犯罪の臭いがプンプンするが勘違いしないで欲しい。被害者はこっちだ。
駅前に到着すると意外にも、部長とアビルくんの両方が揃っており、なにやら談笑している様子だった。
部長なんかは絶対遅刻して、電車を1、2本遅らせることになるだろうと思っていたが、それだけ彼女にとって今回の小旅行が楽しみなんだろうと解釈した。
「あ、おはようございます。ライトさん」
「遅いぞーライト。オカ研の一員としての意識が低いんじゃないか?」
「……べ、別にいいじゃないですか……。まだ集合時間の十分前ですよ……」
いつもと変わりない二人にぎこちなく返答する俺。
これは完全にこちらの落ち度なのだが、アユリス様から部長の両親の話を聞いてから、若干部長と話すのが気まずい。
部長が普段通りであればあるほど、俺の中に芽生えた罪悪感が浮き彫りになるような気がしていた。
「それじゃ、そろそろホームへ行こうか」
◇
修学旅行へ向かうようなワクワク感は三本目の電車に乗り換えたあたりから完全に消え失せていた。
はじめはテンション高めに窓の外の景色を眺めていた部長も次第に元気がなくなり、ついには「着いたら起こしてくれ」と言い残して本格的に寝入ってしまった。
人の少ない電車内のボックスシートで、俺の対面には爆睡中の部長、隣にはアビルくんが座っている。
先程まで部長とは対照的に全く眠く眠くなさそうなアビルくんと当たり障りのない世間話を繰り広げていたが、車輪が線路を叩く心地よいリズムに、とうとう俺もまどろみ始めた時だった。
「今回の旅行、絶好のチャンスだと思いませんか?」
突然隣からそんな声が聞こえた。
「……何の?」
俺がだるそうに返すと、アビルくんはニタニタ笑い、俺の顔を覗き込みながら答えた。
「そりゃあ、ライトさんと部長さんの距離をグッと縮めるチャンス、ですよ」
「はあ……」
全く、こいつはまだそんなことを言っているのか、と呆れてついため息が漏れてしまう。
最近は部長のことばかりであまり気にしていなかったけれど、アビルくんが俺たちをくっつけようとする目的は未だ不明のままだ。
「勘弁してよアビルくん。俺は別に部長と付き合いたいなんて思ってないし、どちらかと言うとうんざりしてるんだ。何が目的か知らないけど、あまり変なことをしないでくれよ」
「ほうほう。あくまで自分たちのペースで恋愛を進展させたいと」
「今の話聞いていた!?」
困惑する俺の様子が面白いのか、アビルくんの笑みはますます濃くなっていく。
なんというか、性格が悪いのが透けて見えてんだよな、この人。
「でも、部長さんにうんざりしているというなら変じゃないですか?それなら、単にオカ研をやめればいいだけの話じゃないですかねえ?」
「……いやまあ、そうかもしれないけど……。でも部長のことだから、なんだかんだ難癖をつけられて、結局やめれない気がするんだよな……」
「そんなことを言って、あなたは結局やめたくないんでしょう?というかそもそも、どういう経緯でライトさんはオカ研に入ったんですか?部長さんが学校の中で浮いているというのは有名な話ですし、入学したばかりのライトさんの耳にも届いていたと思いますけど」
「…………」
確かに、オカ研の原桐子は危険人物だという話はクラスメイトの会話から聞いていた。
ではどうして、基本保守的な行動しかとらない俺が、そんな彼女にわざわざ近づいたのか。当時を振り返ってみても、イマイチ納得できる理由が見当たらない。
もしかすると俺が気付かないうちに、部長に催眠術でもかけられたのだろうか。
『――次は終点、
到着を告げるアナウンスが元々霧がかっていた俺の思考を、さらに有耶無耶にした。
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